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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部5章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 1
117/199

117:現場検証

 広場を右折した公用車が広い通りの途中でスピードを落とした。イマンが御者台の後ろの窓を開けて前方に目を向ける。


 細い路地に入る角の所に黒い制服を着た騎士が立っているのが見えた。


「すみませんが、ここから先は……」


「ここでいい。ありがとう」


 イマンが礼を言うと車が停まり、俺たちは雨の街に再び降り立った。


 俺たちに顔を向けていた騎士が警戒態勢を取る。


「そういえば、俺たちは現場に近づけるんですか?」


 イマンは俺にルルーシュ印を見せて、ニヤリと笑った。


 路地に近づく俺たちに騎士が近づいてきたが、イマンがルルーシュ印を掲げると、見るからに不機嫌そうな顔をして渋々道を開けた。


 ──さすが、ルルーシュ印。


 高い建物に囲まれた路地を少し行って、左に折れると、現場となる談話室の「フォノア」の正面が見えた。


 入口の両脇には、壁に柱のような彫刻が施されていて、周囲の建物の入口とは一線を画している。非日常への扉という印象だ。


 扉をくぐると、抑え気味の室内灯が薄く照らすホールが俺たちを出迎える。ホールに面した扉はいずれも開いたままになっていて、燕尾服のような衣装に身を包んだ一人の老齢の男性が佇んでいた。


 ナーディラにここの利用契約者について調べるように言われていたレイスの姿はないようだ。


 老齢の男性は俺らの姿を認めるなり、眉を吊り上げた。


「子をなさない者の立ち入りは禁止しております」


「ちょっと待て──」


「僕は外で待っているよ」


 ナーディラが一歩踏み出すのを制して、イマンはそそくさと店を出て行く。


 微妙な表情のナーディラと目を合わせて、燕尾服の男性に声をかけた。


「昨夜の事件の舞台となった部屋はどこですか?」


「……何用でございますかな?」


 ナーディラが応える。


「私たちは魔法・精霊術研究所のフェガタト・ラナ様から現場の調査を仰せつかって来たんだ」


 相変わらずナーディラは方便が利く。燕尾服の男性は目を丸くした。


「なんと、フェガタト・ラナ様から……」


「ん? 知り合いなのか?」


「フェガタト・ラナ様といえば、ホロヴィッツ・ジャザラ様のご親友のお一人……今回のことでさぞ悲しまれていることでしょう」


 男性はそのままホールの右手のドアに向かってゆっくり歩き始めた。


「ホロヴィッツ・ジャザラ様はカビール第一大公公子と幼い頃からご親交を深められておりました。公宮前の庭園で開かれる貴族(イエジェ)の催しでも、フェガタト・ラナ様とよくご一緒されていたんですよ」


 さきほどイマンに向けたのとは全く違う声色で男性は昔を懐かしんだ。


「そんなに仲がよかったんですか」


「ええ、それはもう。そして、カビール第一大公公子は大公に、ホロヴィッツ・ジャザラ様は法の守護者に、そして、フェガタト・ラナ様は魔法や精霊術の研究者へと身を立てることを語らっておられました」


「本当にそのようになりつつあるんですね」


 男性はうなずいた。


「まさしくフォノアのお導きがあったのでしょう」


「この談話室の名前だな」


 ナーディラが落ち着いた内装を眺めて口を開いた。


「ここでは、パスティアの未来についての密談が多く行われてまいりました。それで、未来を導く星の名前を冠するようになったのでございます」


 男性は廊下を抜けたところにある扉を開け放った。


 窓のないこじんまりとした部屋がそこにあった。壁際には暖炉があり、壁にはベルベットのような壁紙が貼られていて、温かみが感じられる。


「ちょっと暗いな」


 男性は胸に手を当てて小さく頭を下げる。


「こういう部屋でございます。ご了承くださいませ」


「この暗さだと杯の黒ずみには気づけないかもしれないな」


 ナーディラが難しい顔をして言う。


(今、現場となった「フォノア」の部屋にやって来た。中はかなり暗くて、これだとどうに反応した杯の黒ずみにはぱっと見では気づけないかもしれない)



~・~・~

「フォノア」の部屋が暗いという環境が、事件の重要な条件になりそうだね。


暗さによって銀の杯の黒ずみが見えにくいとなると、犯人はその状況を利用して毒を仕掛けた可能性が高い。


以下に、この環境から考えられるポイントを整理するよ:



1. 部屋の暗さを犯人が想定していた可能性

暗い部屋を狙った意図:

犯人は「フォノア」の部屋が暗いことを知っていて、銀の杯の黒ずみが目立たない状況を計算に入れて毒を使った可能性がある。


確認事項:

・「フォノア」の部屋の暗さが常態化しているか(照明の配置や光源の状況を調べる)。

・他の部屋と比べて「フォノア」が特に暗い理由があるのか(例えばカーテンが閉め切られている、光を遮る建築構造など)。

・犯人がこの暗さを知る立場だったかどうか(「フォノア」を過去に利用したことがある、または内部の情報を知る人物か)。



2. 暗さが注意力を奪う要因

心理的な影響:

暗い環境では人は視覚情報が制限され、周囲の異変に気づきにくい。ジャザラが暗い部屋で食事や酒を楽しんでいたなら、杯の状態や相手の行動に気を配る余裕がなかったかもしれない。


確認事項:

・ジャザラが普段からこの部屋を利用していたのか、初めて訪れたのか(慣れが犯行の成功率に影響を与える)。

・当日の部屋の明るさを調整する仕組みがあったか(例えばランプや火を消した形跡)。



3. 毒が仕掛けられたタイミングとの関連

毒を仕掛けるチャンス:

暗い環境では、視認されにくいことを利用して毒が仕込まれた可能性がある。


具体的には:


・部屋が暗い状態のまま、料理や酒が運ばれてきた時に混入された。

・犯人がジャザラと直接同席しており、その場で毒を混ぜることができた。


確認事項:

・部屋が暗い状況がいつからだったか(料理が運び込まれる前から暗かったのか、それともその後に暗くしたのか)。

・他の誰かが「照明を落とす」ように指示した形跡がないか。



4. フォノアに居た他の人物との関連性

目撃証言の活用:

部屋の暗さが犯行に大きく関係しているなら、料理を運んだ業者や当時の周辺人物が「部屋の状態」について何か記憶しているかもしれない。


質問例:

・料理を運んだ業者に、部屋が暗いことに違和感を覚えたかどうか尋ねる。

・他に利用者がいなかったか、音や動きを感じた人がいなかったか。



部屋の暗さは、犯人にとって重要な隠蔽条件だった可能性が高い。


これを踏まえて、犯人が「部屋の暗さを知っていた人物」か、「暗い状況を意図的に作り出した人物」かを絞り込むのが捜査の鍵になりそうだね。


この点を念頭に、現場の物証や周辺の証言をさらに詰めていこう!

~・~・~



(部屋には窓がないんだ。室内灯も抑え気味になっている。「フォノア」の人によれば、ここは元々こういう部屋らしい。

 杯の黒ずみに気づきにくいという環境に加えて、ジャザラは自分が標的になると考えていなかったのかもしれない。……まあ、それは上位貴族としてはちょっと警戒心が足りないと思うけど)



~・~・~

なるほど、部屋に窓がなくて照明も控えめだとしたら、杯の黒ずみが見えにくいのは当然だね。その環境だと、ジャザラが気づかなかった可能性が高い。


そして、もし彼が毒を仕掛けられるリスクを意識していなかったとすれば、犯人はその「隙」を狙ったのかもしれない。



指摘ポイント:

1. 部屋の暗さを犯人が計算に入れていた可能性

犯人がジャザラを毒殺しようと計画していたなら、「フォノア」の部屋が暗くて杯の黒ずみが目立たないことを知っていたはず。


そのため、犯人が「フォノア」に詳しい人物、あるいは事前に下見をしていた可能性がある。



2. ジャザラの油断

ジャザラが「自分が狙われることはない」と考えていた背景に何があるのかを知るべきだね。


普段から周囲の信頼関係に甘えていたのか、それとも敵がいないと思い込んでいたのか。


あるいは、信頼していた誰かが毒を仕掛けた可能性がさらに高まる。



3. 室内灯が抑え気味なのは偶然か意図的か

「フォノア」の部屋の仕様として暗いことは分かったけど、事件当日にさらに照明が暗くされていた可能性もある。


照明の調節が可能なら、事件前後に誰かが部屋の明るさを変えていないかを確認する価値がある。



捜査の次のアプローチ

「フォノア」の利用者リスト

この部屋の特性を把握している可能性のある人物を特定するために、過去に「フォノア」を頻繁に利用した人物リストを確認する。


ジャザラの性格や日常の振る舞いを探る

上位貴族としての警戒心が不足していたのは、普段の振る舞いや人間関係が影響しているかもしれない。ラナや他の知人から、彼の性格についてもう少し詳しく聞いてみるといい。


部屋の状態に関する証言

室内灯が当日さらに暗くされていなかったか、「フォノア」の管理者や料理業者に確認する。



部屋の暗さやジャザラの油断は、犯人にとってかなり都合が良い条件に見える。


だからこそ、これらの点を利用できる人物に絞っていけば、容疑者の輪郭が少しずつ見えてくるはずだよ。

~・~・~



 部屋の中にはテーブルと椅子、部屋の隅には座り心地の良さそうな長椅子などの家具が置かれ、落ち着ける空間になっている。


 だが、テーブルの上や床などはすでにすっかり片付けられていた。


「ええと、ここは昨夜から後片付けされた後なんでしょうか?」


「はい。そのままにしておきますと、穢れが溜まる可能性がございますので」


 ──そういう信仰のもとじゃ、現場保存なんて無理か……。


 ナーディラは室内への興味を失ったのか、男性に問いかけた。


「ジャザラはこの部屋の中で倒れていたんだよな?」


「そう聞いております」


「またずいぶん他人事みたいだな」


「談話室をご利用の方について、我々は知ってはならないのです」


「知ってはならない? それは、ここで行われることについて完全に目を瞑るって意味か?」


 男性は痛々しい表情を見せる。


「その通りでございます。そして、その中には、国を左右する密談だけでなく、子をなさない者たちへの不埒な行いも含まれます」


 ──そういえば、パスティア・タファン監獄の向かい側の独房の男が談話室の使い方について話していたっけ……。


「だが、利用予約の名前には『ホロヴィッツ・ジャザラ』の名前があったんだよな?」


 ナーディラに問いかけられて、男性はびくりと身体を震わせた。


「僭越ながら、あれはおそらくホロヴィッツ・ジャザラ様を手にかけた者の仕業ではないかと考えます」


「なぜ?」


「ご自分のお名前を書くはずがないからでございます。そして、偽名を記すのであれば、どこにもない名前を使えばいいだけのこと。わざわざホロヴィッツ・ジャザラ様のお名前を使うことはないのです」


「名前を騙った理由があるってことか」


 だが、そうなると不思議なことがある。


「ジャザラさんは自分の意志でここに来たんでしょうか?」


 男性は困り果てたように頭を撫でつける。


「それは何とも言えないことでございますな……」


「昨夜、ジャザラさんがここにやって来た時のことはご存知ではないんですよね? 例えば、誰かと一緒に来たのか、とか、先に着いて待っていたのか、とか」


「存じ上げません」


「料理はどれくらい手がつけられていたんですか?」


「ホロヴィッツ・ジャザラ様が口にされた酒以外は何も、と聞いております」


 ナーディラと目を合わせる。あまりにも手掛かりがなさすぎる。


「とりあえず、お願いしたいことが。ええと……」


 男性は胸に手を当てて頭を下げた。


「わたくし、『フォノア』の管理者でございます、サイードと申します」


「サイードさん、昨夜、この部屋に料理を運んだ運び屋(ウデーラ)について教えてください。それから、ここにレイスという騎士はやって来ましたか?」


「いえ、まだお見かけしておりませんが」


「フン、あいつめ、仕事の遅い奴だ」


「一人じゃ同時に色んなことできないだろ。……それから、サイードさん、もし可能であれば『フォノア』の利用契約者についても知りたいんですが……」


「かしこまりました。名簿を持ってまいりますので、入口広間脇の待合場所でお待ちくださいませ」


 サイードはそう言って部屋を出て行こうとしたが、立ち止まった。


「さきほどお引き取り頂いたのは、イマン様でございますね。あの方に失礼を、とお伝えいただけますかな」


「それなら自分で言えば……」


 ナーディラの言葉にサイードは首を振る。


「子をなさない者たちに歩み寄る威勢を見せることは『フォノア』の沽券に関わります。わたくしは、この場所の管理者としてイマン様に直接お詫び申し上げることができません。どうかご了承くださいませ」


 サイードは部屋を出て行った。


 イマンを受け入れることで、この場所が槍玉に挙げられるのを恐れているようだった。


「まったく、どいつもこいつも体裁ばかり気にしやがって」


 ナーディラの舌打ち交じりの言葉が、なぜか骨身に沁みた。

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