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終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで… サイドストーリー  作者: 緑豆空
第2章 長尾栞

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第113話 レイプ未遂犯が生かされる ー長尾栞編ー

衝撃的な事故から2週間がたった。


そして昏睡状態だった男が目を覚ました。2週間の昏睡状態から目が覚めたのだ。


「目覚めたかしら?」


華江先生が男に話しかける。


男はストレッチャーに乗せられてホテルの1室にいた。


男がいるのは6階のオフィスフロアの一室だった。


人工呼吸器や点滴の器具ほか救急医療用の機材も運び込んでいる。


心拍を図る機械が男から外される。


「・・・・・」


「あなた話せる?」


「ここは?」


低い声で答える。


「オフィスビルの一室よ。」


「オフィスビル?」


「俺はどうして?」


「あなたは事故を起こしてここに運び込まれたの。」


「事故・・そういえば!」


どうやら男は体を動かそうとしたようだった。


「無理よ。脊髄損傷しているの完全損傷だから全身が動かないわ。合併症の危険性もあるから一様治療器具も取り揃えているけど。」


「・・あんたは誰だ?」


「私は外科医。」


「医者か助けてくれて礼を言う。」


「礼はいらないわ。」


「・・・・・・」


男は考え込むように黙ってしまった。


「俺は治るのか?」


「もう体は動かないわね。」


「なんとかならないのか?」


「神経を回復させる投薬や細胞移植などの術式がないわけでもないわ。幸い私はそちらの専門でもあるのよ。」


「治せるって事か?」


「ただ細胞移植や投薬をして新しい神経を繋いでも、動けるようになるかはリハビリテーション次第ね。でもあなたの脊髄は普通に完全損傷だから歩けるようにはならないわ。奇跡的に上手くいったとしてもせいぜい手が動かせるようになるくらいかしら。」


「やってもらえるのか?」


「残念ながら細胞移植出来るほどのスタッフはそろっていないわ。リハビリテーションの専門家もいない。数年にわたってあなた一人にかかりきりになれる人なんて用意できないしね。」


「・・そうか。あんたらはいったい?」


「あなたは幸運ね。こちらの先生以外でこんな大手術を一人で行える人は日本にはいないわ。わたしは麻酔医でこちらが看護師。セットで生き残ったのよ。」


あずさ先生が答える。


「そしてあなたを助ける理由なんてなかった。そのままにしてもよかったのよ。」


華江先生が冷たく男に告げた。


すると奈美恵さんが内線で電話をかける。


「目覚めたわ・・ええ。まだ希望しているなら彼女を連れてきて。」


ガチャ


内線を切った。



私は奈美恵さんからの内線を切った。


「遠藤さん。目覚めたそうです一緒に。」


「ああ。」


「里奈ちゃんも大丈夫?会わなくてもいいのよ。」


「・・いえ行きます。」


私は里奈ちゃんの手を取って6階のオフィスに向かう。


里奈ちゃんは緊張した面持ちだった。


それもそのはず男は自分を犯そうとして、さらにはにゾンビの集団の前に捨てていった人間だ。


「里奈ちゃんは偉いわ。」


「気持ちを切り替えたいんです・・」


あの時・・


里奈ちゃんは車の中で男に襲われそうになり、暴れた挙句クラクションを足で鳴らしたらしい。


するとその音に誘われ建物の中や周囲からのそりのそりとゾンビが出てきたのだった。


コンビニの駐車場がゾンビに囲われ始めると身の危険を感じた男が、里奈ちゃんを駐車場に放り出したのだった。


里奈ちゃんが襲われている間に逃げる予定だったらしい。


里奈ちゃんは恐怖で叫び声をあげる事も出来ずにいると、男の車は急発進して逃げて行った。


・・しかしそれと同時に集まろうとしていたゾンビが燃えるように消滅していった。


もちろん遠藤さんが猛スピードの車で追いかけてきた結果だった。


パニックを起こした里奈ちゃんの元に数台の車のエンジン音が聞こえてきて、私と遠藤さんが車から降りてきて駆けつけたという事だった。


コンコン


中からロックが解除されてドアが開けられた。


問題の男が簡易ベッドに横たわっていた。


「・・・お前は。」


男が里奈ちゃんを見てつぶやく。


「ええ、彼女は私たちの仲間よ。」


華江先生が言うと男は状況がすべて理解できたようだった。


「そういうことか。命を助けられただけでもっていう事だな。」


「ええ。」


華江先生が冷たく言い渡す。


「あの!」


里奈ちゃんが男に駆け寄る。怖い思いを振り切って話しかけたようだった。


「・・・ああ。いまさら謝っても仕方ないかもしれないがすまなかった。」


「なんであんなことを!」


「俺はもっと酷い事をしてきたんだ。生き残るために人を殺した男も女もな。もう麻痺していたんだ・・そして何をしても生き延びればいいと思ってた。」


「そうですか。」


「どうせ俺は生かされないだろうから、せめて最後は人間の心を取り戻して死にてえ。」


「・・なぜもっと前にそうならなかったんです?」


「わからない。ただ必死だった。」


「そうです。」


「お前なんだろ。俺をこの女医に助けろって言ったのは。」


男が悟ったように話す。


「そうよ。」


里奈ちゃんの代わりに華江先生が答えた。


「彼女から事情を聴いて、私は手術をする気にはならなかったわ。」


「そりゃそうだ。お前なんでだ?」


男は里奈ちゃんに聞いた。


「・・・あなたは。あなたは私がお腹が空いていないかを聞いて来た。チョコレートをくれようとしたし、これからずっと一緒にいる人が出来たのが嬉しそうだった。」


「そのとおりだよ。俺はもう孤独が嫌だった。そしてお前を俺が養っていこうと思った。だが俺は結局ゾンビが来た時お前を捨てた。」


どうやら男のカンダタの蜘蛛の糸はチョコレートだったらしい。


「そう・・。なら私はもう謝ってもらったからいい・・」


「そうか。俺はもう動けないらしいしお前の好きにしてもらってかまわない。ゾンビの街にでも捨てて来てくれ。」


「いや。私はもうどうでもいい。」


私は気丈に男と会話をしている里奈ちゃんの肩を抱いて下がる。


「もう大丈夫?」


華江先生が里奈ちゃんに言うとコクリと頷いた。


里奈ちゃんは偉いと思う。私ならこんなに簡単に許せないかもしれない。


いや彼女も許してはいないのだろうけど、私なら先生に男を助けてなんて言えなかったかもしれない。


私は彼女に尊敬の念を抱くのだった。


「あなたはこの体でいつ合併症を起こしてもおかしくない状態よ。残念ながらその治療を続けるほどの医療設備を動かすスタッフは割けないわ。」


華江先生が里奈ちゃんに代わって話しをする。


「そうか・・それならあんなことをしておいてこんな願い聞いてもらえないだろうが、薬で楽に殺してほしい。」


「殺しなんていやよ。私は医者だしここに居るみんなも望まないわ。」


「ならどうしたらいいか・・俺の下の世話なんて誰もしたくねえだろうし。」


「それがね。あなたに全く利用価値が無いわけじゃないのよ。」


華江先生が言うと男が疑問の表情を浮かべる。


「動けねえ人間なんていらねえだろ。いつ死ぬかもわかんねえような・・」


「ちょっとあなたについて調べたのよ。今までの経緯を話してもらってもいいかしら?」


いつのまにか華江先生の目が、研究対象を見る目に変わっている事を遠藤さんだけが知っていた。

次話:第114話 妊娠できる限界人数

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