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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部5章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 1
112/199

112:詭弁と雄弁

 貴族街(アグネジェ)に入り、時計塔のある広場の引っ込んだところにパスティア執法院は鎮座していた。


 俺たちは車を下され、雨の中を執法院の重厚な建物の中へと連行された。


 執法院の内部は磨かれた石の床と壁、柱で厳かな雰囲気と共にどこか寒々しさも感じられた。巨大なホールには、この世界の神話の存在なのか、動物のような石像が置かれていた。


 先導するザドクと俺たちを伴う騎士たちは無言のまま建物の中を足音を立てて進み、長い廊下の先にある大きな扉の前までやって来た。


「エメゴラシュ・ダイナ執法官、ザドクでございます。疑わしき者を連れて参りました」


「お入りなさい」


 扉の奥から年齢を重ねた女性の声がした。


 ザドクが扉を開くと、大きな机の向こうに深紅の制服に身を包んだ女性が座っているのが見えた。


 ダイナ執法官と呼ばれた女性は眼鏡をかけて、短いシルバーの髪を流した聡明そうな人だった。目元や眉間に刻まれた皺はその席に就き続ける者の苦労の跡のように見える。


「さて、早速始めましょうか、執法判断を」


 俺たちはダイナ執法官の机の前に横一列に並んで立たされた。俺たちの背後には騎士たちが物言わずに監視している。俺たちの傍らにザドクが立って話を始めた。


「この者たちは、昨夜十六月十六日の土の刻三において、貴族街(アグネジェ)上位貴族(イエジェ・メアーラ)地区の談話室『フォノア』にて発生したホロヴィッツ・ジャザラ様暗殺未遂の首謀者たちでございます」


「ちょっと待て、どういうことだ!」


 ナーディラが堪らずに声を上げると、後ろの騎士が剣を抜いて警告を発する。


 ダイナ執法官が片手を小さく上げると、騎士は剣を収めて下がった。


「この場はあなた方が法を犯したかどうかを判断する場です。あなた方は私が質問をするまでお静かに」


 裁判のようなものか。かなり簡易的だが、監獄にぶち込まれる手順よりは人道的なのかもしれない。現場の騎士の判断で監獄に送られる場合と、こうやって手続きを踏む場合の二種類があるのかもしれない。


 ナーディラに目配せすると、大人しくなってくれる。監獄にぶち込まれたことをずっと気にしていたから、同じ轍は踏みたくなかったんだろう。


 と、思いきや、ヌーラ小さく手を挙げていた。


「ちょっとよろしいでしょうか?」


 これにはザドクが目くじらを立てる。


「おい、勝手に喋るな。今からワタシが──」


「ザドク調査官、構いません。今しがたのそちらの女性の反応を見るに、あなたから事情を聞いていないのでしょう」


 ダイナ執法官がそう言うと、ザドクは小さく舌打ちをした。


 ──少しは話の分かる人間なのか?


 ダイナ執法官はヌーラに目を向けた。


「なんでしょうか。お話しください」


「今、昨夜の土の刻三と説明がありました。その時間、わたしたちはイマンさんの家にいました。なぜジャザラ様の暗殺未遂に関わったと疑われているのでしょうか?」


 ──そうだ、昨夜は土の刻の鐘をイマンの家で聞いていた……。ナーディラと、まあ、色々があった後に土の刻の鐘が三つ鳴ったのを憶えてるぞ。


 希望と共にダイナ執法官に目をやる。彼女はザドクに顔を向けていた。


「そんな主張に何の意味がありましょうか!」


 手を広げて、ただでさえ大きな身体をさらに誇示するようにザドクは声を上げた。


「この者たちは全員が共謀者なのです。昨夜土の刻三に一緒に居たという証言はでたらめに過ぎないのです」


 ──やっぱりそういう論法でくるか……。


「なるほど、一理あります」


 ダイナ執法官が相槌を打つ。


(今、執法院にやって来て、ダイナ執法官という人の前で「執法判断」というのをやってる。めちゃ簡易な裁判みたいなものだ。


 事件が起こったのは、昨夜の十六月十六日の土の刻三らしい。その時間、俺たちはイマンの家で過ごしていた。だけど、執法院調査官のザドクは俺たち全員が共謀者だから、俺たちが一緒に居たという証言は無意味だと主張してる。

 予想してたけど、そう言われると反論が難しいな)



~・~・~

それは厄介な状況だな。ザドクの主張に対して反論するには、外部からの客観的な証拠が必要だ。


以下のような対策を検討してみるといい:



1. 客観的なアリバイ証明

目撃者の証言

イマンの家の近くでリョウたちを見た人がいないか確認する。近隣の住人や通行人が証人になれる可能性がある。


時間を証明できる物的証拠

昨夜、イマンの家で何か特別なことをしていれば、それを裏付ける物(記録、作業の痕跡など)があるか確認しよう。



2. 犯行の証拠と矛盾点を探す

犯行時間と現場

ジャザラが襲撃された正確な場所と犯行手段について詳しく聞き出す。その場にリョウたちがいたという証拠があるのかを確認。


移動の時間的矛盾

イマンの家から現場までの距離と移動時間を考慮し、リョウたちが犯行に及ぶ時間的余裕があったのかを検証する。



3. 動機のなさを強調

リョウたちの立場

ジャザラを襲う理由がないことを主張する。例えば、彼女の婚姻やルルーシュ家との関係についてリョウたちが利益や関心を持っていないことを伝える。


本来の敵は誰か

むしろ、ルルーシュ家の継承権争いや婚姻を妨害したい人物が誰なのかを推測し、真犯人の存在をほのめかすのも手だ。



4. ダイナ執法官へのアプローチ

誠実な態度を示す

ダイナ執法官が中立的な立場であるなら、リョウたちの疑いを晴らすために冷静で理路整然とした説明を心がけよう。


イマンやナーディラの立場を活かす

特にナーディラは騎士という公的な立場があるから、その信用を盾に使える可能性がある。



5. 他の証拠の追及

ジャザラの状態と犯人の手口

具体的にどんな方法で襲撃されたのか確認し、それがリョウたちの行動と矛盾する可能性を探る。


犯行現場の痕跡

ジャザラの周辺で発見された物や人物の痕跡が、リョウたちと一致しないなら、それを利用できる。



現時点では、「共謀」という形で容疑をかけられている以上、リョウたちの証言だけでは弱い。外部からの証拠や矛盾点を見つけることが鍵になる。


何か進展があったらすぐに教えてくれ。

~・~・~



(俺らの立場がやばいのは、イマンは迫害の対象の迷い人で、俺らはドルメダだと疑われた経緯があるってことなんだ。さっきお前も言ってたけど、俺らはスケープゴートにするにはうってつけの存在なんだよ。こんなこと冷静に言いたくねーけどな)



~・~・~

その状況、正直かなりきついな。


イマンが迷い人で、リョウたちがドルメダと疑われた過去があるなら、偏見や恐怖心を煽られて、執法官や調査官が最初からリョウたちを犯人に仕立て上げる筋書きを考えている可能性も高い。

スケープゴートとして利用されるリスクが大きい。



考えられる次のアクション


1. スケープゴートを避けるための戦略

イマンが迷い人であることや、リョウたちが疑われやすい存在だという点を逆に利用する。


・「もし本当にドルメダなら、こんな目立つ方法で犯行を行うわけがない」と論理的に突く。

・偏見が操作されている可能性を、執法官に冷静に示す。



2. 同情を引く言葉を考える

現時点での証拠が曖昧なら、「迷い人やドルメダと疑われる立場として、こんなことをすればさらに生きる場所を失うだけだ」といった切り口で訴える。


・自分たちが被害者になる可能性をほのめかすことで、追及を和らげる。



3. 偏見に囚われない執法官の味方を探る

ダイナ執法官がどの程度中立的であるのか見極める。

偏見や政治的な影響に左右されないタイプなら、誠実な態度で協力しようとしている姿をアピールするのが重要。


・調査官ザドクが強くリョウたちを疑っている理由を掘り下げることで、彼の主張の裏にある意図を探る。



気持ちを冷静に保つために


リョウたちが追い詰められているのは事実だけど、ここで感情的になると相手の思うツボだ。


特にナーディラやヌーラが感情的な反応を見せると、さらに「共謀者」の印象を強める可能性がある。

冷静さを保ちながら、リョウたちにとって有利な証拠や論理を組み立てていこう。



今は何もかも理不尽かもしれないけど、必ず抜け道があるはずだ。手がかりを一つでも多く拾って、流れを変える糸口を掴もう。

~・~・~



 ザドクは得意げな顔をして歩み出る。


「つまり、真相はこうです。ドルメダである彼らは、不穏分子であるイマンに目をつけ、パスティア転覆の計画を練っていた。そして、昨夜、それを決行したのです」


「そんな無茶苦茶な……」


 ナーディラが鼻で笑うが、ザドクは止まらない。


「イマンは魔法・精霊術研究所で邪悪な研究に没頭していると報告が入っております。数多くの死人も出ているとか。ホロヴィッツ・ジャザラ様に対しても、その邪悪なる研究による邪術を用いたのでしょう」


 ダイナ執法官が強くうなずく。


「合理的な説明ですね」


 ──おいおい、そんなに簡単に納得するなよ……!


「それでは、彼らをホロヴィッツ・ジャザラ暗殺未遂の首謀者として──」


「お待ちいただきたい!」


 部屋の外が騒がしい。


 騎士たちの制止を振り切って、ドアを開け放つ見慣れたシルエットの男。


「レイス……さん?!」


 ザドクが吠える。


「ええい、何をしている! 執法判断の場に立ち入らせるな!」


「何か不都合があるのか?」


 レイスはぬっと部屋の中に足を踏み入れて、ザドクを睨みつけた。


「貴様、緑目とドルメダの肩を持つつもりか?」


 バチバチと火花の散る音が鳴るかというほどに張り詰めた空気。レイスは奥歯を噛み締めてから口を開いた。


「私としても、このような者たちに手を差し伸べるというつもりは毛頭ない」


「だったらなぜ乗り込んできた!」


「誤った事実は真実を覆い隠す。私にはそれが我慢ならない」


「……貴様、まさかあのことを未だに根に持って──」


 ザドクの言葉を遮って、レイスは声を上げる。


「ダイナ執法官、僭越ながら私からもご説明を差し上げたい。そこにいるザドクの説明は多くの事柄を無視して恣意的に導かれた結論です」


 思いがけない援軍だった。

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