第186話 セーラー服と自動小銃
私たちがピリピリと緊張しながら待っていると、工場の内部で何かの動きがあるようだった。相手が武器を大量にもってきて攻撃してくるかもしれない恐怖が襲う。
「来たみたい」
吉永さんが言うと皆が銃を構えてじっと待つ。工場の中から数人の人間がぞろぞろと歩いて来るのだった。10人は満たないようだけど、車に乗ることなく歩いてきている。
「吉永さん。白旗上げてるみたいですよ。」
私が言う。
よく見ると先頭の人が白旗をあげて、後ろの人たちが手をあげて歩いて来ていた。集団が門のそばまで来たので吉永さんが声をかけた。
「止まりなさい!」
集団は足を止める。
「私達に攻撃の意志は無い!武器を捨てて投降しますか!?」
すると白旗を持っていた、先ほどまで話をしていた女性が前に出て来る。
「抵抗はしない!食料があるというのは本当か?」
「本当だ!そして皆が平和に暮らしている。」
「ゾンビは?ゾンビはどうした?このあたりにもゾンビがいたはずだが、なぜ一匹もいないんだ?」
「我々が駆除をしたようなものだ。」
「駆除?ゾンビをか?」
「詳しい話は後よ。では自分たちで門を開けて出て来て、ゾンビは襲ってはこないわ。」
ガラガラガラガラ
私たちが銃を構えて狙っている中を、工場の門をスライドさせて人々が外に出て来た。皆が薄汚れており服装もボロボロで、髪の毛もごわごわになっている。いままでの皆もそうだったが、私達と遭遇する時はいつもこんな風になってしまっている。
「そちらには感染者はいないのか?」
相手の女性が聞いて来る。
「いないわ。感染すると消滅してしまうの。」
「どういうこと?」
「とにかく安全が確保されるまで拘束させていただくけどいいかしら?」
「‥‥‥。」
「これは交渉ではないわ。やっていただくしかないのだけれど。」
「…わかった。皆もいい?」
リーダー的な女性が皆に言うと、相手の集団が皆コクコクと頷いていた。
「では手を拘束させていただきます。抵抗したら発砲するかもしれません。十分注意してください。」
そして吉永さんを筆頭に銃を構えながら、私たちは隠れていた車の後ろから出て彼女たちを包囲していく。
すると…
「えっ!!えっ!!」
「うそ!」
「どうして?」
相手集団が私を見て騒ぐ。それでも私は自動小銃を構えつつ相手に狙いを定めるのだった。
「すみません…ちょっといいですか?」
後ろ手に手を縛られながら、白旗を持っていた女性が聞いて来る。
「どうぞ。」
吉永さんが言う。
「そちらにいる人はもしかして…橋本里奈ちゃんでは?」
「そうよ。」
「やっぱり!」
「そうなんだ!」
「セーラ服と自動小銃の橋本里奈!」
そう私の最初の映画になるはずだったタイトルだ。
「こんな形でお会いする事になってすみません。」
私が言う。
「でも生きてたんですね!しかもドラマそのものでリアルに自動小銃を持っているなんて…。」
「映画はモデルガンだったんですけどね。これは本物なんです。」
「は、はは‥‥。」
「そうなんだ…。」
「信じられない…。」
人々が口々につぶやいた。
「私大ファンなんです!」
白旗を持っていた女性が言う。
「そ、そうなんですね?ありがとうございます。」
「こんなところで会えるなんて夢のようです。」
皆を後ろ手に縛って膝をついてもらう。
「ではこれから、皆さんが乗れるようなバスを調達します。」
吉永さんが言う。
「でも、ゾンビが!町は危険です!」
女性が言う。
「それも大丈夫なのです。対策の為3人ほど連れてきておりますので。」
「連れて来てる?何をです。」
「ゾンビを消去する能力のある人をです。正確には妊婦をです。」
「あの…なんです?その能力?もしかして今ここにゾンビがいないのと関係があるのですか?」
「はい。実際に消えていますから。」
「嘘‥‥。」
ざわざわざわざわ
捕えた人たちがざわつく。
「とにかくバスを調達してきますので、皆さんはここで私たちの仲間と待機していてください。」
「はい…。」
吉永さんと、沙織さん、あずさ先生、妊婦さんがRV車に乗って街の方角に向かって走り去っていった。
「本当に大丈夫なのですか?」
私に聞いているようだ。
「大丈夫です。ここにも消す力の人はいますのでゾンビは近寄ってきません。」
「にわかに信じられないのですが、今の状況が本当だと物語っているようですね。」
「ええ。本当です。」
すると捕えた人たちがひそひそと話はじめる。
「どうしました?」
銃を構えながらも未華さんが聞く。
「いえ…あのこんな時に何ですが…橋本里奈さんのあのセリフ。聞いてみたいんです!」
白旗を掲げていたリーダー格の女性が言う。
「えっ…。」
こんな状況で何を言っているのだろう?みんなが真剣にやっているというのに、そんなこと…
「里奈、やってあげたら?ファンだって言うし、今まで命がけで生きて来て里奈の映画も見れなかった人たちだし。」
あゆみがいう。
「そんな…こんな状況で。」
私はためらうのだった。
「うーん。こんな状況だからこそやってあげたらいいんじゃない?」
「そうかな?」
「そうそう。」
あゆみに言われているうちに、ファンサービス的な気持ちが沸き上がって来た。
「じゃあ、未華さん。気を緩めないで見張っていてください。」
「わかった。」
私がやると決めると…捕まえた女性達だけじゃなく、優美さん、愛奈さん、翼さん、みなみさん、栞さん、夏希さんまで私を見る。一応相手から目を離すわけに行かないので、未華さんとあゆみは銃を構えて見張っていた。
皆がいまかいまかと待っていた。
「では行きます。」
私は銃を空に構える。もちろん皆がいない方向に向けている。
パララララララララ
銃を乱射した。
皆が息を飲んだ。
「カ・イ・カ・ン」
おお~~~~!!!!
皆から歓声が上がった。てか瞳マネが涙しているし…映画が封切出来なかったので、その悔しさが溢れてしまったのかもしれない。
私もどこか誇らしくなるのだった。




