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終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで… サイドストーリー  作者: 緑豆空
第3章 橋本里奈編

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第161話 荒れる気持ち

どうやら私は平穏な日常が乱れる事を嫌っていたようだった。新しい人が入ってくるといろいろな事が起きた。大人グループは仕方のない事だと言うが、私はなかなかその状況になじめなかった。


あゆみはあまり気にしない方が良いと言ってくれる。しかし新しく入ってきた人たちが遠藤さんと近しくなっていくのは嬉しい事ではなかった。それを見ていると気分が良くないため、部屋にこもる事が多くなってしまっていたのだ。


そんな私に気が付いて瞳マネと優美さんが部屋に来ていた。


「私だって里奈の気持ちはわかるわ。」


瞳マネが言う。


「うん。私も分かってるんだけど、なんていうか…寂しいって言うかなんて言うか…。」


「そうよね。あなたはまだ若いし、耐えられないかもしれないわね。」


「頭ではわかってるんだよ!」


「そうだと思うわ。」


「とにかく苦しくて。」


瞳マネはいつも通りに私を慰めてくれるけど、仕事の時と違って気持ちの整理なんかつかなかった。


「苦しいのは当然だと思うけど?」


優美さんが言う。


「え?」


優美さんの言葉は意外だった。いつも何食わぬ顔で、気にした様子も無くさらりとしていると思っていた。優美さんの強い言葉をあまり聞いた事が無かったので驚いていた。


「私は近頼とは確かに相思相愛だけど…。でも近頼はみんなの事も好きなの、私の愛した人は私だけを愛しているわけじゃないのよ。」


「優美さん…。」


「私は心の奥底から、近頼がみんなと居る事を歓迎しているわけじゃないのよ。」


私と瞳マネが神妙な顔になる。彼女が正妻と言う立場なのは知っているが、こういう気持ちを聞くのは初めてだった。


「でも残念ながら、こんな時代なの。私たちは力を合わせて生きて行かなければならないのよ。それがただ一つの現実だわ。」


「はい。」


「私も割り切れてなんかいないけど、近頼の子孫が残る事は歓迎しているわ。私にも子供はいるけど、みんなの子供たちも近頼の子供なの。一人一人が大切で何物にも代えがたい命よ。」


「それは…それは私も同じ気持ちです。」


「でもね私も里奈ちゃんも若いし、子供優先に考えられない事もあるかもしれない。でも力を合わせなければあの子たちの未来が無い。」


「あの子たちの未来…」


「そうよ。あの子達とこれから生まれるだろう新しい子供たちも、私たちが一生懸命育てていかなければ、近頼と私たちが苦労して生きて来た意味がなくなる気がするの。」


私も瞳マネも優美さんの話に聞き入っていた。こんなに熱をもって話す優美さんを私は見たことが無いかもしれない。彼女の複雑な気持ちを聞いて初めて気が付く事がある。


優美さんも私と同じ気持ちを抱いているんだと。


「おそらく里奈ちゃんの感じているそれは嫉妬よ。私にもあるし恐らくは栞ちゃんにもあるんじゃないかな?あの子も割り切れてなんかない。」


「そうなんですね…。」


「ええ。きっと瞳さんや華江先生、あずさ先生や奈美恵さんなんかにも少なからずそう言う気持ちはあるはず。そうですよね?」


優美さんが瞳マネに聞く。


「まあ、全くないと言えば嘘になるかしら。でも私や華江先生やあずさ先生は自分達が大人である事を自覚して、それを表に出す事も無いし自分たちの主張をするつもりもないわね。」


瞳マネもそう言う気持ちがあったんだ…。


そう考えるとやっぱり私がひとり我儘を言っているように感じて来る。


でも…


「でもね里奈ちゃん。それを我慢する必要はないと思う。」


優美さんが言う。


「我慢しない?」


「ええ、別に私が本命だからって遠慮することもないし、他の誰にも遠慮することはないわ。近頼と一緒の時にその気持ちをぶちまけちゃいなさいよ!洗いざらい言うといいわ。」


「そんな…遠藤さんが嫌がるんじゃないかな?私の我儘なんか聞きたくないはず。」


「いいえ。その反対よ。彼は我慢していられるくらいならぶちまけてほしい人だわ。だから今度自分の順番が回ってきた時に、思いっきり我儘言いなさいよ。」


「そんな…良いのかな?」


「新しく来た人たちはまだ近頼の子供を宿す事に納得もしていないし、一夜を過ごした人は一人もいないわ。」


「そうなんですか?」


「ええ。」


そうか。彼女たちはこれからこういう気持ちを感じる事になるんだ。この苦しい気持ちを抱く事もあるかもしれない、もしかしたら拒絶するかもしれない。既にこの状況を受けいれた私よりも大変かもしれなかった。


「優美さん。」


「なに?」


「ありがとうございます。」


「何もしてないわ。」


「いえ。やっぱり私は我儘な女優なんだなって実感しました。」


すると瞳マネと優美さんが顔を合わせて笑う。


「里奈。」


瞳マネが言う。


「ん?」


「らしくなってきたじゃない。あなたは女優なのよ、まあ正確には女優だったかな?しかもかなり売れっ子の女優よ。むしろこのくらいの我儘で我慢して来たのは奇跡的だとすら思うわ。」


「だって、状況が状況だし。」


「私はね、いろんな女優についてきたけど、本当に我儘な人ばかりだったわ。しょっちゅう無理難題を言ったりしてね。」


「そうなんだ。」


「でもあなたは違う。凄く頑張って大人に合わせて無理をしてここまで来た。だからむしろ少しくらい我儘言ったっていいじゃない。」


「そうそう!少し前まで女子高生だったんだから、我儘言ったってばちは当たらないわよ!女優なんだし。近頼だってまさか売れっ子の若い女優さんに、子供を産んでもらう事になるなんて夢にも思っていなかったはずだわ。」


「そうでしょうか?」


「そうよー。」


優美さんが笑って言う。


「私なんか自分の担当している女優が男に寝取られた気分で、逆に遠藤さんに嫉妬しているくらいよ。」


瞳マネが言う。


「寝取られたって…。」


「私はね。里奈ちゃんだったらあまり嫉妬心がわかないの。」


「優美さん…。」


「だって自分の好きな男が、女優の橋本里奈を抱いているのよ。もしゾンビの世界じゃなく彼氏だったとしても、あまりにも非常識すぎて嫉妬心もわかないわ。」


「そう言うものですか?」


「そう言うものよ。」


優美さんの言っている事はよくわからないが、どうやら私に対して嫉妬心がわかないらしい。


「みんなも言ってるわ。」


瞳マネが言う。


「え?そうなの?」


「いやー橋本里奈を抱けるなんて遠藤さんは幸せだよねー。って。」


「そんなことを?」


「そうよ。」


まさかみんながそんなことを言っていたなんて知らなかった。


「じゃあ私、遠藤さんにもっと気持ちを打ち明けてみる!」


「ええ。彼も最近マンネリ化してきているし、大人になった里奈ちゃんを見せて上げて。」


「うん。そうしてみる。」


二人から相談を受けてもらって良かった。正直、全然割り切れないけど、自分はほんの少しのアドバンテージがあるんだってわかったから。遠藤さんに嫌われたらどうしようなんて思っていたけど、もう自分の気持ちに蓋をするのをやめてみようと思う。


次の彼との逢瀬が待ち遠しくなるのだった。

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