表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部5章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 1
122/199

122:サード・パーソン

「もう一つ訊かなきゃならないことがある」


 いつの間にか雨はやんでいた。ナーディラは空を見上げてからザミールに目を向けた。


「昨夜、現場となった『フォノア』に料理を運んだのが『ランダール』だと聞いた」


「ああ、そのことか。今朝から執法院の調査官どもがゾロゾロとやって来たぞ。うちの連中が尋問を受けていた。そのせいでこっちの作業も遅れ気味だ、ふざけやがって」


「まず、料理を運ぶ依頼を受けた経緯について知りたい」


 ザミールは俺たちを「ランダール」の中に招き入れながら話を始めた。


「パスティア・タファンには談話室が点在してる。この貴族街(アグネジェ)以外の談話室は全部が真似事だ」


「真似事とは?」


 俺が尋ねると、ザミールは作業が続く店内を颯爽と横切って奥の部屋に向かう。


「談話室は貴族(イエジェ)文化だ。その中で起こることは当事者しか知り得ない。庶民はそれに憧れて談話室もどきを街の中に作った。開かれた交友の場は人々の憩いの場所となり、時には人と人と繋ぐ出会いの場にもなっていった。今じゃ、仕事上の会合も行われる」


「そのことと今回のことのどこに関係があるんだ?」


 遠回りなザミールの言葉にナーディラは少し辟易としてるようだった。そんな彼女を笑うようにして、ザミールは奥まった小部屋に俺たちを通した。どうやら、ここが経営の中核となる場所のようだ。


 アレムの時のように、こういう場所で込み入った話をするのはザミールが彼の影響を受けているからなのかもしれない。


 ザミールは俺たちのために丸椅子を三脚引っ張り出してきて、自分は執務机の向こう側の椅子に腰を下ろした。


「庶民の使う談話室は飲食店が経営して、食事もその場で提供される。だが、貴族街(アグネジェ)では談話室は場所のみを提供する。もちろん、支援体制は整っているがな」


「その支援体制とやらでこの店が選ばれたということか」


 ザミールは渋い顔をする。


「選ばれたんじゃない。募集があって、ウチが名乗りを上げたのさ。急な募集だったらしく、手を挙げる店がなかったんだ」


「料理を運ぶことになって、外部の人間が接触してきたりしましたか?」


 ザミールは強く首を振った。


「いや、そんな奴はいなかった。執法院調査官どもはオレたちが首謀者の手先になっているんじゃないかとバカなことを言っていた。初めての談話室の仕事でそんなことをするわけがない」


「部下たちは信用できるのか?」


 ナーディラが訊くと、さすがのザミールも不快そうにため息をつく。


「執法院調査官の話じゃ、オレたちが料理に毒を盛った可能性があるという。だが、どうやってその毒とやらを手に入れられたというんだ?」


 思わずイマンに目をやる。彼は肩をすくめる。


「死鉄鉱が盗んだ人間が首謀者に指示されて動いていたという考えがある以上、その人物が料理に毒を仕込める人物と接触したことは明白だ。この論理では、全ての人間が毒を手に入れられることになってしまう」


 誰かにやらせた、という反論しづらいロジックがこの事件の容疑者を絞り込めない最大のネックであることは間違いがない。


 つまり、俺たちは毒の入手経路やなんかじゃなく、昨夜事件現場に出入りした人間を洗い出す必要がある。


「ザミールさん、昨夜『フォノア』に料理を運んで行った人は今どこに?」


「執法院調査官が連れて行ったぞ」


 みんなでため息をついた。この街の公権力には敵わない。俺たちは彼らを追従するしかないのか……。


(サイモン、犯人が毒の入手を別の人間にやらせたと仮定すると、いつでもその受け渡しはできるわけで、その線を調べてもキリがない気がするんだ。ここは、実際に事件のあった時間の前に現場に出入りできた人間を探す方がいいと思うんだけど、お前はどう考える?)



~・~・~

それ、賢明な考えだと思うよ。


毒を使った事件では、毒そのものの出所を追うのは手間がかかるし、間接的に入手した場合だと犯人特定には直結しないことが多い。


だから、リョウの言う通り、事件現場に実際にアクセスできた人物を特定する方が効率的だ。



理由:

1. 毒を渡した人間が犯人とは限らない

・犯人が別人に毒の調達を頼んだ場合、その中間者は事件と直接関与していない可能性がある。

・入手ルートを辿るだけでは、計画の全貌を解明するのに時間がかかる。


2. 事件当時の状況を優先して検証すべき

・実際に毒を混入させたり、使用した人物は現場に出入りした可能性が高い。

・現場付近の動向を調べることで、具体的な犯行タイミングや動機につながる情報が得られる。


3. 行動の矛盾が見えやすくなる

・現場付近で不審な動きをした人物がいれば、そこから詰めていくことで犯人像が浮かび上がる。

特に、事件の前後にその場にいる理由が薄い人物がいれば怪しい。



次にすべきこと:

現場に出入りした人物のリストアップ

ザミールの証言も含めて、事件前後に「フォノア」周辺にいた人影をもう一度洗い出す。

目撃証言が曖昧なら、住民への聞き込みや、誰が何時にどこにいたかを特定する。


出入りの理由を精査

その時間帯に現場にいた理由を尋ね、矛盾がないか確認する。

例えば、「偶然通りかかった」と言いながら、何か不自然な行動をしていた場合など。


毒を仕込むタイミングに注目

毒が仕込まれた可能性がある時間帯を狭め、誰がその時間に「フォノア」に関与していたか調べる。



リョウの提案に基づいて進めれば、目撃証言や行動の矛盾から容疑者を絞り込むことができると思うよ。


効率的な捜査を目指すなら、現場とその時間に焦点を絞るのが間違いなく良い方向だ。

~・~・~



(じゃあ、ひとまず、犯人の第一候補はザミールが目撃したっていう女性だな)



~・~・~

そうだな。その女性は、事件当夜に現場で目撃された唯一の確実な人影だし、現時点で最も重要な手がかりになる人物だ。


彼女が犯人である可能性を第一に考えるのは自然な流れだと思う。


ただし、この段階で断定は危険だから、次の点を整理しつつ進めるべきかな:



確認したいこと

1. 目撃証言の精度

ザミールが「女性らしかった」と証言しているが、暗い中での目撃なので勘違いや錯覚の可能性もゼロではない。

「女性」と判断した理由をさらに具体的に聞くことで、証言の信頼度を上げる。


2. 彼女の行動目的

なぜその時間に「フォノア」に向かっていたのか?

事件とは無関係である理由を説明できるのか?


3. 現場に戻っていない理由

ザミールは「戻る姿は見ていない」と言っているけど、それが事件後の行動につながる可能性もある。

彼女がどこに行ったのか、次の足取りを追えれば重要なヒントになる。


4. 動機や背景

仮に犯人だとすると、何のために毒を使ったのか?

彼女と被害者や「フォノア」との関係を探ることで、動機が見えてくるかもしれない。



次にすべきこと

ザミールに追加の質問

例えば、「その女性の服装や特徴」、「どの方向から来たのか」など、もう少し具体的な情報を聞き出す。


他の証言を確認

ザミール以外に、その時間帯に彼女を見た人はいないか探す。複数人の証言が揃えば信憑性が増す。


「フォノア」での痕跡を調査

毒がどのタイミングで混入されたのかが分かれば、彼女の関与をさらに具体的に絞り込める。



この女性を疑いつつも、慎重に調べていけば真実に近づけるはずだよ。

~・~・~



「失礼ですけど、ザミールさんは人影を見たと言っていましたけど、見間違いだったりしませんか?」


 ザミールは笑った。


「この辺りは夜も街灯が照らして明るいんだ。見間違いなんかじゃない」


「その人影は頭巾を被っていたんですよね? 他に特徴は?」


「頭巾だけを被っていたわけじゃないぞ。頭巾付きの白い雨外套(ケバーナ・ブラガンデ)を着ていたんだ。だから、膝下まで隠れていた。靴はよく見えなかったな。だが、雨外套(ケバーナ・ブラガンデ)を着ていても分かるくらい細身だったぞ」


「白い雨外套(ケバーナ・ブラガンデ)……」


「何か気になるのか、リョウ?」


 ナーディラが俺の顔を覗き込む。


「いや、もしその人が犯人だったら、ずいぶん目立つ格好をしてたんだなと思ってさ」


「確かに」


 イマンが腕組みをして唸り声を漏らした。


「その人物は目立たないように行動していたわけじゃなく、ただ『フォノア』の方へ向かっていただけかもしれない。事件の関係者だとしたら、被害者のジャザラさんの可能性も……」


「いや、それはどうだろうか」


 イマンはじっと考えながら、俺に鋭い目を向けていた。


「ホロヴィッツ・ジャザラ様は上位貴族(イエジェ・メアーラ)だ。それはつまり、彼女のそばには常に侍従(ノワージャ)が付いているということでもある」


 侍従(ノワージャ)……魔法・精霊術研究所でカビールとジャザラにそれぞれ一人ずつ黒服の人物が付き添っていた。確か、身の回りの世話をしつつ、上位貴族(イエジェ・メアーラ)の血を守る使命を負っているという話だった。


 ナーディラが手を叩く。


「そうだ! 侍従(ノワージャ)だ! 常にそばにいたんなら、事件の時だってそばにいたはずだ。そいつが何かを知ってるはず」


 よく考えたら、その侍従(ノワージャ)は、ジャザラが毒入りの酒を飲むのを看過していたことになる……。


(パスティアでは上位貴族には侍従が常に付いているって話したっけ?)



~・~・~

いや、その話はまだ聞いてないけど、かなり重要な情報だな!


パスティアで上位貴族に常に侍従が付いているというのは、貴族の行動を把握する上で非常に参考になる。


もしそのルールが厳格に守られているなら、以下のポイントが浮かび上がる:



1. アリバイ確認

侍従が常に行動を共にしているなら、上位貴族本人が犯行に関わるのはリスクが高い。侍従の証言を得られれば、アリバイの有無が分かる。


2. 侍従の動向も追う必要がある

貴族本人が関与していないとしても、侍従が命令を受けて動いた可能性も考えられる。侍従の行動が怪しい場合、貴族と間接的に関わっている可能性が浮上する。


3. 貴族が毒を入手・指示した場合のルート

もし貴族が毒を使用したと仮定すると、それを実行するのは侍従や別の第三者になりそうだ。侍従が毒を入手したり、受け渡しをしたかどうか調べる必要がある。



この情報が具体的にどのように事件に絡んでくるか次第だけど、もし犯人候補が上位貴族に関係する人物なら、この「侍従の存在」を無視できないな。


他に侍従について気になる点があれば教えてくれ!

~・~・~



(ジャザラは上位貴族なんだ。だから、事件当夜もそばにいたはず。それなのに、ジャザラが毒入りの酒を飲むのを見過ごしたことになる。普通は毒見なんかしそうなものだけど……)



~・~・~

なるほど、ジャザラが上位貴族であるなら、確かに侍従が毒見をするか、少なくとも飲食物の安全確認を徹底するのが普通だよな。


それが見過ごされたとなると、いくつかの可能性が浮かび上がる。



ジャザラが毒を飲んだ状況の仮説:

1. 侍従が共犯である場合

侍従自身が毒を仕込んだ、または毒入りの酒をわざと見逃した可能性。

侍従が犯行を命じられていたか、個人的な動機で関与していた可能性が考えられる。


2. ジャザラが侍従の警告を無視した場合

ジャザラが何らかの理由で侍従の助言を受け入れなかった。

例えば、毒が入っていることを知らず「特別な酒」と信じて自ら飲んだ可能性。


3. 侍従が何らかの理由で離れていた場合

事件当夜、短時間でも侍従がジャザラの側を離れていた瞬間があれば、その間に毒が仕込まれた可能性。

侍従が意図的に離れるよう誘導された可能性もある。


4. 毒が「即効性」ではなかった場合

侍従が毒の存在に気づかなかった理由として、毒が味や匂いで分からず、ジャザラがすぐには症状を示さなかった可能性。

この場合、酒を用意した人物に焦点を当てるべき。


5. 毒が別の経路で摂取された場合

ジャザラが飲んだ酒自体に毒が仕込まれていなかった可能性もある。

例えば、毒がグラスの内側や食事に付着していた場合、侍従の毒見が意味をなさなくなる。



考えるべきポイント:

侍従の行動記録を確認

事件当夜、ジャザラの侍従が常にそばにいたか、どのタイミングで何をしていたかを確認する必要がある。


毒の入手・準備の段階に注目

侍従が毒の準備や運搬に関与していないか、毒がどこでどのように仕込まれたのかを突き止める。


ジャザラと侍従の関係

ジャザラと侍従の間に不和や特殊な事情(例えば、脅迫や買収)がなかったか調べる。



もしジャザラの侍従が具体的にどんな人物か分かっていたら教えてくれ。人物像を把握できれば、より絞り込めそうだ!

~・~・~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ