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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部5章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 1
111/199

111:最悪な目覚め

 何やら騒がしい。


 ベッドの中で目を覚ました俺をナーディラが見下ろしていた。


「おい、大変なことになったぞ」


 カーテンから差し込む光が鈍い。雨が降っているのだ。


「今、何時だ……?」


「さっき火の刻になったばかりだ。寝惚けてないで起きろ」


「あんなに激しくされたから体力使い果たしたんだよ……」


 ナーディラが顔を赤らめる。


「ば、ばかっ! そんなこと言わなくていいんだよ! 早く居間に来い!」


 まるで自分の家かのようにそう言って、ナーディラは部屋を出て行った。


 ベッドの脇の小さなテーブルにルルーシュ年代記がある。


 ──そうだ、昨夜はこれを読んでたら寝ちゃったんだ。


 半分寝ながら読んだせいで、内容はもう憶えていない。いや、内容が頭に入っていなかったと言った方がいいかもしれない。


 ザラザラと雨音が鳴る中で、着替えを済ませる。


 ──大変なこと……ここに来てから以上に大変なことなんてあるのか?



***



 居間に向かうと、イマンをはじめ、ヌーラやアメナもすでに揃っていた。その表情は今日の天気のように晴れない。


「来てくれたか」


 俺の姿を認めると、イマンが口を開いた。ナーディラが嫌味っぽく笑う。


「リョウはお寝坊さんなんだ」


 遅く起きたことを咎められているような気がして、俺の脳裏には研究所の勤務時間のことが頭をよぎった。


「すいません、研究所に行く時間が過ぎちゃいましたか……?」


 イマンは顔を強張らせている。そんな姿を俺は初めて見た。


「落ち着いて聞いてほしい」


 まるで自分に言い聞かせるようだった。


「ホロヴィッツ・ジャザラが瀕死の状態だそうだ。暗殺が図られた可能性がある」


 不意打ちすぎて、訊き返してしまった。


「え、ジャザラさんって、昨日会った、あの……? 瀕死? どういうことですか?」


「僕にもよく分からないんだ。今朝来てくれた運び屋(ウデーラ)から聞いたばかりで……。どうやら、現在の貴族街(アグネジェ)は厳戒態勢のようだ」


 イマンが蒼白な顔で椅子に腰を落とす。


「何が起こって……」


 そう言うことしかできなくて、だけど、ヌーラが不安そうな顔でアメナと手を握り合っているのを見て、しっかりしなければ、と心に刻む。


 カビールは俺たちの歓迎会を開くと言ってくれていた。だが、許嫁であるジャザラが大変な状況では、中止せざるを得ないだろう。ルルーシュ年代記について、色々訊きたかったんだが、それどころじゃない。


「とにかく、ここで手をこまねいていても何も始まらないだろ。情報を集めようじゃないか」


 俺たちを鼓舞するかのようにナーディラが手を叩く。イマンは我に返ったようだった。


「……そうだね。何も知らないまま頭を捻っていても仕方がない。研究の本質と同じだ」


 ひとまず朝食をとろうという段になって、家の外にガラガラと車の近づいてくる音が盛大に聞こえた。すぐに家の中でベルの音が鳴る。


 玄関のドアを乱暴に叩く音とだみ声が聞こえる。


「イマン、中にいるのは分かっている! 出てこい!」


 嫌な予感を飛び越えて、確信が居間の中に広がった。


 全員で玄関に向かい、イマンがドアを開けると、深紅の制服に身を包んだ巨漢が立っていた。被っているフードは雨に濡れている。


 四角い顔に白髪交じりの頭。神経質そうな顔を、苦虫を噛み潰したようにさらに渋くした感じの顔つきだ。


「おお、揃い踏みじゃないか」


 イマンの表情が曇る。


「執法院の方がなぜここに……?」


 男はザドクと名乗って俺たちの顔を見回した。


「緑目とドルメダだな」


「ちょっと待ってください。俺たちはドルメダじゃない」


 記憶がないというのは差し置いて瞬間的に言い返すと、ザドクは訝しげに目を細める。


「ドルメダの疑いでパスティア・タファン監獄に収監されたことは分かっているんだ」


「だから、それはあくまで疑いであって事実ではないんですよ」


 ザドクがガハハと下品な笑い声を上げる。


「御託はいい。とにかく、お前たちを執法院に連行する。話はそれからだ」


 ザドクが合図を出すと、表で待機していた騎士たちが俺たちを拘束し始める。


 抵抗する隙も耐えられないまま、イマンの家の正面に並んでいた二台の深紅の車に分乗させられる。


 俺はイマンと共に車の中に突っ込まれて、外側から鍵をかけられてしまった。窓もない車内は固い木の椅子があるだけで、快適さを無視してでも人間を運ぶことを考えて作られたことが分かる。


「一体何なんですか、これは……?」


 イマンは冷静に考えを巡らせているようだった。


「執法院の人間がやって来たとなると、事件の調査に派遣された可能性が高い。ザドクは執法院調査官だろう」


 ──捜査官みたいなものか……。


「執法院って、例のタマラさんとかジャザラさんが関わってるっていう、あの執法院ですよね?」


「その通り。執法院調査官は、パスティアの法が遵守されているかどうかを調べる役割を担っている」


 車が走り出す。


「……また監獄にぶち込まれるんでしょうか」


「執法院に連行すると言っていた。僕たちの処遇は執法官の判断に委ねられることになるだろう」


「一体なんで急にこんなことに……」


 イマンが俺の目を覗き込む。


「分からないのか? 僕たちが目をつけられたのは、ホロヴィッツ・ジャザラが瀕死になった件と無関係ではあるまい」


「え? だって、僕たちは無関係じゃないですか……!」


「僕は子をなさない者で、君たちは一度はドルメダの疑いをかけられた……重大事件の首謀者としてこれ以上の人選はないだろう」


「人選って……無実の罪を着せられるってことですか?」


 パスティアの現状を見るに、俺の言葉もあながちいきすぎたものではないだろう。イマンの固く結ばれた唇がそれを物語っている。


(サイモン、事件だ。ホロヴィッツ・ジャザラが何者かの手によって瀕死の状態になったらしい。で、パスティアの執法院というところから調査官が急にやって来て、俺たちは連行されてる。どうやら俺たちを犯人だと見ているらしい。俺たちというのは、イマンとナーディラ、ヌーラ、アメナの五人だ。ジャザラの件も俺たちが連行されているのも、状況は何もかも分からない……)



~・~・~

それは緊迫した状況だな……まずは冷静になろう。


以下のポイントを念頭に置いて行動してくれ:


1. 何が起きているかを把握する

連行中や執法院に着いたら、可能な限り冷静に状況を確認しよう。

なぜ自分たちが疑われているのか、具体的な証拠や理由を尋ねるんだ。調査官が何かを示してきたら、しっかり覚えておくこと。


2. 連行中の言動に注意

不必要に攻撃的な態度を取らないように。逆に、供述や反応が状況を悪化させる可能性があるから、軽率な発言は避けよう。

他の仲間たちとも無闇に会話をせず、まずは調査官の動きを見るんだ。


3. 状況を記憶する

連行される経緯、聞かれる質問、拘束される場所の特徴、調査官の様子など、すべて可能な限り覚えておくこと。後で状況を整理する際に役立つ。


4. ホロヴィッツ・ジャザラの状況について情報を集める

もし尋問や対話の中で、ジャザラがどんな状態で見つかったのか、どんな状況証拠があったのかなどが語られたら、それを記録して頭に入れておこう。

ジャザラに敵対する他の人物や勢力について思い当たることがあるなら、それも心に留めておく。


5. 自身の無実を証明する方法を模索する

アリバイがある場合、誰がそれを証明できるかを考えておけ。

自分たちが犯行を行える状況になかったことを示す証拠がないか、可能性を検討するんだ。


他の仲間たちと一緒にいるなら、お互いに冷静さを保ちながら対処するよう心がけてくれ。


進展があったら、すぐに教えてくれ。状況に合わせた助言をするよ。

~・~・~



 車はパスティア・タファンの街をグングン上っていく。


「執法院っていうのはどこにあるんです?」


貴族街(アグネジェ)だよ。魔法・精霊術研究所の近くにある」


「どうしてわざわざそんなところに……。支部かなんかはないんですか?」


「これがホロヴィッツ・ジャザラの件と関連があると僕が考える理由はそこだ。確かに、執法院の支部はパスティア・タファンに点在している。わざわざ僕たちを貴族街(アグネジェ)に入れるというのは、情報が拡散しないような措置かもしれない。僕の家で無駄な時間を使わずに強引に連行したやり方を見ても、尋常ではないことは明白だ」


「ジャザラさんは次期大公妃ですもんね……。そんな人が瀕死の状態に陥ったのなら、確かに大事件ですね」


「どうしてジャザラさんが被害に? 誰かに狙われたんでしょうか? 何のために?」


 イマンは手のひらを額に当てて深く息をついた。


貴族街(アグネジェ)の影には陰謀が渦巻いていると言われる。ルルーシュ家の継承権を巡る争いの歴史があるんだ。その中では、暗殺も行われてきた……」


「え、じゃあ、今回のことも……?」


「その可能性はあるかもしれない」


(ジャザラはカビールとの婚姻を控えてる。つまり、婚姻が成立すれば、ルルーシュ家に入るということだ。どうやら、パスティアの貴族街では、ルルーシュ家の継承権を巡って、影で争いが行われてきた歴史があるそうだ。暗殺もあったらしい)



~・~・~

なるほど、ジャザラが標的になった背景には、ルルーシュ家の継承権争いが絡んでいる可能性が高いな。


それが事実なら、今回の事件は単なる個人的な恨みや偶然ではなく、もっと大きな陰謀の一部かもしれない。


以下の点を考慮するといい:



1. 事件の動機を探る

婚姻が持つ意味

ジャザラがルルーシュ家に入ることで、誰が利益を失い、誰が得をするかを考えるんだ。

特にカビールと敵対する人物や派閥が絡んでいる可能性がある。


継承権の影響

ジャザラがルルーシュ家に加わると、彼女やその子孫が何らかの権利を持つことになる。

これが現継承者や別の候補にとって脅威だった可能性も。



2. 暗殺の歴史との関連性

もし過去にルルーシュ家の継承権争いで暗殺が行われてきたなら、今回の事件もその延長線上にあると考えるべきだ。


具体的に調べたいのは:

暗殺の手口や特徴:今回のジャザラへの攻撃と類似点がないか。

過去の暗殺で疑われた勢力や人物:彼らがまだ影響力を持っているかどうか。



3. 自分たちが疑われる理由を推測する

パスティアの執法院がリョウたちを容疑者として挙げた理由が、単なる偶然ではない可能性もある。


以下の可能性を考えてみてくれ:

都合の良いスケープゴート

他に真犯人がいて、リョウたちは無実でありながら、何らかの理由で罪を押し付けられた可能性。


偶然が重なっただけ

現場の近くにいたとか、何かが誤解されているだけかもしれない。



4. 協力者を見つける

カビールに連絡が取れるなら、彼にこの件を報告するのも手だ。彼は婚姻に関わる事情を知っているだろうし、執法院に影響力があるかもしれない。


ジャザラ自身が目覚めれば、彼女の証言が鍵になる可能性もある。彼女に敵意を持つ者や最近の動向について聞き出す必要がある。



5. 冷静に動く

今の段階では、調査官に対抗するのではなく、可能な限り情報を引き出し、自分たちの立場を整理することが重要だ。


ナーディラやイマンたちが知っていることを共有し、疑問点や矛盾を一緒に洗い出してくれ。



貴族社会の争いは複雑で根深いが、リョウの立場で考えられることを順々に進めていこう。


進展があれば、また教えてくれ。

~・~・~



 ──どうしてこう次から次へと問題が降りかかってくるんだ……!


 車が停まって、外で門の開く音がする。


 しばらくして、雨の打つ音に追い立てられるかのように車が動き出す。


 貴族街(アグネジェ)に入るのだ。

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