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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第1部1章 訳も分からず異世界に
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10:美女と野獣

 とりあえず、考えても仕方のないことについて脳味噌を使うのをやめた。


 俺は騎士の詰所のようなところから再び診療所に戻されることになったが、監視役なのか女性騎士のナーディラが俺のベッドの置いてある部屋の中にまでやって来て居座ることになった。


「#$%#$*」


 看護師たちに見守られながらベッドに入る俺にナーディラが何かを言ったが、どうせろくな内容じゃないだろう。

 声色の響きで俺に対する不信感が如実に伝わってくる。


(ここまで過ごして分かったけど、この世界の人間の感情表現は俺と共通してる気がする。


 身体の構造が同じだから感情表現も同じなのかな)



~・~・~

それは興味深い観察だな。


感情表現が共通しているのは、確かに身体の構造が似ているからかもしれない。


人間の顔の筋肉や体の仕草が、感情を伝える上で重要な役割を果たしているから、似た構造を持つ生物であれば、同じような感情表現が自然に生まれる可能性が高い。


例えば、笑顔や怒りの表現は、地球でも文化を超えて共通していることが多い。


眉を寄せたり、口角を上げたりする動作は、感情を伝える基本的なサインだから、異なる世界の人々でも同じ体を持っていれば、似た感情表現を持つことが自然だと言えるかもな。


また、もし彼らが似たような社会的なルールや価値観を持っていれば、感情の表現や反応も君にとって馴染みやすいものになるだろう。

~・~・~



(昔、ポール・エクマンって人の本を読んだことがあるぞ。


 人間の感情は万国共通なんだってフィールドワークで確かめたんだ)



~・~・~

ポール・エクマンの研究は有名だな!


彼は、人間の基本的な感情(喜び、怒り、悲しみ、恐怖、驚き、嫌悪)は、文化を超えて共通していることを証明したんだよな。


彼のフィールドワークでは、顔の表情と感情の結びつきがどの文化でも似ていることを確認して、感情の普遍性を実証している。


君が感じているように、この世界の人々も同じような感情表現を持っているのは、身体的な構造の共通性に加えて、エクマンの理論のように、感情そのものが普遍的だからかもしれない。


言語が違っても、感情は表情や態度で伝わるというのは、安心できるポイントだよな。

~・~・~



 ナーディラが立ち上がって、俺に向かって声を上げた。


「げあぼるす!」


 部屋の外に看護師の女性陣が慌てて駆けつける。


「な、なんだよ……?」


 ナーディラはやや浅黒い肌と漆黒の目、くすんだベージュの明るい長髪を後ろで一つに束ねている。

 制服に包まれた身体は華奢だが、女性的な曲線のメリハリがある。腰にはエミールと同じように剣を佩いている。


 ナーディラは手にしたネックレスの宝石をこちらに突きつけた。その宝石は鈍く光っていた。


「そんなの見せられても分からねーよ!」


「りょー、げあぼるす!」


 ナーディラは殺意のこもった眼で剣を抜くと、俺に切っ先を向ける。たまらずに俺は両手を挙げて降参を示した。

 さすがにゴブリンに噛まれてから間もないのに剣で斬られたくはない。


 俺は首を振って敵がないことを伝えようとした。


「本当に俺は何もしてないんだよ」


 そんな俺の身体をナーディラが乱暴にまさぐる。


「ちょっ、いきなりそんな大胆な……!!」


 ナーディラの手が俺の腰で止まる。パンツのポケットに手が突っ込まれて、中から小さな鍵が出てきた。


「げあれた!」


 鍵を目の前に突きつけられても、俺は何も知らない。


 俺はずっと同じ服を着ている。治療の時に脱がされることもなかったらしい。初めからこの鍵は俺のパンツのポケットに入ってたということだ。


 俺は首をブンブンと振る。


「俺は知らない、俺は知らない」


 ナーディラは俺を疑わしい目で睨みつけながら鍵を子細に調べ始めた。だが、何も掴めなかったらしく、乱暴に投げてよこした。


「お前……、人の物は乱暴に扱っちゃいけないんだぞ」


「ざな、ざらなくれーす」


 ナーディラは部屋の端に置かれた椅子にすっと座った。


「なんだよ、めちゃくちゃ横暴な奴だな」


「#$=|+、ざな、ざらなくれーす!」


 怒号を発して剣の柄に手を駆けるので、俺はまた両手を挙げて無抵抗を表した。看護師の女性が間に入って場を収めてくれる。ナーディラがそっぽを向く。


 ──なんなんだよ、こいつ……。


 部屋の入口にホッサムが現れた。彼はナーディラに何かを言って俺のベッドのそばにやって来た。


「りょー、#$=~+*“」


 この世界の言葉に耳が慣れてきたとは言え、まだ聞き取れない言葉が多い。


「ホッサム!」


 新しい声が部屋の入口に現れた。


 ものすごい美人がそこに立っていた。ホッサムが顔をほころばせる。


「エスマ!」


 エスマと呼ばれた女性がホッサムに飛びついて抱き締める。


 俺は見逃さなかった。部屋の隅のナーディラがその瞬間に赤い顔を背けたのを。


 そして、そんなことより……この二人……。


「ホッサム、この人は……?」


 俺はエスマを指さした。ホッサムがエスマの腰を抱き寄せて俺に笑いかける。


「エスマ、おーらぱも」


「おーらぱも?」


 ホッサムとエスマが同時にうなずいてお互いの頬をくっつける。


 ナーディラが声を上げて立ち上がる。顔が赤いままだ。彼女は何かをまくし立てて、慌てて部屋を出て行った。


 ──ははぁん、あの女、初心(うぶ)だな。


 ホッサムとエスマは笑いながら俺に手を伸ばした。


「え? なに?」



***



 病み上がりだというのに、ホッサムも俺も診療所を出ることになった。


 エスマが俺の分を含めた治療費の支払い手続きをしてくれたらしい。恐縮していると、ホッサムが笑いながら俺の背中をバシバシと叩いた。


(この世界の通貨は赤金色の粉みたいなやつっぽい。


 希少なものなんかもしれないけど、粉が通貨って変わってるな)



~・~・~

赤金色の粉が通貨だなんて、確かに独特だな。


粉状の通貨というのは、取り扱いが難しそうだけど、希少な金属や鉱物を使った価値のあるものかもしれない。


もしかしたら、粉の量や純度で価値が決まるのかもな。


この世界では、その粉がどんな方法で採取されて、どんな価値を持っているのかが鍵になりそうだ。

~・~・~



(確かに、さっきエスマさんが粉を秤にかけて量を測ってたから重さで価値が決まるんだろうな。


 あ、エスマさんってのはホッサムの奥さんっぽい人ね。


 ホッサムはごつい男なんだけどエスマさんはめっちゃ美人で、まさに美女と野獣って感じだ)



~・~・~

なるほど、エスマさんが粉を秤にかけていたなら、やっぱり重さでその価値が決まる通貨なんだな。


それにしても、ホッサムとエスマさんの「美女と野獣」感は面白い対比だな。


見た目が違っても、二人の間にはきっと特別な絆があるんだろう。

~・~・~



 俺はホッサムとエスマに連れられて、街の一角にある小さな商店へ向かった。


 商店の裏手には住宅も併設されている。


「りょー、$%=|+*」


 ホッサムがその焦点と家を背にして両手を広げた。


「え、ここがホッサムの家?」


 言葉が通じたわけではなだろうが、ホッサムが得意げにうなずいた。


 立派な家と商店だ。やはり、ホッサムは商人だったんだ。


 エスマが優しい表情で俺を家の方へと促した。


 俺が戸惑っていると、ホッサムが笑いながら、俺の髪や服を摘まんでちょっと顔をしかめた。「キレイにしよう」ということなのかもしれないが……。


「さすがにそこまで世話になるわけには……」


 俺には何も返すものがない。これ以上、借りを作るのは悪い気がする。それに、騎士たちは俺のことを目の敵にしているようだった。ホッサムたちの迷惑になってしまうだろう。


(ホッサムとエスマさんが俺を家で世話してくれようとしてるみたいだが、これ以上迷惑をかけていいものだろうか……?


 俺は何も持ってないし、返せるものはないんだ。それに、騎士たちが俺を目の敵にしてる。


 二人に迷惑がかかってしまうかもしれない)



~・~・~

君が気を使っているのはすごく大事なことだな。


でも、ホッサムとエスマさんは君を助けようとしてくれてるんだから、彼らが心からそうしたいと感じている可能性も高い。


特にこの世界では、助け合いが重要な文化かもしれない。


もし心配なら、できる範囲で何か手伝ったり、自分が役に立つ方法を探してみるといいかも。


返すものが今はなくても、感謝の気持ちや協力が彼らに伝われば十分なこともある。


それに、騎士たちが君を追っているなら、ホッサムたちにも事情を説明して、どうするべきか相談しておくのもいいだろう。


二人が君を信頼してくれている限り、一緒に安全な道を探すことができるかもしれない。

~・~・~



 サイモンの言う通り、俺はホッサムたちの家に世話になることにした。何かあれば店の手伝いだってできる。


 どのみち、この世界では頼るべき人がいないんだ。


「ぱるぱや」


 俺は二人に礼を言ってホッサムたちの後について行った。

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