第137話 ヒグマ惨殺
ヒグマをひきつけてもらうための作戦に出る。
ホテルに残留する人たちが、鍋や鉄パイプを持って音を立てヒグマの注意を引いていた。
ガンガンガン
「こっちだよー。」
キンカンキン
「ほーらほーら。」
ヒグマがこっちに向かってこようとするが、有刺鉄線の前をウロウロしながらどこから行くか伺っている。
「遠藤さんいまです。」
愛奈さんが言う。
「はい!」
遠藤さんがそろそろと歩いて行く。
私達がいるのは地下駐車場からの出口だった。皆が1階でヒグマの注意をひいているあいだに、私たちは地下から秘密兵器がある場所まで移動する。
「栞ちゃんが考えたあれうまくいくと良いね。」
「はい。」
あずさ先生に言われて返事をする。
そして私たちはヒグマのいない方向から出て秘密兵器のある場所へと向かった。
「彼女らが頑張ってひきつけてくれているようです。」
「そうみたいね。気づかれないうちに行きましょう。」
有刺鉄線のなっていないバスの前から乗って後ろのドアから出ると、私たちが作った防壁から外に出れるようになっている。
4人で声を出さずに進み秘密兵器の場所にたどり着いた。
「さて、じゃあいきましょうか。」
「遠藤さんとあずさ先生と栞ちゃんは後ろに。気を付けて。」
「はい。」
「ええ。」
「わかりました。」
そして秘密兵器はゆっくりと動き出した。
ホテルがある方向に向けて秘密兵器が走る。
ガンガンガン
「おーい」
「こっちだよー。」
キンキンキン
まだひきつけてくれていた。
私達が丁度ヒグマの後ろ辺りに出ると、ヒグマが気づいて振り返る。
ププー!!
クラクションを鳴らすと一瞬ビクッとしたが悠々とこちらに向かって歩き出した。
ぐるるるる
涎をたらして怒りのまなざしを向けてくる。
ホテルの方を向くと皆が心配そうに私たちを見ていた。
「ゆっくりバックするわ。」
愛奈さんが大きな声で合図をする。
「はい。」
ピーピーピーピー
バックの音が鳴り響くがヒグマはひるむことなくついて来た。
私は心臓がバクバクいっていた。
《成功しますように。》
するとヒグマが何かを警戒するように私たちに近づくのをやめた。
私達が乗っているのは大型のトラックだった。だが普通の大型トラックの上にはユンボが積んである。
「あれ?まずい近づいてこない。」
ヒグマがじっと見つめている。
すると遠藤さんが言った。
「愛菜さん!トラックを前に」
「はい。」
トラックがゆっくりとヒグマに近づいて行くと、一定の距離で下がっていくのだった。
「では次のプランに!」
私が言う。
「はい。」
あずさ先生と遠藤さんがトラックの荷台の上に袋を乗せた大きな図多袋をひっくり返す。
ザラザラザラザラ
と袋から落ちてきたのは大量のクッキーと魚の燻製だった。4袋もひっくり返すとトラックの脇にはクッキーと干物が積みあがった。
食料はもったいないがクマを引き寄せるためだ。
「愛菜さんバック!」
「はい!」
ピーピーピーピー
バックしていくとそのエサが丁度トラックの前に来るようになった。
ヒグマは警戒して動かない。
「来ませんね。」
「失敗でしょうか?」
「突進してくるかと思ったんだけど。」
私達が荷台で不安になっているとヒグマが動き出した。
「きた!」
ヒグマは注意深く近づきながらも道路に落ちているエサの周りを回る。
「まだ。」
するとヒグマがガリポリと地面に落ちていた餌を食べ始めた。
「ゆっくり右にハンドルを切って前進してください。」
遠藤さんが愛奈さんに伝える。
ぶろろろろろろ
ヒグマはトラックの側面にきた。
「遠藤くん教えた通りに。」
愛奈さんから声をかけられる。
「分かってます。」
遠藤さんはユンボに乗ってゆっくりユンボの爪をヒグマの上に回す。
ヒグマは餌に夢中になっていたがこちらの動きに気が付きそうだった。
私がトラックの側面を鉄パイプで叩く。
ガンガンガン
「こっちよ!」
ヒグマは一瞬私を見るがまた地面の餌を食べ始めた。
《あー一生懸命生きてるのにごめんね。》
私は心の中で思った。
そして遠藤さんに目配せをする。遠藤さんはコクリと頷いてユンボの爪を思いっきり振り下ろした。
シュ
バグゥン
《当たった!》
ヒグマの肩のあたりにユンボの爪が思いっきり当たったのだ。
があぁぁぁぁ
かなりの打撃にクマが暴れる。
するとあまりの痛さに怒ったのか私の方に飛びかかって来た。
10トントラックの上なので高さはある物の、私はすくみ上ってしまった。
「きゃぁ!」
「どうする?にげる?」
愛奈さんが言うが次の瞬間ユンボの爪が横なぎにヒグマを襲った。
ドン!
ゴロン
ヒグマは横に転がる。
「決定打が無いわ!」
あずさ先生が言う。
「仕方ない逃げましょう!」
愛奈さんが言ってトラックをバックさせ始める。
すると遠藤さんが言った。
「いえ!脳震盪を起こしているみたいです!愛奈さん上がっちゃってください!」
「えっ!?ええ!」
一旦バックさせたトラックでヒグマに乗り上げた。
ぐがあああああ
10トントラックの車輪に乗り上げられてバタバタしていたヒグマが次第に静かになる。
ヒグマの周りからおびただしい血が溢れて来た。
「愛菜さんバックしてください。」
ピーピーピーピー
ヒグマはピクピク言っていたがとうとう動かなくなってしまった。
あまりのグロ映像に私も遠藤さんも愛奈さんも真っ青になっていた。
あずさ先生は手術などで怪我人を見慣れているせいか平気そうだった。
「やった‥‥」
「やりましたね。」
「帰りましょう。」
「いやここに死骸を放置するわけにはいかないわ。」
あずさ先生が言う。
「それもそうですね。でもどうしたら…」
私が言葉に詰まる。
「大丈夫よ。」
あずさ先生はトラックに積んであったロープを荷台に括り付けた。
「ちょっと結んでくる。」
あずさ先生がトラックを降りようとした。
「あ!ちょっと待ってください!俺が行きます!」
遠藤さんがバッとロープを取り上げてトラックを降りた。
「気を付けて!」
遠藤さんが恐る恐るヒグマに近づいて行くとヒグマの足にロープをくくりつけた。
「オッケーです。」
そのまま慌てて遠藤さんは助手席に乗った。
ピーピーピーピーピー
トラックのバックの音と共に、血だらけのヒグマがモップのように血のラインを引くのだった。
《我ながら、なんという酷い殺し方を考えてしまったんだろう。》
ただただクマの冥福を祈るばかりだった。




