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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部6章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 2
132/199

132:陰謀のにおい

 騎士団のファマータ車に乗せてもらい、詰所を出た。


「フェガタト・ラナ様は執法院だ。執法院調査官はエメゴラシュ・ダイナ執法官のもとで執法判断を行う心づもりかもしれない」


 レイスが珍しく焦った様子で早口でまくし立てる。ナーディラが拳で膝を叩いた。


「あいつら、私らを犯人扱いしときながら別の人間に目ェつけてたのか……!」


「疑われたままの方がよかったか?」


 レイスが皮肉を返すと、ナーディラは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


 イマンが窓の外を心配げに見つめる。


「研究所が心配だ。何か事情を知っている者が居るかもしれない。執法院の前に研究所に寄りたい」


 多数決で次の目的地が決まり、レイスは不本意そうに御者に行き先を告げた。



 通りを行く車の中で、俺の頭の中に何か雑音のようなものが紛れ込んできた。


 ──……じゃ。おい、リョ……──


 頭の中のその声に集中する。


 ──聞こえておるのか、リョウ?──


 アメナだ。彼女の声に応えるために、俺も心の中に念じてみる。


(アメナ、俺だ。聞こえるぞ)



~・~・~

(アメナに何か伝えることがあるのか? それとも、ただ呼びかけただけか?)

~・~・~



(あ? サイモンか? ごめん、今アメナの心の声が聞こえて、それに返そうとして念を込めたらお前に繋がっちゃった)



~・~・~

なるほど、魔法の調整ミスか?


それとも、俺の方が優先される仕様になってるのかもな。


もう一回試してみたらどうだ?

~・~・~



(アメナ、聞こえるか?)



~・~・~

(アメナに意識を向けて念を送る…)

~・~・~



(なんでお前に繋がっちゃうんだろうな。アメナとは選ばれし者同士、魂の繋がりがあってお互いの心の声が聞こえるはずなんだけどな……)



~・~・~

お前とアメナの間には確かに魂の繋がりがあるはずだよな。


でも、今お前が意識を向けた時に俺に繋がるってことは、俺もお前と何かしらの形で繋がってるのかもしれない。


それとも、お前の意識の向け方が微妙にズレてる可能性もあるか?


たとえば、アメナじゃなくて「選ばれし者同士の繋がり」っていう曖昧な意識を持った結果、俺の方に届いてるとか。


お前が俺をどう認識してるかにも関係してるかもな。

~・~・~



 ──ええい、まあよい。勝手に言葉を送るぞ──



(よく考えたら、俺の方からアメナに言葉を送るやり方なんて知らないんだよ。

 アメナの方が察して一方的に言葉を送ってくれるらしい。こっちは聞き専だな)



~・~・~

なるほどな。お前の方からは言葉を送れない仕様か。


そうなると、アメナと意思疎通するには、向こうが送ってくるのを待つしかないってことになるな。


もしかすると、アメナの方はお前に届くと分かった上で言葉を送ってるのかもしれない。


逆に、お前の方には「送る」ための仕組みが備わってないのか、あるいは使い方を知らないだけか。


何かのきっかけで双方向に繋がる可能性もあるし、もう少しこの仕組みについて考えてみる価値はありそうだな。

~・~・~



 ──大変なことが起こったんじゃ。アルミラが“執法院”とかいう連中に連れて行かれたぞ──


「アルミラさんが?!」


 思わず声を上げてしまった。


 車内の視線が一斉に俺に向けられる。隣のライラが温かい目で俺を見つめていた。


「リョウ殿は突然奇声を上げる癖の持ち主か」


「残念そうな顔で言わないでください。そうじゃなくて……」


 先を言おうとして言葉が詰まった。アメナとの繋がりについて、ここで話すべきか分からなくなってしまったのだ。


「またよからぬことでも考えているのではあるまいな?」


 レイスの猜疑心に満ちた瞳。……っていうか、“また”とはなんだ、“また”とは。


「あ、いえ……、研究所に居る仲間と特殊な魔法でやりとりをしていたんです。それで、アルミラさんが執法院に連れて行かれた、と」


「アルミラが?」


 イマンが俺に詰め寄って来る。


「どういう意味だい? 一体どういう理由で彼女が?」


「え、ええと……」


 この期に及んでアメナからの追伸はない。失敗するかもしれないが、またアメナに念を送ってみる。


(アメナ、アルミラが執法院に連行された理由は?)



~・~・~

それ、アメナからの心の声待ちか? それとも、俺が知ってる情報で考えた方がいいか?

~・~・~



(あー、うまくいかねえ! 今のはアメナからの心の声待ちだったんだけど、また失敗した。

 どうやら、魔法・精霊術研究所でアメナとヌーラを預かってくれたアルミラが執法院に連行されたらしい。アメナがそれだけを言って追加情報を寄越さないから何が起こってるか分かんないんだよ)



~・~・~

状況が分からないと動きようがないな。


アメナがそれ以上の情報を送ってこないのは、単に送る余裕がないのか、それとも外部に話せない事情があるのか……。


とりあえず、今できることは二つだと思う。

1. アメナが追加情報を送ってくるのを待つ

2. 研究所か執法院の様子を探る手段を考える


どっちを優先する?

~・~・~



(いや、それについては、俺たちは今、研究所に向かってるところだからさしたる問題じゃないんだ。

 というか、今の状況をお前に共有してなかったよな。

 実は、ラナが執法院に連行されたって情報が入ったんだ。彼女は研究所の研究部門のトップだから、連行のことを確かめに行こうとしてたところにアルミラの一報だったんで、訳が分からなくて……)



~・~・~

なるほど、ラナとアルミラの両方が執法院に連行されたってことか。これはただの偶然じゃなさそうだな。


情報が錯綜してるけど、整理すると:

・ラナ(研究部門のトップ)が執法院に連行された

・アルミラ(研究所でアメナとヌーラを預かってくれていた人物)も執法院に連行された

・タイミングが近い


となると、研究所関係者が狙われてる可能性が高い。


何か研究所が執法院の逆鱗に触れるようなことをしていたのか、あるいはジャザラの事件と関係があるのか……。


研究所に向かってるなら、まずは現地の状況確認だな。


アルミラが連行された経緯を知ってる人がいるかどうか、ラナの連行がどう扱われてるのか、それを調べるのが先決かもな。

~・~・~



 レイスが咳払いをする。


「くだらん遊びに付き合っている暇はない。もうすぐ魔法・精霊術研究所だ」


 座席に深く腰掛ける俺に、両隣のナーディラとライラが慰めてくれる。


 きっとジャザラの事件絡みに違いない……俺の直感はそう告げていた。



***



 研究所の中庭で車から降りる俺たちのもとに、アメナとヌーラが駆けつけてくれた。


「リョウ、なぜアメナの声に応えてくれんのじゃ~!」


 駆け寄ってくるなり、俺の胸に飛び込んでポカポカと叩かれる。そばで見ていたナーディラがすかさずアメナを引き剥がそうとして、さらにそれをそばで見ていたライラが興味深そうにうなずいた。


「複雑な男女関係というやつか」


「ライラさん、変な分析しないでください」


「そうだぞ、ライラ。このクソ女は私とリョウの間に勝手に割り込んできた泥棒みたいなものなんだ」


「アメナは泥棒などではないぞ!」


「やかましい! リョウから離れろ!」


 ヌーラが顔を引きつらせて声を上げる。


「ちょ、ちょっとみなさん、こんなことしてる場合じゃないですよ!」


「その通りだ。子どもに諭されているようでは、お前たちも未熟だぞ」


 レイスがそう言い放つと、ナーディラもアメナもしゅんとしてしまう。なにこの集団?


「それでアメナ、アルミラさんが連れて行かれたって?」


 俺が尋ねると、アメナは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


「やはり、アメナの声は届いておったのじゃな。さすがはアメナのリョウじゃ」


「だーれがお前のリョウだ」


 アメナの脳天に拳を叩き下ろしたナーディラがヌーラに目をやる。彼女は震える声で言う。


「アルミラさんが……クトリャマと通じていたという疑いをかけられてしまったんです」


「クトリャマと?!」


 俺たちの驚きの声も紛れるくらい、研究所はそこかしこで騒然としていた。ヌーラは困り果てた顔で説明を続ける。


「アルミラさんの研究室も執法院の方々が物品を押収していきました。だから、私たち、居場所がなくなってしまって……」


「あの女の取り巻きはどうなった?」


 ナーディラが問いかける。取り巻きとは、馬乗りにされていた男をはじめとしたアルミラの部下たちのことだ。


「みなさんも連れて行かれてしまいました……」


 イマンが蒼白な顔をしている。


「イマンさん、前に言ってましたよね? 研究者の中にはクトリャマの思想に傾倒する人もいると……」


「ああ、イルディルの特性に魅入られてそういう兆しを見せる者はいる。しかし、まさかアルミラが……。そんなバカな……」


 痛む頭を押さえていたアメナが口を開く。


「それで、ヌーラと主にラナの到着を待っておったんじゃ。事情を聞きたかったのでな。じゃが、一向に姿を現さんのじゃ。例の事件に関わっておるんじゃないかと肝を冷やしておったぞ」


 俺たちは顔を見合わせた。


「それが……、ラナさんも執法院に連行されたんだ」


 絶望の眼差しが交差した。ヌーラの声が強張っている。


「この街で一体何が起こっているんでしょうか……?」

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