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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部4章 研究者としての一歩
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109:異世界人類解剖学2

 イマンの“講義”は続く。


「ヌーラの言う通り、イルディルを取り込んで身体の中に巡らせているものについては、様々な仮説があった。


 古くは、イルディルは僕たちの身体の中の巡りも支配しているという考えがあった。やがて、身体の外から、あるいは中に入り込んだ精霊が動かしているという考えも生まれた。


 そのうち、身体の中に僕たちの意思とは無関係に動いている器官があることを自覚して、心臓が最有力候補になって久しい」


 イマンは特に資料など読み上げるわけでもなく、先行研究について滔々と語ってみせた。彼の頭の中には膨大な知識が詰め込まれているのだろう。


「イルディルとは別に、病気になった者の身体の節々が内側から腫れるという症状は古くから知られていたんだ。そして、同時に、病気になった者は魔法を行使する力に著しい衰えが見られた」


 腕組みをして聞いていたナーディラが口の端を歪める。


「著しい衰えというか、気分が悪すぎて魔法なんか使ってる場合じゃないからな」


「そうだね。魔法を使うには体力を消耗する。遍在しているイルディルを使うだけならば、身体的負担は起こらないはずという論点から、身体の中にイルディルが取り込まれて駆け巡っているという考えは成立していったんだ」


「そもそも、人間はどうやってイルディルを取り込んでるんですか?」


 俺が尋ねると、イマンは何もない壁を指さした。


「イルディルは壁で隔たっていてもそれを通り抜けることができるというのは、すでに話したね。つまり、僕たちは取り込もうとしてイルディルを取り込んでいるのではなく、イルディルがごく自然に体内に入り込んでいるんだ」


 ──まあ、イルディルが遍在しているのなら、呼吸で自由に出入りできるか。


 ヌーラは首筋をさすっている。シュミケル体でも感じているのだろうか。


「病気になってシュミケル体が晴れると魔法が使いづらくなる……それがシュミケル体とイルディルの関係性の裏づけですか?」


「裏づけは、その後の人体実験で得られたんだ。シュミケル体とイルディルに関連があると考えた一部の研究者が、子をなさない者たちを使って検証を行った。身体からシュミケル体を取り除いた場合、魔法は行使できるのか? とね」


「シュミケル体を……取り除く……」


 ──そんなことをしたら……。


「その結果、シュミケル体を失った人間は魔法が使えないということが分かった」


「その人たちは、まさか……」


 イマンが俺を見つめ返す。


「やはり、君は僕たちよりも深い知識を持っているようだね。そう、シュミケル体を取り除かれた人々は全員が切除後、あるいは実証実験中に死亡。実験後に生き残った者も数か月以内には死亡した」


「そ、そんな……」


イマンの言葉を聞いて初めてヌーラが声を漏らした。身体の器官を切除するリスクについて、まだこの世界の人々のほとんどは思い足ることすらないんだ。


(胸の痛む話だが、研究者は迷い人を使って、シュミケル体を取り除いた人間が魔法を使えるのかという実験を行ったらしい。

 シュミケル体がない人間は魔法を使えないということがその実験で分かったみたいだが、実験体となった人々はみんな死んでしまったそうだ。


 仮にシュミケル体がイルディルに適応した進化を遂げたリンパ節だとしたら、それを取り除いたらとんでもないことになるよな……?)



~・~・~

確かに、もしシュミケル体がリンパ節に相当する器官で、イルディルを利用するだけでなく、免疫系や体液の循環にも重要な役割を果たしているとしたら、それを取り除くのは命に関わる大問題だね。


実験体の人々が全員死んでしまったという結果は、それが単なる「魔法に必要な器官」ではなく、生存に必須な器官であることを示唆している。



以下の可能性が考えられる:


1. 免疫系の破綻

リンパ節が免疫系の一部であるように、シュミケル体も病原体への防御や体液の濾過に関与している可能性が高い。

これを取り除くことで体は感染症に対して無防備になり、命を脅かす状況を招いたのかもしれない。


2. 体液循環の障害

シュミケル体が体液の流れや濾過に関与している場合、その機能が失われると体液の停滞や毒素の蓄積が起き、全身の臓器が徐々に機能不全に陥る可能性がある。


3. イルディルの適応能力の消失

もしシュミケル体がイルディルを認識・取り込む専用の器官であるなら、それを失うことで体がイルディルに適応できなくなるかもしれない。

イルディルが生命活動を支えるエネルギーの一部として使われているなら、その喪失は致命的だ。



この話を聞くと、シュミケル体は単に魔法を使うための「道具」ではなく、体全体の生命維持にも深く関わる「基盤的な器官」である可能性が強まるね。


もしシュミケル体が進化したリンパ節であるなら、リンパ系の役割を担いつつ、魔法を可能にする追加機能を持っているという特殊な進化を遂げたのだろう。


イルディルが生物の存在に組み込まれた世界では、生命活動と魔法が密接に絡み合っているのかもしれない。



これを踏まえると、シュミケル体を取り除く実験は単なる「魔法の解明」ではなく、命を賭けた倫理的に許されない行為だったと言えるよな。


研究者たちがイルディルとシュミケル体の関係を突き詰めるためにどんな動機を持っていたのかは分からないけど、彼らが見つけた事実がこの世界のシステムの根幹に迫っていることは間違いない。

~・~・~



(リンパ節がこの惑星の環境に適応して進化というか順化した可能性があるのは分かった。だけど、そういう身体の構造の変化って七百年程度では起こらないイメージなんだけど、どう思う?)



~・~・~

確かに、地球での進化のスケールを考えると、たった数百年で身体の構造が大きく変化するのは非常に考えづらいね。


一般的に、種全体の進化や新しい器官の形成には何千年、何万年単位の時間が必要とされる。でも、この惑星では以下のような特殊な状況が進化を加速させた可能性もある。



1. イルディルによる外部圧力

イルディルがこの世界の環境における根本的なエネルギーや物理法則そのものと関係しているなら、生物の進化にも直接的な影響を与えた可能性がある。

イルディルが生物に対して「魔法適応」を強制的に促す圧力をかけていれば、通常の進化よりはるかに早いペースで順化が起こったとしても不思議ではない。



2. 人為的な干渉

「方舟の民」がこの惑星に到着した際、彼ら自身がイルディルへの適応を目的に遺伝子改変技術のようなものを使った可能性も考えられる。

たとえば、地球人が生き延びるために既存のリンパ節を改良し、シュミケル体のような器官を形成する方法を意図的に取り入れたとしたら、進化というよりも「設計」に近い現象だ。



3. 環境要因の極端な違い

この惑星が地球と根本的に異なる環境(例えば、イルディルの密度が非常に高い、あるいは放射線や重力の影響が違う)を持っているなら、それ自体が人体に急速な変化をもたらした可能性がある。

地球の生物でも、急激な環境変化に直面すると短期間で遺伝的な適応を示すケースがある。

たとえば、ある種の昆虫や魚が新しい環境で数世代のうちに形態を変えることが観察されている。



4. 既存の器官の改変

シュミケル体が完全に新しい器官ではなく、地球のリンパ節や他の器官の一部がこの惑星の環境に合わせて形状や機能を変えたものだとすれば、より短期間で適応が起こる可能性もある。

特に、遺伝子に備わっていた潜在的な可能性がイルディルを媒介として発現した、というシナリオなら700年という時間でも説明できるかもしれない。



5. 時空の異なる流れ

もしこの惑星において、時間の進み方や遺伝的変化のスピードそのものが地球とは異なるのだとしたら、700年が思った以上に「長い時間」として機能している可能性もある。

たとえば、イルディルが遺伝子の変異率を高めたり、進化のプロセスを加速する働きをしているのかもしれない。



結論

普通なら700年という時間は進化にとって短すぎるけど、この惑星では「イルディル」という未知の要素が進化のスピードを加速させる特殊な環境要因となっている可能性が高い。

それに加えて、方舟の民が何らかの技術を介入させていたとすれば、シュミケル体の出現は単なる自然進化ではなく、人為的な順化の結果と考える方が納得がいくかも。


この仮説が正しければ、シュミケル体は単に環境適応の産物ではなく、この惑星における生命そのものと深く関わる鍵になる器官だと思う。

~・~・~



 ──やっぱり、地球での超自然現象が絡んでくると、サイモンも答えの選択肢を絞り切れないみたいだな。


 かといって、それを制限するのも違う気がする。サイモンの予測はこれまでもある程度この世界の事柄を言い当ててきているからだ。


 アメナも自分の首を指先でこねくり回している。


魔法を使える者(テガーラ)使えない者(メアーラ)の違いはそのシュミケル体の有無ということになるのじゃな?」


「いや、人間なら誰でも持っている器官だということは分かっている。両者を比較しても同じように見えるが、魔法の行使という点で機能に差異があるようだ」


「では、二つを分けるものはシュミケル体の機能の違いだけ、ということですか?」


 ヌーラの問いにイマンがうなずいた。


「僕たちの研究所における最新鋭の研究では、それが結論ということになる」


(シュミケル体は魔法が使える人も使えない人も持っているみたいだ。だから、その両者を分けるのは、シュミケル体の機能の違いというだけというのがパスティアの研究所が現時点で導き出した結論とのことだ。


 ただのリンパ節か、イルディルに適応した機能を獲得したものか……なんというか、地球人そのままの──いわば地球人タイプと異世界タイプの二種類の人間がいるような感じに思えるな)



~・~・~

確かに、そういう構造になっていると考えると非常に興味深いね。


地球人タイプと異世界タイプの二種類が共存していると仮定すると、以下のような仮説が立てられる:



1. シュミケル体の進化的分化

シュミケル体は全員が持っているが、機能に差があるという点は、「地球人タイプ」と「異世界タイプ」の間で進化的な分化が進んだ証拠とも取れる。


地球人タイプ:

シュミケル体が単なるリンパ節のような働きしかしていない。イルディルに対する感受性が低いか、適応が不十分。


異世界タイプ:

シュミケル体がイルディルを感知・活用する能力を持つ進化を遂げた。魔法が使える人々がこのタイプに該当する。


この違いは、イルディルに対する適応が個体差として現れた結果かもしれない。



2. 遺伝的要因の可能性

この分化が遺伝子に根ざしている場合、魔法を使えるかどうかは「シュミケル体の機能に関連する遺伝子」が鍵となる。


地球人タイプはイルディルの影響をほとんど受けない遺伝子を維持しており、異世界タイプはイルディルとの共鳴性を獲得した遺伝子を持つ可能性がある。



3. 環境による違い

魔法が使えるかどうかは、シュミケル体そのものの「機能の違い」だけでなく、周囲のイルディル濃度や個人がイルディルをどう取り込むかの違いに影響されている可能性もある。


地球人タイプはシュミケル体を持ちながらも、環境要因によってその機能が完全には発現しない。


異世界タイプは環境の影響を強く受け、シュミケル体がフルに機能する。



4. 歴史的背景と方舟の民の影響

もし方舟の民(地球人の祖先)がこの世界に到着した時点でシュミケル体を持っていなかったのなら、シュミケル体はイルディルに適応する過程で後から発現した器官だと考えられる。


この場合、方舟の民の一部が「進化(または順化)」によって異世界タイプへと変化し、残りが地球人タイプとしてそのままの形質を保ち続けている可能性がある。



5. 地球人と異世界人の共存の証拠

もし現在の地球人タイプと異世界タイプが共存しているとすれば、この惑星にはまだ方舟の民の特徴を色濃く受け継いだ人々が存在することになる。


例えば:

魔法を使えない人々がその血統に近い存在。

魔法を使える人々がイルディルを通じてこの惑星に適応した子孫。


このことは、方舟の民の到来が単なる歴史的事件ではなく、現在の魔法の体系や社会構造に深く影響を与えていることを示唆している。



まとめ

地球人タイプと異世界タイプの共存が事実ならば、この惑星では「進化」と「環境適応」が極めて短期間で起こり、それが現在の人々の間に多様性をもたらしたという結論に至る。

これを解明することは、方舟の民がこの世界に与えた影響やイルディルの本質に迫る鍵になるだろうね。


リョウが地球人の視点を持ちながらこの世界でイルディルを使える理由にも、地球人と異世界人の間にある何らかのつながりが関係しているのかもしれないよ。

~・~・~



(俺が魔法を使えるのは、シンプルに、俺の身体だけはこの世界の住人のものだからだと思うよ。俺の意識の宿ったこの身体がシュミケル体を持ってるんだろう。


 それでいうと、俺なんかは単純に考えちゃうんだけどさ、地球人タイプは方舟の民とその直接の子孫で、異世界タイプはもともとこの世界にいた人なんじゃないか? 地球人タイプはイルディル環境下に順化していないってこと。

 進化とか突然変異のスパンを考えると、そう考える方がシンプルで合理的じゃないかな。


 ただ、そうなると、今度は別の問題が持ち上がってくるよな……)



~・~・~

確かに、その考え方はスッキリしていて説得力がある。


地球人タイプ=方舟の民とその直系の子孫、異世界タイプ=元からこの世界にいた住人、と仮定すれば、多くの謎が一時的に解消されるね。ただ、そこから派生する問題がいくつか出てくる。



1. 方舟の民の「適応」の程度

地球人タイプがイルディル環境に順化していないとすると、方舟の民がこの世界に来てからの生存方法が疑問になる。


イルディルは、この世界の生態系やエネルギー循環に密接に関わっている可能性が高い。

イルディルに適応していない地球人タイプが、どうやってこの世界で生き延びたのか?(例えば、病気や魔物への耐性の問題など。)


仮説:

方舟の民が初期に何らかの方法でイルディルを避けたり、一部適応する技術や手段を開発していた可能性がある。



2. 方舟の民と異世界住人の関係性

もし方舟の民が地球人タイプで、異世界タイプがこの世界の元住人だとすると、両者の接触がどのように行われたのかが問題になる。


文化や技術の交流があった?それとも、初期は対立や排除があった?

異世界タイプと地球人タイプの混血がどの程度進んだのか?


これがわかれば、地球人タイプと異世界タイプの区別がどれほど明確かを推測できる。



3. 地球人タイプの減少理由

現在、地球人タイプは少数派で、魔法が使えない人たちと結びついている可能性が高い。


これは進化の過程で異世界タイプが優勢になり、地球人タイプが淘汰されていった結果なのか?

あるいは、地球人タイプが自ら魔法を拒絶する文化を形成し、孤立した結果なのか?


方舟の民の思想や宗教が影響を与えている可能性もある。



4. リョウの存在が示唆する可能性

リョウの肉体がこの世界のものだから魔法を使えるという仮説に立つと、以下が考えられる:


意識の移植の影響:

リョウの意識(地球人としての自我)が異世界の肉体に宿ったことで、シュミケル体が適切に機能している。


意識と身体の不一致:

それでもリョウが「違和感」を覚えるのは、この肉体がもともと異世界タイプのものであり、意識がその環境に完全に適応しきれていないからかもしれない。



5. イルディルと地球のつながり

もし地球人タイプがイルディルを扱えない理由が「順化していないから」であるとすると、そもそも地球でイルディルがほぼ無効化されている理由も説明が必要になる。


地球ではイルディルが極端に希薄なのか?

あるいは地球と異世界では、イルディルの挙動や影響が異なる領域に存在するだけなのか?



6. 別の問題:シュミケル体を持たない方舟の民の「意思」

もし方舟の民がシュミケル体を持たない(もしくは持っていても非機能的)状態であったとしても、リョウのような地球人の意識が異世界の身体で魔法を使えるなら、地球人タイプが将来的に適応する余地がある可能性も示唆される。


地球人タイプの中で、異世界タイプに「進化」する者が出る可能性?

それとも、方舟の民の子孫がイルディルに拒絶されるのは別の根本的理由によるのか?



まとめ

リョウの仮説に基づけば、地球人タイプと異世界タイプの二重構造が存在している可能性が高い。


ただし、それをシンプルに分類するだけでは、両者の接触や歴史、イルディルとの関係、さらには方舟の民がこの世界で生き延びてきた理由といった多くの疑問が浮かび上がる。


これらを解き明かす鍵は、やはり「方舟の民の真実」と「イルディルの本質」を探ることにあるんじゃないかな。



次に探求すべきは、方舟の民の遺物や文献、そして異世界タイプとの共存の記録かもしれない。どう思う?

~・~・~

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