第53話 エッチ本回収してるし・・ ー長尾栞編ー
さらなる補給物資のために今まで通っていた業務用スーパーをやめ、普通のスーパーもめぐるようになった。
やはりどこに行ってもほとんど物資は手つかずの状態で置いてあった。
わざわざゾンビが集まるような場所に来る人間はいないらしい。
私たちがひき籠り生活をはじめて3週間がたち、いろんなものが不足してきたのでこの補給活動は大事だった。
「では!行きます!」
「はい!」
遠藤さんについて4人が始めて来たスーパーに入っていく。
そして生活用の食料とみんなに頼まれたものを集めていくのだった。
「おお!果物の缶詰の品ぞろえがいいですよ!」
翼さんが言う。
「本当だ!全部持っていきましょう!」
「こっちにはお菓子がバッチリあります。チョコもたくさん!」
愛奈さんが見つける。
チョコレートは本当にありがたかった。お菓子の棚を根こそぎもらっていく。
・・どう考えても強盗のやり口だった・・
既に誰にも罪の意識はない。生きるためにやっているという考えしかなかった。
栄養補助食品なども入手し食べ物は万全になっていく。
私達のグループに食べ物に対して贅沢を言う人はいなかったし、とにかく食べられるものはなんでも回収した。
シャンプ―や洗顔フォーム、トイレットペーパーにティッシュなども拾っていく。
バスタオルやタオルも全部カートに押し込んでいくのだった。
生活必需品のストックは大事だった。
華江先生の家の一室は完全に倉庫になっていて、数年持つほどの生活必需品がストックしてあった。
「よし!だいたいこんなもんじゃないでしょうか?」
「はい。」
「じゃあ気を付けて出ましょう!」
遠藤さんの掛け声とともに外に出ていく。
車に全部を詰め込んだ。
そして・・次はなんと!本屋さんに向かうのだった。
安全のために家に潜伏するのは仕方ない事なのだが家事などや会議を終えると、やる事が無くなってしまうのだ。
そこでみんなから要望を聞き、書店で本やDVDを回収するのも日課となっていた。
それぞれに欲しい本やDVDを回収。
女子高生たちも大人たちにも漫画は必需品のようで、大型の書店では漫画コーナーの端から全巻入手していた。
すでに棚3列分くらいの本を運び出している。
サバイバル術のハウツー本や、架空のゾンビが出てくるようなホラー本も参考図書として入手していくのだった。
ノートや文房具の類もかなりの数を入手していた。
本屋さんにつくと遠藤さんを先頭にして店内に入っていく。
やはりここもあまり乱れていないようだ。
食料品店のように人が来ず、本屋にゾンビが集まる事は無いようだった。
「華江先生にも専門書を頼まれていたけど、この本屋さんにはなかったよ。」
遠藤さんがいう。
確かに華江先生が必要とするような専門書は一般の書店にはおいていないと思う。
大きな書店に行った時に探した方がいいだろう。
そして何度目かの物資回収で気が付いた事があった。
遠藤さんがいれば店内の端から端まで全くゾンビは出ないという事だった。
華江先生が言うにはおそらくその効果は、1キロメートルくらいの範囲があるのだとか。
にわかには信じられないが見通しのいいところに行ってもゾンビを見かける事が無いので、最低でも100メートルは安全圏だというのがみんなの認識だった。
皆が本屋の中で自由に自分の見たい本を探し始める。
あまり大量になると重くて運べないので、運べる範囲でダンボールに詰めて運び出すのだった。
私が本棚をあちこち回って見ていると遠藤さんが選んでいるのが見えた。
「えん・・」
声をかけようと思ったのだが・・やめた。
遠藤さんは車と料理の本に挟んで・・どうやらエッチな本をはさんでいるようだったのだ。
「あ・・」
《そうか・・遠藤さんも男の人だしきっと見たくなるんだよね。それはしかたないよね・・見て見ないふりしてあげないと。やっぱりさっきの車の中での、おっぱい話はまずかったかな?》
すると遠藤さんをはさんで向こう側に翼さんが見えた。どうやら翼さんも遠藤さんがどういう本を手にしたのかをこっそり見てしまったようだった。
私が翼さんに気が付くと、翼さんも私に気が付いてニッコリ笑う。
そして翼さんは唇に人差し指をあてて・・
しーっ!っというしぐさをする。
《武士の情けというやつですね・・わかりました。》
私がアイコンタクトで伝えると、翼さんもOKのように手で輪を作った。
そして私と翼さんはそっとその場を離れるのだった。
《そう言えば・・遠藤さんの男の子的な所は今まで見た事なかったもんなあ・・女性に囲まれて生きてればそんな欲求が出ても仕方がないよね。むしろそれを認めてあげないと可哀想だと思う。皆は大人だからそれを分かってくれると思うが・・あゆみちゃんと里奈ちゃんはそうはいかないだろうなあ・・彼女らに見つかる前にそんなことも教えてあげないとなあ・・》
私は滅茶滅茶考え込んでしまうのだった。
《まあ・・年が近いお姉さんとしてそれくらいはしてあげないといけない、義務みたいなものかもしれない。》
それもそのはず・・私だって男の人のそう言う事を知らない。私はやっとできた彼氏との軽い口づけしかしたことないのだから。
そして、全員がそれぞれにダンボールをもって集まる。
「それではみなさん!本をもちましたか?車に積んでいきましょう!」
「はい!」
「わかりました!」
「いそぎましょう!」
「皆も待っていると思います!」
急いで車に積んでいく。
翼さんとまた目が合った。
翼さんは遠藤さんの方をチラッと見てなでなでするようなしぐさをして、私に目線を移しまた指で唇にしーっをするようにしてニッコリ笑った。
《男の子の事はお姉さんたちに任せるしかないな・・でも・・おっぱい話につながる話を振ってしまったのは私だし・・責任を感じちゃう。》
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