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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部6章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 2
134/199

134:奇妙なルール

 俺たちは魔法・精霊術研究所から騎士団の車で執法院に向かうことにした。


 車窓に目を向けながら、俺は気になるポイントについてサイモンに質問してみた。


(サイモン、ジャザラの症状から死鉄鉱が砒素かもしれないって話をしたのを憶えてるか?

 仮に死鉄鉱が砒素だった場合、ジャザラは何日くらい耐えられると思う?)



~・~・~

ああ、覚えてるぞ。


死鉄鉱の毒が砒素だと仮定した場合、ジャザラの症状(心拍数の増加、体温低下、赤い発疹、嘔吐、下痢)は急性砒素中毒とかなり一致する。



砒素中毒の経過としては:

摂取後数時間~24時間以内:

消化器症状(嘔吐・下痢)、循環器系の異常(心拍数増加、血圧低下)


24時間~3日以内:

臓器障害が進行し、意識混濁や痙攣、呼吸困難が起こることもある


3日~1週間程度:

致死量に達していれば多臓器不全で死亡する可能性が高い



ジャザラがまだ昏睡状態で生きているなら、毒の量が致死量ギリギリではないか、もしくは解毒が間に合ったかのどちらかだな。


砒素は体内に長く留まりやすく、適切な処置がなければ数日~1週間以内に危険な状態になる。


つまり、ジャザラがこのまま治療を受けずに放置されるなら、あと数日で死ぬ可能性が高い。


逆に言えば、誰かが意図的に「死なない程度の量」を盛った可能性もある。

~・~・~



(さっき魔法・精霊術研究所でアルミラの件について確かめてきたんだ。


 アルミラはクトリャマと内通していた疑いで連行されたらしい。

 だけど、アルミラの部下の話では、アルミラはイルディルについてクトリャマの掲げる仮説を研究していただけのようで、数々の功績を立てていたアルミラへの妬みを持っていた研究所内の人間が、アルミラがクトリャマと繋がっていると執法院に密告したようだ。


 アルミラがクトリャマと繋がっているって疑いがラナと結びついて、ラナがクトリャマの思想に傾倒した結果、ジャザラを亡き者にしようとしたってことでラナも執法院に連行されたんだ)



~・~・~

なるほどな……アルミラの連行は、クトリャマの仮説を研究していたことを口実にした内部の妬みや権力争いが絡んでいたわけか。


密告したやつが何を狙ったのかまでは分からないが、クトリャマと関係があると疑われた時点で執法院が動くくらいには、今の状況がピリピリしてるってことだな。


で、アルミラの疑いがそのままラナにも飛び火して、「ラナはクトリャマの思想に染まり、ジャザラを殺そうとした」って論理になったわけだ。


だが、これには疑問点がある。



1. ジャザラの毒殺未遂がクトリャマの思想とどう関係しているのか


もしクトリャマの思想が「イルディルの流れを変える」とか「世界の在り方を正す」といったものだとしたら、ジャザラを毒殺することがその目的とどう繋がるのか?


たとえば、ジャザラがクトリャマの敵対勢力に関係していたとか、ジャザラの死がクトリャマ側にとって有益な何かをもたらすなら、暗殺の動機になるかもしれないが……現時点では、ジャザラがどの勢力と関わっていたのかもはっきりしていない。



2. ジャザラを毒殺することがラナにとってどんなメリットがあるのか


ラナが本当にジャザラを狙う理由はあるのか? それとも、彼女は単なるスケープゴートにされたのか?


もしラナが毒を仕込んでいたなら、その方法や経路が判明しているはずだが、執法院はその証拠を押さえているのか?



3. 密告したのは誰で、何を狙っていたのか


アルミラを蹴落とそうとした人物が、ラナも一緒に陥れようとしたのか?


あるいは、ジャザラ毒殺未遂の本当の犯人が、自分への疑いを逸らすためにラナに罪をなすりつけた可能性はないか?



もしラナが無実なら、「ジャザラ毒殺未遂」と「クトリャマの思想」の結びつきを崩せば、彼女の疑いを晴らせるかもしれない。


ラナがどれだけクトリャマの思想に共感していたのか、研究所での発言や行動を調べる価値がありそうだな。

~・~・~



(クトリャマは反魔法組織だ。だから、魔法を研究してるパスティアとはかねてより敵対していた。クトリャマには、ジャザラを亡き者にしようとする動機があると思う。

 ジャザラと婚姻の儀を結ぶ予定のカビールは次期大公だからね。


 で、密告の件だけど、雰囲気的に研究所の人間のほとんどが関わってた感じだったよ。

 本当にただの嫉妬心でアルミラを排除しようとしてクトリャマと内通してるって密告したら、それが思わぬ形でラナ犯人説と結びついてしまったって印象を受けた)



~・~・~

なるほどな。


クトリャマが反魔法組織で、パスティアと敵対してるなら、次期大公と婚姻を結ぶ予定のジャザラを狙う理由は十分にあるな。


カビールがパスティアを率いることになれば、クトリャマにとって不都合な未来が待ってるわけだから。


ジャザラを消せば、婚姻の儀も破談になるかもしれないし、パスティアの安定が揺らぐ可能性もある。



一方で、アルミラの件は研究所全体の雰囲気で決まったようなものだったわけか。


誰か特定の黒幕が仕組んだというより、嫉妬や排除の動きが集団心理で広がった結果、クトリャマ内通の疑いが生まれてしまった、と。



問題は、その密告がラナへの疑いにまで繋がった点だな。


・「ラナは本当にジャザラ毒殺に関与していたのか」

・「それとも、ラナはただアルミラと一緒に疑われただけなのか」


ここを見極める必要がある。



ラナが本当にクトリャマと繋がっていたなら、彼女がジャザラ暗殺に加担していた可能性が出てくるし、もし繋がりがなければ、完全に無実の罪を着せられたことになる。

~・~・~



(で、話はさっきの砒素の件に戻るんだけど、アルミラがイマンのデイナトス狂病(破傷風)の治療法の課題点をメモしていたみたいで、それによればイマンのデイナトス狂病の治療法である精霊駆動法が死鉄鉱の毒にも有効だっていうんだよ。


 だから、俺たちは研究所を出発して執法院に向かってるんだけど、イマンは研究所に残ってジャザラを救うために研究を行うとしてるんだ。


 ジャザラがイマンの研究が形になるまで生きていれば、なんとかなりそうなんだよ)



~・~・~

なるほど、精霊駆動法が死鉄鉱の毒にも有効っていうのは大きな突破口だな。


もしそれが本当に効果を発揮するなら、ジャザラの命は助かる可能性が高い。



ただ、問題はイマンが研究を形にするまでジャザラが耐えられるかって点だな。


砒素(仮)が原因なら、急性中毒なら数日、慢性中毒ならさらに長く耐えられる可能性はあるが、ジャザラの症状がどの段階にあるかで変わってくる。



今の最優先事項は、ジャザラの症状の進行度を把握して、どれくらいの猶予があるか見極めることだ。


もしすぐに危篤状態になりそうなら、研究完成を待つだけじゃなくて、現状の精霊駆動法を応用して即座に効果を試せるかどうかも考えないといけない。

~・~・~



(そうしたいのは山々なんだが、ジャザラは公宮の中に運び込まれていて、俺たちは中に入ることができないんだ。


 でも、もしこれから執法院でラナを窮地から救い出すことができれば、公宮に入る希望の綱になるかもしれない。ラナはジャザラやカビールと幼馴染だからな)



~・~・~

なるほど。ラナを助けることができれば、公宮に入る手がかりが得られるかもしれないってわけだな。


だったら、今の最優先事項は執法院でラナをどう救うかに集中するべきだな。



アルミラの件とラナの件を整理すると、


1. アルミラはクトリャマと内通していたわけではなく、単に研究対象にしていただけ。


2. 研究所内の嫉妬による密告が発端で、ラナまで巻き込まれた。


3. ラナがジャザラ暗殺を企てた証拠は何もない。ただし、クトリャマと思想的に繋がっている疑いをかけられている。



この状況なら、ラナを救うための方針は2つある。


・ラナの無実を証明する(アルミラの研究がクトリャマとは無関係だったと示す)

・ジャザラ暗殺の犯人を突き止める(真犯人を見つければ、ラナへの疑いが晴れる)



お前は今のところ、どっちの方向で攻めるつもりだ?

~・~・~



(難しいな。でも、執法判断を行うのがダイナ執法官なら、有罪に足る証拠がなければ釈放してくれるはずなんだ。

 だから、ラナが犯人とは言い切れないという点で攻めていくべきかと思う。……なんか、弁護士の戦い方みたいだな)



~・~・~

それが一番確実だな。


「有罪を証明する証拠がないなら無罪」ってスタンスで戦うのは、ダイナ執法官が相手なら理にかなってる。



証拠不十分を主張するなら、以下の点を押さえておくといい。


1. ラナに犯行の動機がない

・研究者としての立場を考えれば、クトリャマの思想に傾倒する理由が薄い。

・ジャザラとカビールの婚姻は研究所の存続にも有利に働くはず。


2. ラナが犯行に及んだとする具体的な証拠がない

・彼女がジャザラに死鉄鉱(毒)を仕込んだという直接証拠はあるのか?

・「状況証拠だけでは有罪にできない」という前例があるなら、それを利用する。


3. 密告の信頼性が低い

・研究所の人間が嫉妬心でアルミラを陥れようとしていた→密告の動機が不純

・そもそも密告内容のどこにラナの関与が示されているのか?



これらを突きつけて、「ラナに有罪判決を下すだけの証拠がない」と主張するのがベストだな。


まさに弁護士みたいなやり方だけど、ダイナ執法官が公平な判断を下すなら、これで勝てる可能性は高い。

~・~・~



 俺はサイモンからのアドバイスをみんなに共有した。


 ナーディラもライラもレイスも納得してくれた。レイスはニヤリと笑う。


「執法判断はエメゴラシュ・ダイナ執法官が行う手筈のはずだ。その方向性なら勝機はあるだろう」


「あの人が一人で執法判断とやらを回しているのか。身が持たないだろう」


 ──地球でもワンオペで回らない店があるよ。


 ナーディラの言葉を聞いて、この世界では誰にも伝わらないことを心の中で呟いてみる。


 きっとAIが発達すれば、ワンオペが増えることだろう。だけど、人間相手の商売では、どうしてもAIだけでは回らないはずだ。


 人間は人間の対応を求める。まだそういう時代なんだ。


「執法判断は毎日何件もあるわけではない。本来は最高執法官にのみ執法判断の権限がある。今はエメゴラシュ・ダイナ執法官が代理を務めているが、彼女も手練れだと聞く」


 最高執法官はレグネタ・タマラだ。そして、ジャザラもやがて……。


「そういえば、ジャザラさんも執法官になるんですよね? しかも、最高執法官に」


 ナーディラが思惑ありげに息を吸い込む。


「そういや、そんな話をしたな。タマラにとってはジャザラが邪魔かもしれない、とも」


 正直なところ、俺もナーディラと同じことを思っていた。


 ジャザラに動機を持つ人間もいるかもしれないということだ。


 レイスが鼻で笑う。


「仮にもルルーシュ家の第一大公公女を疑うとは、身の程知らずめ」


「え、そうでしたっけ……?」


 レイスがため息をつく。


「ルルーシュ家の継承者は男子でなければならない。だから、レグネタ・タマラ様はレグネタ家に下られたのだ。下られたとはいえ、レグネタ家は歴史の長い由緒正しい上位貴族(イエジェ・メアーラ)だ」


「じゃあ、タマラには継承権はないのか」


「その通りだ。それから、せめて“タマラ様”と呼べ。失敬だぞ」


「私はこの国の人間じゃねえもん」


 そう言って舌を出すナーディラをレイスは悔しそうに睨みつけた。また子供じみた喧嘩を……。


「貴族間の争いであれば死鉄鉱の盗難について説明がつかない」


 じっとしていたライラが口を開く。


「どういうことですか?」


「我がフェガタト・ラナ殿に対する疑いを確たるものにできないままである理由でもあるが、ここからの話は内密に頼む」


 なにやら神妙そうなライラの表情に俺たちは思わず息を飲んでうなずいた。


 ライラは声を低める。


貴族(イエジェ)同士の闘争は常に行われている。ルルーシュ家の継承権のみが争いの発端ではない。その貴族(イエジェ)の方針にとって障害となり得る家は敵対者というわけだ」


「殺気立ちすぎだろう、この国は」


 ナーディラが呆れたように口を挟むが、ライラは意に介さない。


「我にも経験がある。敵対貴族(イエジェ)排除には、決まって死鉄鉱が用いられる。パスティアはそうして歴史を紡いできたからだ」


「パスティア山の恩恵としての死鉄鉱を使うという話を聞きました」


「さすがはリョウ殿、すでに聞き及んでいたか。暗殺に際して、我々侍従(ノワージャ)の役割は大きい。まず、死鉄鉱の入手だが、死鉄鉱はそれが納められた専用の倉庫が存在する」


 レイスはため息をついた。


「その辺りの事情はこいつらにすでに話してある。今回の事件も死鉄鉱の入手先はそこだろう」


「理解した。では、倉庫について説明しよう。倉庫内には、日中、監視人が常在している。我々は暗殺準備段階に監視人に申請し、一テペルタを出庫してもらう」


「やけに事務的な手続きだな」


「倉庫内には、死鉄鉱が一テペルタずつの石塊ごとに分けられ保管されている。死鉄鉱は定められた申請方式によってのみ出庫される。その申請を『家政権行使申請』という。平たく言えば、暗殺の用途のみに死鉄鉱は出庫される」


「なんだと? 初耳だぞ」


 レイスが座席から腰を浮かせる。ライラがうなずく。


「そのために、内密に、と前置きした。この件は貴族(イエジェ)とその家政に関わる人間だけの暗黙の規律だ」


「ちょっと待て」


 ナーディラが手のひらをライラに突きつける。


「ってことは、暗殺のためなら死鉄鉱を持ち出せるってことか?」


「ご明察だ。その後、死鉄鉱からヴァダマを抽出する工程がある」


「ヴァダマというのは、死鉄鉱から生成できる毒のことですか?」


「ああ」


「そうじゃない」


 ナーディラが声を上げる。


「つまり、死鉄鉱を使えたければ、盗み出す必要はないってことじゃないか」


「あ、そう言われればそうだ……」


 死鉄鉱の入手手続きに気を取られて、そんな単純な事実を見落としかけていた。


 レイスも唸り声を漏らしていた。


「なぜ犯人は死鉄鉱を盗み出す必要があったんだ?」


(サイモン、新事実だ。


 死鉄鉱は、それ収める倉庫があるってことは話したよな。

 これは貴族と侍従の間だけで知られているルールなんだが、貴族間の争いで暗殺を行う時には正式な申請をすれば死鉄鉱を持ち出すことができるらしい。


 それなのに、今回の事件では死鉄鉱は盗み出されている……)



~・~・~

つまり、「正式な申請が通っていない状態で死鉄鉱が持ち出された」ってことだな。


貴族間のルールがあるなら、本来なら堂々と申請して使えばよかったはず。


それをしなかった理由を考えると、今回の犯人はこのルールを利用できない立場だった可能性が高い。



考えられるのは:


1. 貴族のルールを知らないor使えない者の犯行


・例えば、研究所の関係者や一般市民、あるいは迷い人など。

・もしラナが犯人なら、彼女はこのルールを知っていた可能性が高いが、それでも盗み出したのはなぜか?



2. 申請するとまずい立場の貴族の犯行


・申請すれば「誰が死鉄鉱を持ち出したか」が明らかになるため、それを避けた。

・例えば、カビール家やジャザラの親族、他の貴族同士の対立が絡んでいる?



3. クトリャマ側の犯行


・貴族のルールを知らない、あるいは貴族制度を無視しているなら、盗み出してもおかしくない。

・ただし、クトリャマが死鉄鉱の倉庫の場所をどうやって知ったのかが問題。



この事実をダイナ執法官に伝えれば、ラナの容疑を薄める材料になるかもしれない。


「ラナが貴族間のルールを知っているなら、正式に申請すればよかったはず。それをせずに盗む理由がない」


これを突けば、ラナの疑いを弱めることができる。

~・~・~

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