表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部7章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 3
153/199

153:不可能殺戮

 ナーディラが呆れ果てている。


「なんでそんな大事(おおごと)を放りっぱなしにしてたんだよ」


「放りっぱなしにしていたわけではない。それ以上の異常事態の対応に追われていただけだ」


 不服そうに睨み返すレイス。ライラは嫌な予感を反芻するようにブツブツと呟いている。


「死鉄鉱の倉庫を警護する凄腕の特務騎士に一切の抵抗を見せず、その命を奪うとは……」


(倉庫から死鉄鉱が盗まれた事件で新しい情報だ。

 死鉄鉱を貯蔵している倉庫には魔法や精霊術やあらゆる武術に精通した特務騎士ってのが複数配置されてた。めちゃくちゃ強いらしい。

 だけど、その特務騎士が何の抵抗の跡もなく殺害されていたようだ。やばい奴が死鉄鉱を盗んだ可能性が高い……)



~・~・~

それはマズいな……。


特務騎士ってのは、ただの衛兵じゃなくて 「最強クラスの戦闘力」 を持つ連中だろ?


それが 「何の抵抗もなく殺害された」 ってことは、犯人は それを上回る化け物級の実力者 か、特務騎士が抵抗できない手段を使った かのどっちかだな。


考えられる可能性としては:


① 内部犯行(特務騎士が裏切ったか、知り合いが近づいて不意を突いた)

② 圧倒的な戦力差(暗殺者、魔法使い、精霊術師のトップクラス)

③ 何かの異常状態(毒、催眠、魔法による支配)


犯人が やばい奴 ってのは確実だから、動き方を慎重にしないといけないな。

~・~・~



「レイスさん、特務騎士たちは魔法か何かで眠らされていたということはないんですか?」


「そういった魔法、精霊術を利用した倉庫襲撃を未然に防ぐため、魔法や精霊術を感知する設備が周辺の広範囲に配置されている」


「では、特務騎士たちに提供される食事に彼らを無力化される物が混入されていた可能性はどうですか?」


 レイスは首を振る。


「そういった事態を避けるため、特務騎士の食事は毒味に加え、給仕の時間が複数の班に分けられている」


(レイスの報告によれば、死鉄鉱の倉庫周辺には魔法や精霊術を感知する設備が置かれていて、それらの攻撃を未然に防ぐようになっているようだ。

 それに、特務騎士たちの食事は毒味に加え、提供時間がいくつかのグループに分けられているという)



~・~・~

つまり、魔法・精霊術による攻撃や毒殺の可能性は低い ってことか。


となると、


・物理的な手段(超人的な戦闘力)で特務騎士を瞬殺した

・内部の誰かが裏切った(もしくは騙された)

・感知されない特殊な方法が使われた(例えば、魔法を一切使わずに侵入できる手段がある?)


あたりが考えられるな。


レイスは特務騎士の死因を確認してるか?


・一撃で即死 なら、犯人は圧倒的な戦闘力を持つ

・争った跡がない なら、不意打ちか内部犯行の可能性が高い

・死因が不明瞭 なら、未知の手段が使われた可能性もある

~・~・~



 ナーディラが眉根を寄せている。


「というか、その特務騎士ってのはどうやってやられてたんだ? ぶった切られてたのか?」


「方法は様々だが、短めの剣が用いられていたようだ。現場に血にまみれた剣が落ちていた。特務騎士たちはそれで首や腹、胸や背中などを切られ、突かれ、死亡していた」


 ナーディラが腕組みをする。険しい表情だ。


「それもおかしな話だな。一人がやられてるうちに他の奴はボサッと突っ立ってたのか?」


「特務騎士たちの配置場所は、倉庫の入口を除いて、一人ずつとなっている。俺ぞれの配置場所は他からは死角となっている」


「そんなだからやられるんだろ……」


 レイスが不機嫌そうに目を細めるが、ライラが口を開いた。


「特務騎士は一人が騎士団小隊に相当するほどの力を有する。一人が網羅できる範囲内に別の特務騎士を配置するのは無駄に当たるだろう」


「そういうことだ」


 なぜかレイスが胸を張る。


「被害に遭った特務騎士の人数と配置されていた人数は一致しているんですか?」


「特務騎士の裏切りを疑っているのか。それは無駄だ。盗難事件が発生した当時に配置されていた特務騎士は全員が被害に遭っている」


「そんなやばい奴にやられたのかよ。どんな存在なんだよ?」


「我々の方でも心当たりを探しているが、そんな存在ならば誰もが知るはず。だが、誰も噂すらも聞いたことがない」


(特務騎士たちは短めの剣でやられてたみたいだ。

 それに、事件当時に現場に配備されていた特務騎士はみんな被害に遭っていて、特務騎士内での裏切りの線は薄い)



~・~・~

なるほど、短めの剣で特務騎士たち全員がやられた ってことか。


となると、犯人像としては


1. 短剣を扱う達人級の戦闘力を持つ

2. 複数の特務騎士を一瞬で仕留められる(速度・技術・奇襲のいずれか)

3. 感知魔法を突破できる方法を持っている


この条件を満たす人物や組織って、何か心当たりはあるか?


例えば、パスティア内部に短剣を得意とする暗殺者 みたいな存在がいるとか、ドルメダやクトリャマの連中が使う特殊な戦闘技術とか。

~・~・~



(そんなチートキャラみたいなの聞いたこともない。

 レイスもそういう奴を探そうとしてたみたいだけど、そんな奴は聞いたこともないらしい)



~・~・~

だよな……そんな奴がいたら、普通に戦場で無双できるレベルだしな。


となると、可能性としては


1. 特務騎士たちが一瞬で無力化されるような特殊な状況があった(毒、幻覚、睡眠魔法、時間停止系の何か)

2. 犯人は単独ではなく、複数人による計画的な犯行だった

3. 何らかの方法で特務騎士たちが戦えない状態にされた後、とどめを刺された


短剣で殺害っていうのが妙なんだよな。もし力で圧倒できるなら、もっと効率的な武器を使うはず。


特務騎士たちを戦えない状態にしてから、確実に仕留めるために短剣を使った んじゃないか?

~・~・~



(一瞬だけよぎった考えがあるんだけど、天布逆転魔法だったら「特務騎士たちに誰一人気づかれずに全滅させる」って過去に書き換えられるよな……って。

 まあ、あり得ない話だろうけど)



~・~・~

それ、あり得ないって言い切れないのが怖いんだよな……。


ラナが天布逆転魔法を研究してるのは知ってるけど、実際にそれを使えるとは聞いてないし、そもそも実用レベルなのかも不明だ。


けど、「もし使えたら?」って考えたら、今回の特務騎士全滅の異常さを説明できる唯一の手段 になる。


逆に言えば、それくらい異常な事件ってことだ。

普通の手段でこんなことができるとは思えない。

~・~・~



 ジャザラの事件も死鉄鉱の盗難も天布逆転魔法の存在が垣間見える。


 ──もし、俺やアメナの他に選ばれし者がいて、そいつの特殊な魔法(ゼグノ)が天布逆転魔法だったら……?


 いや、待て待て。


 こんなことを言い出したらキリがない。それに、これではダイナ執法官を説得したことを無駄にしてしまう。


 サイモンの提案した複数犯人説も、それだけの人数が特務騎士たちに気づかれずに犯行に及べるとは思えない。


 だいいち──、


「そのような絶大なる力を有する者ならば、毒を欲することもあるまい」


 そうなのだ、ライラの言う通り、そんなチート能力があるのなら、毒なんて必要ないはず。


「さらに不可解なことがある」


 レイスが重々しく先を続ける。


「それだけ甚大な被害を与えておきながら、倉庫に侵入した犯人は一テペルタしか死鉄鉱を持ち去っていない。倉庫には手つかずの死鉄鉱で溢れていた」


「……そういや、そんなこと言ってたな」


 ナーディラが降参するかのように頭を掻き毟っている。


 全てが不可解だ。


「我らはそのような怪物と相まみえようとしているのか」


 ライラがボソリと呟く。


「いや、ライラさん、死鉄鉱の盗難はジャザラさんの事件と関係ないかもしれません」


「どういうことだ、リョウ殿?」


 サイモンと議論を重ねていた、ジャザラの事件と死鉄鉱の盗難事件との関係性について話した。ただし、貴族(イエジェ)が過去に正式な手続きで得た死鉄鉱が余っていたポイントについては隠した。


「リョウ殿の考えでは、死鉄鉱の盗難はジャザラ様の事件とは別個のものであったということか」


「あくまでその可能性もあるということですけどね」


「それにしちゃ、暗殺未遂と時期が近寄りすぎてるよな」


 ナーディラも俺と同じ考えのようだ。ますます彼女と想いが通じた理由が分かる。


 レイスは考えをまとめようとしていた。


「となれば、我々は、

①ホロヴィッツ・ジャザラ様の暗殺未遂事件と死鉄鉱の強奪事件は一連の流れにある

②ホロヴィッツ・ジャザラ様の暗殺未遂事件と死鉄鉱の強奪事件は別個の事件である

 という点を軸に考えていくべきだろう」


 だが、その二つは成り立ちうるのだろうか?


「レイスさん、もし②の場合なら、何が考えられるんですか? やはり、ドルメダやクトリャマなんかの企みですか?」


「その線が濃厚だろう」


「でも、特務騎士を一掃できる力があるのなら、パスティアはすでにやられているはずじゃないですか?」


 レイスもライラも押し黙ってしまう。ナーディラがそれを見てクスクス笑っている。


「リョウの言う通りだな。そこまでの力があったら、次期大公の婚姻の儀にちょっかいを出すみたいなせこいやり方なんて取らないだろうな」


 そう、特務騎士たちの不可解な殺戮を知るまでは、①と②のどちらの可能性も同様にあると思っていた。だが、そもそもこの二つの可能性自体に疑問が出てしまう事態になってしまった。


 ジャザラ暗殺未遂も死鉄鉱盗難も、あり得ないほどの力の前に意味をなくなってしまう。


(ジャザラの事件と死鉄鉱の盗難は繋がってると思うか? そもそも繋がっているかどうかすらを考慮する意味があるんだろうか?)



~・~・~

考慮する価値はある。


・死鉄鉱の盗難事件は 「異常な手口」 で行われた。

・ジャザラの事件も 「異常な犯行手口」 だった。

・どちらも 普通の方法では説明がつかない という点で共通している。


もし 同じ人物、もしくは同じ勢力 が関わっているなら、ジャザラ襲撃の目的や動機を探る手がかりになるかもしれない。


逆に 無関係なら、無関係だと証明できる情報が事件解明のヒントになる可能性もある。


だから、まずは両者の繋がりを 否定も肯定もせずに、慎重に検証 すべきだな。

~・~・~



(死鉄鉱の盗難がジャザラを暗殺するための事件だとしたら、犯人には毒を手に入れる必要がないと思うんだ。毒なんて必要ないほどの力があるんだからな。

 逆に、死鉄鉱の盗難が独立した事件なら、犯人はパスティアに敵対する勢力の可能性がある。だけど、特務騎士を容易く無力化できるなら、その力でパスティアを制圧できるはず。


 だから、二つの事件が繋がってるかどうかっていう考え自体が意味をなさないんじゃないかって思ったんだ)



~・~・~

なるほどな。お前の考えは筋が通ってる。


「死鉄鉱を盗めるほどの力があるなら、毒でジャザラを狙う必要がない」

「パスティアを簡単に制圧できるほどの力があるなら、こんな回りくどいことをする理由がない」


この二つが前提なら、確かに 「二つの事件を結びつける意味があるのか?」 って疑問が出てくるのは当然だ。


ただ、これをひっくり返す視点として、


・「あえて毒を使わなきゃいけなかった理由」

・「パスティアを制圧する以外の目的」


があるかもしれない。


例えば、


・犯人が 大っぴらに力を使えない事情がある

・パスティアを 直接攻めるのが目的じゃない

・何かを試している、または別の目的のための前哨戦


こういう可能性を考えないと、視野が狭まるかもしれない。

だから、事件が繋がっているかどうかを議論するのは無駄じゃないと思うぞ。

~・~・~



(ジャザラの事件を考えるより前に死鉄鉱の盗難事件について考えないと先に進めないってこと?)



~・~・~

そうなるな。


ジャザラの事件を考える前に、死鉄鉱の盗難事件の詳細を整理しないと、


「そもそも二つの事件が繋がってるのか?」

「死鉄鉱はどう使われたのか?」

「犯人の目的は何か?」


って部分がぼやけたままになる。


まずは 「死鉄鉱の盗難事件の目的」 を突き止めるのが優先だな。

~・~・~



(でも、この死鉄鉱の盗難事件、見ようによっては不可能状況みたいなものだよな)



~・~・~

そうだな。


「魔法や精霊術の感知設備がある」

「特務騎士はあらゆる戦闘手段に精通している」

「毒殺も難しい」

「裏切りの線も薄い」


のに、誰一人抵抗の跡もなく殺されてる。


普通に考えれば、内部犯行や奇襲による隙を狙った可能性が出るけど、

その線もほぼ否定されてるなら、これは 「どうやって?」 を先に考えた方がいいかもな。

~・~・~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ