第121話 救命救急 ー長尾栞編ー
私がなっちゃんと抱き合っていると、あずさ先生が車をバックさせて近づいてきた。
「栞ちゃん!」
慌ててあずさ先生と麻依さんが降りてくる。
麻依さんは唯人を抱いてきてくれた。
ガチャ
なっちゃんが乗ってきた後ろの車の運転席のドアが開いた。
降りてきたのはなんと!
テニスサークルで1学年上の川村みなみ先輩だった。
みなみ先輩は運転席から降りると、ヘナヘナと路上に座り込んでしまった。
なっちゃんもみなみ先輩も可哀想なくらいガリガリに痩せていた。
そしてだいぶ汚れている様子で髪の毛もバサバサだった。
《・・どちらもナイスバディだったのに・・》
「ちょっとあなた!大丈夫!?」
あずさ先生がみなみ先輩に駆け寄っていく。
「しおりん。後ろの座席に梨美ちゃんが…でも…でも。」
なっちゃんがポロポロ泣いている。
「わかった!」
私は急いで車に駆け寄って後部座席を見に行く。
すると後ろの座席には梨美ちゃんが倒れていた。
《まさか!》
私は最悪を想像した。
ガチャ
ドアを開けると臭いがした。
さっき・・なっちゃんにしがみついた時にも分かったのだが、あまりお風呂にも入れていないみたいだった。
私はかまわず梨美ちゃんに近寄り声をかけた。
「梨美ちゃん!梨美ちゃん!」
体を軽く揺すってみるが返事はない。
《これって》
私が青くなっていると
「栞ちゃん!どいて!」
あずさ先生が割り込んで入り、梨美ちゃんの脇に手を突っ込んで引きずり下ろした。
「心肺停止しているわ!蘇生を試みるわよ!」
「はい!」
あずさ先生は梨美ちゃんの服のボタンを外した。
ブラはつけておらず胸が露わになる。
あばらが浮いていて痩せこけていた。
そしておでこと顎を抑えてあごを上げる。
グッグッグッグッ
あずさ先生は手を垂直にして胸骨の所を手の根元をつけて、強くリズミカルに押し始めた。
30回くらいしてマウストゥマウスで息を2回吹き込む、そしてまた胸骨を押し始める。
4セットくらい続けた時に胸にそっと手を当てて言う。
「心拍再開。かすかに呼吸もしているわ。」
「ど、どうすれば!」
「拠点までは持たないわ。このあたりの病院を探しましょう!」
「はい!」
そして私はなっちゃんの所に走って戻る。
するとなっちゃんも横たわっていた。
うそ!!
私はまた青ざめる。
「なっちゃん!!」
「ん?はい。」
「よかった・・歩ける?」
「なんとか・・」
「私達の車に行くよ!」
「うん。」
なっちゃんに肩を貸して私たちの車に連れていく。
「なっちゃんは一番後ろの席に!」
「う、うん。」
麻衣さんがなっちゃんの手を取って後部座席まで連れて行ってくれた。
そして私が戻ろうとしたとき、あずさ先生がみなみ先輩に肩を貸してくるところだった。
「先輩!大丈夫ですか!?」
「な、なんとか。でも頭が割れそうに痛い。」
「リクライニングにして座るといいわ。」
あずさ先生が肩を貸している反対側の脇に体をいれて、みなみ先輩を車まで連れてきた。
「栞ちゃん。倒れている彼女の所に立ってて!」
「はい!」
私は梨美ちゃんのところに走り寄っていく。
するとあずさ先生は運転席に乗り込んだ。
アロフォードがバックで近づいてくる。
「オーライ!オーライ!ストーップ!」
私があずさ先生に聞こえるよう大声でガス車回収の時と同じ要領で誘導する。
あずさ先生が降りてきて私と一緒に梨美ちゃんを車に乗せる。
床にそのまま寝かせて私が中に入りドアを閉めた。
バン!
私が梨美ちゃんが呼吸できるように体を支えた。
あずさ先生は再び運転席に乗って車を発進させる。
「麻衣さん!栞ちゃん!周りを良く見ていて!病院があったら教えて!」
「はい!」
「はい!」
私と麻衣さんが周辺を見渡す。
すると麻衣さんが言う。
「先生!ありました!100メートルくらい向こう!内科と書いてます!」
「いきましょう!」
そしてあずさ先生は麻衣さんが見つけた病院に車をつける。
「私が見てきます!」
私が車を降りて病院の入り口の自動ドアに走り寄る。
ドアを手で開けてみようとするが開かなかった。
「開きません!」
「じゃあ何かで割ましょう!」
「はい!」
私はその辺を探したら枯れた鉢植えがあったので、それを持ってきて思いっきり自動ドアのガラスにぶつけた。
一回では割れなかったのだが何度も打ち付けるとひびが入ってガラスが割れた。
「入ります!」
私は空いた穴から中に手を入れ自動ドアのカギを開けた。
鍵を空けることでドアは手で開ける事が出来るようになった。
すると玄関に車いすがあったのでそれを引っ張り出す。
「先生!車いすがありました。」
「彼女を乗せましょう!」
「はい。」
私とあずさ先生と麻衣さんがゆっくり梨美さんを車いすに乗せて、病院内に入っていく。
「ベッドがあるわ。あそこに寝せましょう!」
「はい。」
そして梨美ちゃんをベッドに寝かせた。
「栞ちゃんと麻衣さんは車にいる二人を見て上げて!彼女たちもだいぶ衰弱しているわ!夜になった時の為に持ってきた食料が積んであるから、水とあと柔らかいものをあげて。」
「はい!」
「はい!」
私達が車に戻ると、なっちゃんもみなみ先輩もぐったりしていた。
「なっちゃん大丈夫!?」
「うんなんとか…」
そして私は食料から水のペットボトルを取り出してなっちゃんに与える。
麻衣さんがみなみ先輩に水をあげている。
「エナジー補給のゼリーがあるんだけどゆっくり口の中で温めて飲んで。」
私はエナジー補給ゼリーの蓋をとってあげてなっちゃんにくわえさせた。
なっちゃんが勢いよく吸い込もうとしたので一旦口から離す。
「なっちゃんゆっくりゆっくり。」
「う・うん。」
胃に負担をかけさせないように、ゆっくりとゼリーを含ませて口から離す。
「温めて飲んで。そうそう。」
そしてまたゼリーを口に含ませて食べさせる。
後ろでは麻衣さんも同じようにしていた。
すると唯人が泣き出してしまった。
「わーん。わーん。」
「ああ、唯人ごめんね。おむつ替えなくちゃ!でもまっててね。」
泣いている唯人をそのままになっちゃんへ食べさせ続けるのだった。
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