107:「方舟の民」の正体について
「少ししたら運び屋が食事を運んできてくれるよ」
イマンが大きな本を抱えて戻ってきた。
「ありがとうございます……」
「どうかしたのかい?」
礼を言う俺にイマンが目敏く尋ねてきた。
どう話したものかと躊躇っていると、ナーディラが機転を利かせてくれた。
「リョウはドルメダの根城に繋がる鍵を持っていただろう? だが、リョウには記憶がない。いずれドルメダからの接触があるんじゃないかと話していたところなんだ」
イマンはゆっくりと長椅子に腰かけて吐息を漏らした。
「それはあり得る筋書きだな。リョウがドルメダかどうかという問題とは別に、その恐れはある。仮にドルメダから接触があり、何らかの命令や同行を要請された場合、君はどうする、リョウ?」
「そりゃあ、突っぱねるしかないですよ」
「では、ここにいる誰でもいい。例えば、ナーディラの命が天秤にかけられたとしたら、君はどうする?」
考えてもみなかった。
だが、もしドルメダが卑劣な手段を講じるのならば、イマンが言う通り、あり得るシナリオだ。
(俺がこの世界で目覚めた時、ドルメダの根城に繋がる鍵を持っていただろ?
今はレイスに渡したけど、俺がドルメダかどうかはともかく、少なからず関係性があることは事実だ。今後、ドルメダから接触される可能性もある。
イマンから問いかけられたんだ。「もしドルメダから何か命令された時、ナーディラたちの命が天秤にかけられていたらどうする?」って。
考えてもみないことだった……)
~・~・~
それは重い問いだな……。
イマンがその質問をしたのは、君が置かれる可能性のある厳しい選択を想定し、その覚悟を試しているのかもしれない。
ドルメダとの関係性が明らかになる中で、君がどんな道を選ぶのかが、これからの行動に大きく影響するだろう。
もしドルメダから命令を受けた場合、特にナーディラたちの命がかかっているような状況では、君がどのような価値観に基づいて決断するのかが重要になる。
例えば:
考えられる選択肢
1. ナーディラたちを守る
彼女たちは君にとっての仲間であり、君を支えてきた存在だ。
ドルメダの命令に従えば、彼女たちを犠牲にする可能性がある。
しかし、それによって君自身が危険にさらされるリスクも高まる。
2. ドルメダの命令を利用する
ドルメダの命令に表向き従いながら、その裏で彼らの計画を阻止する策を講じる。
リスクは高いが、両者を救う可能性を模索できる。
3. 中立を貫く
命令も仲間も選ばず、あえてどちらの陣営にも関わらない選択をする。
ただし、この場合、結果的に被害が広がる可能性もある。
問い直すべきこと
ドルメダの真の目的:
なぜ君に接触しようとしているのか? 君が彼らにとってどんな価値を持つのかを明らかにする必要がある。
ナーディラたちとの絆:
彼女たちは君をどのように見ているか? 君が苦しい選択を迫られたとき、彼女たちはどう感じるだろう?
君自身の信念:
君が最も大切にしたいのは何か? 誰かを守ることか、それともこの世界の真実を追究することか?
イマンの問いかけは、君がまだ考えきれていない部分を浮き彫りにしてくれたんだと思う。答えはすぐに出なくてもいい。
だが、少なくともこの状況を想定しておくことで、いざというときに君が自分自身の選択を迷いなくできるようになるはずだよ。
どうするべきか悩んだら、何が君にとっての「正義」なのかを心に問うてみるといい。
最終的にどの道を選ぶとしても、それが君自身の意思に基づいているなら、必ず道は開けるはずだ。
~・~・~
「心配するな、リョウ」
ナーディラが俺の肩を叩く。
「お前と私は一心同体だ。ドルメダが接触してきたらぶっ飛ばしてやるよ」
「ありがとう」
「だから、用を足す時も身体を洗う時も一緒に居よう」
激重プロポーズのようなものを真っ直ぐに投げつけられてしまった。
「いや、それはちょっと……」
「遠慮するな」
「遠慮してるわけじゃねー」
「一心同体、とな?」
アメナが何かに思い至ったような顔をしてる。
みんなの前だというのに迫って来るナーディラの顔をアメナの方に向けさせる。
「ほ、ほら、アメナが何か気になることがあるらしいぞ」
「あんな女のことは放っておけ」
「一心同体じゃ!」
アメナが立ち上がる。イマンが本を取り落としそうになる。
「急にどうしたんだい?」
「アメナもリョウも選ばれし者じゃ。互いの心の声が聞こえる。リョウ、もし危険が迫った時はアメナに心の声を飛ばすと良い」
イマンが興味深そうに笑みを浮かべる。
「選ばれし者同士にはそのような共鳴反応が存在するのか」
「いや、アメナ、そうは言っても、心の声なんてどうやって飛ばせばいいんだよ……?」
「訓練あるのみじゃ! アメナのことを深く考えるのじゃ!」
「残念だったな。リョウは私のものだ」
ナーディラがアメナと俺の間に割って入ってくる。思わず彼女の背中に小言をぶつけてしまう。
「別にお前のものになったわけじゃねーぞ……」
「お二人とも、落ち着いてください……!」
なぜこの中で一番の年下のヌーラが仲裁役なんだ、まったく……。
アメナは不服そうに椅子に収まりながら、口を尖らせる。
「アメナのこの心のざわめきを説明する方法が見つかったと思ったんじゃがの」
「心のざわめきぃ?」
ナーディラがバカにしたように笑う。
「アメナの心がなぜリョウに引き寄せられるのか……、そのことを考えると心がざわめくのじゃ。さっき研究所に視察に来ておった二人がおるじゃろ?」
「カビール第一大公公子とジャザラ様だね」
イマンが相槌を打つと、アメナがうなずく。
「そうじゃ、あの二人じゃ。あの二人を見た時も、同じ心のざわめきがあったんじゃ。選ばれし者としての何かが──」
ヌーラがクスリと笑う。
「きっとそれは……」
彼女はナーディラの鋭い視線に気づいて慌てて口を噤んだ。
「なるほど。アメナには、パスティア・アグネジェ劇場での悲劇をおすすめしよう」
「劇場があるんですか?」
「貴族のたしなみというやつだよ、リョウ。もっとも、僕のような者は立ち入りが許されていないのだけれどね。それでも、悲劇の題目となっている物語は『太陽と月』という名で知れわたっているから、多くの人には親しみがあるんだ」
「劇とな? アメナは劇など観たことがない。楽しみじゃ」
イマンは壁にかかる木のパネルに目をやる。
「一月の十日に公演があるはずだよ」
──あれは、カレンダー……?
横に並んだ四枚の木のパネルが縦に四行連なっている。つまり、十六枚のパネルが正方形になるように配置されている。一枚のパネルには一から十六の数字が四×四で並ぶ。それがひと月だ。
左上に「三月」とあり、その行の三から六月の四列にはいずれも土の精霊のモチーフが彫り込まれている。それが、一行ごとに火、風、水という順番で切り替わっていた。
(サイモン、この世界のカレンダーがイマンの家にあったぞ。
十六枚の木のパネルが正方形に並んでる。一枚のパネルがひと月を表してるみたいだ。カレンダーは三月から始まっていて、土、火、風、水と四か月ごとに四元素が割り当てられてる。
地球みたいに月ごとに日数が違ったりしないから、ずっと同じカレンダーを使い続けられそうだ)
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面白いデザインだな。
十六か月のカレンダーに四元素が割り当てられているなんて、この世界の自然観や価値観がよく反映されているよ。
確かに、月ごとに日数が変わらないなら毎年同じカレンダーを使えるから、とても実用的だし、長持ちするのも合理的だ。
三月から始まる理由も気になるところだ。
地球でいう「春の訪れ」のように、何か象徴的な意味があるのかもしれないね。もしかしたら、季節や星の動きと関連している可能性もある。
四元素の割り当てがあるということは、各月や季節に特有の行事や意味合いがありそうだ。
例えば、土の月には豊穣や収穫、火の月には活力や決断、水の月には癒しや静寂を象徴する祭りや風習があるかもしれない。
もし時間があれば、イマンにそのあたりを聞いてみると、さらに面白い発見がありそうだね。
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(昔から疑問なんだけど、なんで地球の暦は月ごとに日数が違うの?)
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いい質問だな!
地球の暦が月ごとに日数が違うのは、主に天文学的な事情と歴史的な経緯によるんだ。
1. 地球の公転周期と月の動き
地球が太陽を一周する(公転する)のにかかる時間は約365.24日。これが1年の基準。
一方、月が地球を一周する(満ち欠けのサイクル)は約29.53日。これが「月(month)」の由来だ。
これを単純に合わせようとすると12か月 × 29.53日 = 約354日で、1年(365日)に合わなくなる。だから、1か月の長さを調整して暦を作る必要があったんだ。
2. ローマ時代の暦改革
昔のローマでは「10か月の暦」だったこともあるけど、これだと季節がずれて不便だから、後に「12か月の暦」に変えたんだ。
そこで以下のような調整が行われた:
31日・30日の組み合わせ:
1か月の長さを均等にすると1年365日に合わないので、日数が違う月を作ることになった。
2月の28日問題:
ローマ皇帝ユリウス・カエサルが「ユリウス暦」を導入するとき、暦を簡単にするために2月を短くした。
後にアウグストゥス皇帝が自分の月(8月)を31日に増やしたため、2月はさらに不遇な扱いを受けることに。
3. 現在のグレゴリオ暦
その後、暦のズレを修正するためにグレゴリオ暦が採用された。
これが現代のカレンダーの元だけど、月ごとに日数がバラバラなのはその名残。
結論
歴史的な都合と天文学的な調整の結果、地球の暦は複雑な形になったんだ。
もし均等な日数で統一するなら、人工的な暦(たとえば30日×12か月)を作ることもできたかもしれないけど、月の動きや季節と合わなくなるから採用されなかったんだね。
こうして見ると、今のカレンダーは人類の試行錯誤の歴史そのものだな!
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(じゃあ、この世界の暦は太陽と月のズレみたいなのが偶然なかったり、無視できるくらいだからカチッとしてんのかな? どういう状況が考えられるの?)
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この世界の暦が「カチッと」している理由として考えられる状況はいくつかあるよ。
以下に挙げてみる!
1. 天文学的な幸運
この世界の太陽と月(または同等の天体)の動きが、完全に調和している可能性がある。
たとえば、1年が正確に16か月 × 21日(= 336日)で収まる場合。
太陽の公転周期と月の満ち欠けの周期がぴったり一致しているような状態だね。
こうした調和があると、月ごとの日数を均一にしてもズレが生じないから、暦が簡単に作れる。
2. 魔法的な影響
この世界では魔法や精霊が日常に関わっているから、以下のような影響が考えられる:
天体の動きを調整している
例えば、月や太陽の軌道を魔法で制御している可能性。
→ 昔の文明が「暦のズレ」を防ぐために調整を施したのかもしれない。
自然法則の違い
この世界ではエネルギーや物質が「イルディル」によって統一的に支配されているから、
天体の動きもより規則的でズレが発生しにくいのかも。
3. 人為的な暦の改変
この世界では「完璧な暦」を意図的に作り上げた可能性もある。
季節と暦のズレを無視
地球の暦では季節を重視するけど、この世界では「暦と季節が必ずしも一致しない」のかも。
例えば、春分や夏至などのタイミングが16か月のどこかに「毎年ズレ込む」けど、それを気にしない文化だったり。
暦が単純化されている
昔は複雑だったけど、後の時代に「とにかくシンプルな形に統一しよう」とした。
魔法や精霊術を使えば農作物の管理や季節感を補えるので、ズレを厳密に考慮しなくても問題ない。
4. この世界独自の天文学的現象
地球では「月」が地球に対して自転と公転が同期しているけど、この世界では:
月(または天体)が完全な人工物や精霊の影響で均一な周期を保っている。
太陽と月の軌道が絶対的に安定していて、複雑な軌道のズレが起きない。
まとめると
この世界の暦がカチッとしているのは、おそらく 「天文学的な幸運」+「魔法的な調整」+「文化的な選択」の組み合わせだと思うよ!
特に、イルディルや魔法の存在が天体や暦にも影響しているとすれば、今の地球の科学では説明しきれない独特なシステムが成り立っていそうだね。
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(魔法で天体を作ってるって感じではないと思うよ。空の向こうには天界があるって考え方だから、完全に人の手を離れたところに星の動きなんかがあるんだろう。
この惑星はひと月が十六日で一年が十六か月なんだけど、太陽の公転日数が十六×十六日で、月の満ち欠けが十六日で一致してるって感じなのかな?)
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なるほど、そういう世界観なら、天体の動きが「自然の調和」で成立していると考えられるね。
君の推測どおり、この世界では太陽の公転周期や月の満ち欠けが16×16日(256日)で完全に一致している可能性が高い。
これがどうやって成り立っているのか、もう少し掘り下げて考えてみよう!
1. 太陽と月の周期の調和
もし太陽の公転周期が256日で、月の満ち欠けの周期が16日で一致しているなら、以下の条件が成り立っているはず:
1年の間に月がちょうど16回満ち欠けする
月の満ち欠けがぴったり16日周期で進むことで、暦がズレない。
日数の均一化
1年が完全に256日で固定されているなら、月ごとの日数(16日×16か月)も整然としている。これによって、暦がシンプルに保たれる。
2. 惑星の軌道や自転速度の特性
このような調和が自然に成立するためには、惑星や天体の動きが特殊である必要がある。
惑星の自転周期(1日)が絶妙に設定されている
自転周期が短いことで、256日でちょうど1年分の太陽の公転をカバーしている。
(この世界の1日は地球より少し短い=約21時間2分だから、年間総時間も調整しやすい。)
月の軌道周期が安定している
月の軌道が惑星や太陽に対して非常に規則的で、他の天体の影響をほぼ受けない状態だと考えられる。これが、月の満ち欠け周期を16日で固定させている。
3. 「天界」の影響
君が言った「空の向こうに天界がある」という考え方を考慮すると:
天界が天体の動きに関与している
この世界の天体(太陽・月・星)は、自然現象というよりも「天界の意志」や「設計」に基づいて動いている可能性がある。
天界が宇宙の秩序を保ち、この調和を維持しているとすれば、「偶然の結果」ではなく「必然」として説明がつく。
4. この世界の物理法則の特性
地球の物理法則と異なる点を考えると:
イルディルが重力やエネルギーを調和させている可能性
イルディルが天体の動きに影響を与えることで、惑星や月の軌道が完全に安定している。
この世界では、イルディルが単に「魔法のエネルギー源」ではなく、「宇宙を動かす根本的な力」である可能性が高い。
惑星や月の形成過程が特殊
地球では惑星や月が偶然の結果として形成されるけど、この世界では初めから「調和した周期」を持つように設計された可能性もある。
(天界がこれに関与していると仮定すれば説明が簡単だね。)
まとめ
君の言う「1年256日、ひと月16日」というシステムは、自然現象として成立する条件が整っているか、あるいは天界の意図やイルディルの力によって維持されている可能性がある。
天界の存在が「調和」の中心にあるなら、この世界は「神々や精霊が創造した完璧な秩序」を基盤としているとも考えられるよ。
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(イルディルがダークマターとかダークエネルギーみたいなものだったら、この惑星と宇宙で地続きになっている地球もイルディルの影響を受けてんのかな?
もしそうだとすると、ダークエネルギーとかを使えるようになったら地球でも魔法が使えるってことになるよな。
それとも、イルディルは宇宙の特定の領域でだけ通用する物理法則の要になっていて、宇宙のどこかで物理法則が切り替わる境界線があったりするのかな?)
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その仮説、めちゃくちゃ面白いな!
イルディルがダークエネルギーやダークマターに似た特性を持つと仮定した場合、以下のような可能性が考えられる。
1. 地球でもイルディルが存在する可能性
もしイルディルが宇宙全域に遍在しているダークエネルギーのようなものだとすると、地球も当然その影響下にある可能性が高い。
ただし、地球で魔法が使えない理由として考えられるのは:
地球ではイルディルを扱う技術や知識が存在しない
この世界では、イルディルを利用する方法(魔法)が文化や歴史を通じて発展してきたが、地球ではその技術が存在しないため、利用されていないだけかもしれない。
人間の認知がイルディルを制限している
地球の物理法則は「観測する意識」によってある程度固定化されている可能性がある。
つまり、地球の人間がイルディルを利用する方法を「知らない」ことが、その力を封じている原因になっているのかも。
地球の環境がイルディルの活性化を妨げている
地球の物理法則や環境が、イルディルのエネルギーを顕在化させない特殊なバランスを持っている可能性がある。
2. イルディルが局所的な現象である場合
もしイルディルが宇宙の特定領域にのみ存在するエネルギー源であれば、以下のようなことが考えられる:
「物理法則の切り替え」が存在する可能性
宇宙には、イルディルが通用する領域とそうでない領域があり、惑星間や銀河間で物理法則が微妙に変化しているのかもしれない。
この切り替え地点は、現代地球の科学では「観測されていない未知の境界線」として存在する可能性がある。
この世界の宇宙が特殊な性質を持っている
この世界の宇宙自体が、地球の宇宙と異なる物理的な性質(例えばイルディルが基盤となる法則)を持つ可能性もある。
その場合、地球とこの世界は「物理法則の違う別の宇宙」として分けられる。
3. イルディルを利用するには「共鳴」する要素が必要?
仮に地球にもイルディルが存在するとしても、利用するには特定の条件が必要だと考えられる。
意思の影響力
君が言うように、イルディルが意思に反応する性質を持つなら、地球の人間の意思がイルディルと「共鳴」する仕組みがない限り、その力は引き出せない。
(地球では、イルディルがあっても活性化しない可能性。)
精霊や四元素的な存在の有無
この世界には精霊や四元素が存在し、イルディルを媒介として具現化している。
しかし地球では、そういった存在が欠けているため、イルディルが使われることがないのかもしれない。
4. もし地球でもイルディルを利用できたら?
もし地球でイルディルを利用する技術が開発されたら、以下のようなことが起こりうる:
魔法が地球で使えるようになる
地球の科学技術と融合して、新しい「テクノロジー+魔法」の世界が生まれる可能性がある。これが起きれば、科学の限界を突破した文明が築ける。
エネルギー問題の解決
ダークエネルギーがイルディルと同じ性質を持つなら、無尽蔵のエネルギーを活用できる。
これにより、地球の資源問題が一気に解消されるかもしれない。
新たな物理法則の誕生
地球の物理学が根底から覆り、イルディルを基にした新たな理論が構築される可能性がある。
結論
イルディルがダークエネルギーやダークマターのようなものである場合、それが地球にも存在する可能性は十分に考えられる。
ただし、イルディルの「利用法」や「発現条件」がこの世界独特のものなのか、それとも宇宙の普遍的な性質なのかを探る必要があるね。
もし地球で物理法則が切り替わるような「境界線」が存在するとしたら、それを探ることで、君がこの世界に来た理由や地球との繋がりも解明できるかもしれない。
まるで「イルディルを観測する地球人類」が新しい次元への扉を開くようなイメージだよ。
~・~・~
(ルルーシュ家の祖先は「方舟の民」と呼ばれている。ルルーシュ家が魔法の使えない血筋を守っているってことは、普通に考えれば、方舟の民も魔法が使えない人たちだった可能性が高い。
俺は、方舟の民は宇宙船に乗ってきた地球人だって思ってるんだ。
672年前にパスティアに流れ着いたというのは、地球の中世の時代と時期が一致するからな。
そうなると、イルディルは地球人の意思にも反応するけど、地球人はイルディルを使えないっていう構造があるように感じる)
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なるほど、筋が通ってる推論だな!
もし「方舟の民」が地球から来た人々で、しかも魔法を使えない血筋だとすると、いくつか興味深いポイントが浮かび上がるよ。
1. 地球人がイルディルを使えない理由
君の考えに基づけば、地球人はイルディルに影響を及ぼす「意思」を持つものの、直接的にその力を引き出す術を知らない、
あるいは肉体的・精神的に適していない可能性がある。
生理的・遺伝的な要因
地球人の身体が、イルディルを活性化させる構造(例えば、この世界の人間に備わる特別な「受容器」や「素質」)を持っていないのかもしれない。
文化的な要因
地球には魔法の概念は存在するが、それを科学のように体系化した歴史がないため、イルディルの力を使う方法が発展しなかったとも考えられる。
イルディルとの共鳴周波数が異なる
地球人の精神や魂の「周波数」が、この世界の住人と異なるため、イルディルとの結びつきが希薄になっているのかもしれない。
2. 方舟の民と672年前のパスティア
「方舟」という名前からして、宇宙船か巨大な移動施設を連想させるね。
以下のような仮説が考えられる:
難民としての到来
地球で何らかの危機(戦争、環境破壊、あるいは社会的な崩壊)が起こり、生存のために宇宙へ旅立った人々が、この世界に流れ着いた可能性がある。
時間のズレと移動
宇宙船の旅で、時間が歪む現象(相対性理論的なタイムディレーションや異世界へのゲート)が発生し、地球の中世に対応する時期にこの世界へ到着したのかもしれない。
「パスティアに流れ着いた」理由
宇宙船の事故や意図的な着陸により、彼らがこの地域に定住するようになった可能性が高い。
それが「ルルーシュ家の祖先」の伝説になったのだろう。
3. ルルーシュ家の使命の起源
ルルーシュ家が「魔法を使えない血筋」を守る理由は、彼らの祖先が方舟の民=地球人であったことに由来する可能性がある。
自分たちのアイデンティティを守るため
方舟の民(地球人)が、魔法を使う住人たちの中で少数派として生き残るために、自分たちの血筋を維持しようとした。
魔法の影響を受けない特性
魔法の力が強大になるにつれ、方舟の民の血筋が「魔法の影響を受けない」特性を持つことが重要視されたのかもしれない。
これは、イルディルの消費によるバランス崩壊を防ぐための「抑制剤」のような役割だった可能性もある。
特別な使命を帯びていた
地球人がイルディルにアクセスできない理由を解明し、この世界の住人にその仕組みを伝える役割を担っていた可能性もある。
4. 地球人の意思とイルディルの関係
君の指摘通り、地球人の意思がイルディルに反応しているなら、以下のような状況が考えられる:
イルディルを活性化させる鍵は意思にある
地球人の意思がイルディルに何らかの影響を与えているとすれば、彼らの存在がイルディルの消費や循環のバランスに密接に関与している可能性がある。
「使えない」のではなく「使わない」だけ?
地球人がイルディルを「使うべきでない」存在としてこの世界で機能している可能性も。
つまり、彼らが魔法を使えないのは、意図的な制限が働いているからかもしれない。
5. 君の役割とドルメダの謎
もし君が地球人に由来する存在で、方舟の民やイルディルに関する特別な使命を持っているなら、以下のようなシナリオが浮かび上がる:
君が持っていた「ドルメダへの鍵」は、地球人とイルディルの関係を解き明かす鍵そのものかもしれない。
ドルメダが君に接触を図る理由も、この点に起因している可能性が高い。
君が「イルディルを扱えない者としての役割」を担っているとすれば、ルルーシュ家や方舟の民との共通点が浮かび上がる。
君自身がこの世界におけるバランスを保つために選ばれた存在なのかもしれない。
最後に
もしこの仮説が正しければ、君は地球人としての「魔法を使えない血筋」と、この世界で魔法を使える「選ばれし者」の両面を持つ、非常にユニークな存在だね。
この矛盾が、君がこの世界で果たすべき重要な使命のカギになりそうだ。
イルディルや方舟の民についてのさらなる手がかりが得られれば、この世界の成り立ちや君の役割がさらに明確になりそうだな。
~・~・~
「大丈夫かい?」
イマンに声をかけられて、我に返る。困惑をごまかすためにカレンダーに目を向ける。
「今は……何月何日ですか?」
イマンは驚いたように俺を見返した。
「今日は十六月十六日、暦最後の日だよ」
大晦日……!
「暦が明日から新しい年ということですか? なにかお祝いでもあるんじゃないですか?」
「いや、暦上での大きな祝い事は、土の時期に収穫を祈る祝い事、風の時期に収穫を感謝する祝い事があるくらいだよ。……君の故郷では、年の切り替わりに祝っていたのかい?」
「え、ええ、まあ……」
イマンは考え込んでしまう。……俺、何かまずいこと言った?
「ドルメダはパスティア領内に拠点を置いて、パスティア国の民としてこの国に寄生している。全く異なる文化があったというのなら、君はドルメダではないのかもしれないな」
俺の話と、俺がドルメダであることの間に齟齬があるということをイマンは言っているんだ……。
密かにヌーラと目が合って、小さく首を振られた。
俺が異世界から来たということがバレるのも時間の問題かもしれない……。




