第112話 間一髪 ー長尾栞編ー
私達が乗る3台の車は西に1時間ほど進んできたが、走り去った車を見つける事が出来ないでいた。
《里奈ちゃんどこに行ってしまったんだろう・・》
昨日までは普通に皆んなと仲良くしていたし拠点を飛び出す理由がなかった。
「見当たらない・・」
運転している遠藤さんがぽつりと言う。
「まさか通り過ぎてしまったんじゃ?」
「そうかもしれない。」
「1人でこんなに遠くまで来ないですよね?」
「確かに1人なら・・」
「戻ります?」
「一旦止まろう。」
遠藤さんが運転する車が停車すると、続いて後続の華江先生の車と愛菜さんの車が停車する。
ガチャ
遠藤さんが後続車の人と話をするために車を降りようとした時だった。
ププーッ!
都会の喧騒など一切ない、死んで静まり返った街にクラクションが鳴り響いた。
「遠藤さん!クラクションが聞こえました!」
私は遠藤さんに叫ぶ。
「ああ!聞こえた!」
「あっちです!」
私はクラクションの音がした方を指差した。
「行きましょう!」
「急いで!」
皆がまた車に乗り込み走らせ始める。
幹線道路を西に走っていくと前方に車が見えた。
どうやらコンビニの駐車場から出てきたらしく、急発進のスキール音が聞こえる。
車が出てきた駐車場の方を見ると。
「あ!駐車場に人がいますよ!」
私が指さす方向を遠藤さんが見る。
「本当だ!」
人を見つけた私たちの車がそのままコンビニの駐車場に入っていくが、後続の2台はそのまま逃げる車を追っていった。
私たちが車を降りて倒れている人に駆けつける。
「里奈ちゃん!!」
なんと倒れている人は里奈ちゃんだった。
下半身が脱がされ足首にジャージがひっかかっていて、よく見ると手と足が縛られていた。
「うっ・・ううう・・遠藤さん!!」
里奈ちゃんの意識はハッキリしていた。
「大丈夫!?」
「も・・もうだめかとおもってぇぇぇうぇぇぇ」
パニックを起こしていて泣きじゃくり話せるような状況じゃなかった。
「とにかく車へ!」
私が里奈ちゃんのジャージをはかせて、遠藤さんが担いで車に運び込んだ。
「うっうっ!えっくえっくっ。」
「もう大丈夫だよ!大丈夫!」
「痛い所ない?なにかされた?」
私と沙織さんが里奈ちゃんに声をかけるが、泣きじゃくるばかりで話をすることが出来なかった。
「とにかくみんなを追いかけよう!」
遠藤さんが言う。
私たちの車がみんなが走り去っていった方向に向かって走りだす。
しばらく西に向かって走っていくと2台の車が止まっていた。
遠藤さんと私が降りて皆のところに行く。沙織さんは車の中で里奈ちゃんについてあげていた。
「どうしました?」
遠藤さんが聞くと華江先生が指をさした。
指をさした先に事故を起こした車がいた。
車が横転して建物に突っ込んでしまったようだったが、煙が出ているので爆発の危険がありそうだ。
「あれは?」
「走って追いかけていたら、スリップしたらしくて自爆したのよ・・」
華江先生が説明してくれた。
「自爆?」
私がポツリと言う。
「俺見てきます。」
「危ないわ。」
あずさ先生が言う。
「大丈夫です。その人まだ生きているかも・・」
「そうね、でも気をつけて!」
遠藤さんが事故車に向かって歩いて行く。
爆発しないか心配だった。
車からは煙が出ている・・
「人がいます!生きているかは分かりません!ぐったりしてます!」
車の中を確認した遠藤さんから答えが来た。
愛奈さんが走っていく。
そして遠藤さんと二人で車から人を引きずりだして道に出てくる。
皆が駆けつけて、こちらの車の方まで引きずってその人を引っ張って来た。
ドォォォン
突っこんだ車が爆発してしまった。
「きゃぁぁぁ」
「うわ!」
「あ・・あぶなかった・・」
皆呆然としながら車を見ている。
「かなり焦っていたようだったわ。」
華江先生が冷静に言う。
2台が追跡を続けているうちに、止まっている車にぶつかってスピンして事故を起こしてしまったらしかった。
そして華江先生が男に近づいて行く。
医師の性なのか男の体を触診し始める。
「背骨が折れてるわ。でもまだ生きているみたい。」
「背骨ですか?」
「おそらく脊髄損傷しているみたい。」
どうやら男は脊椎をやってしまったようだった。
「どうします?」
「放ってはいけなそうですが・・」
未華さんが言う。
「里奈ちゃんは?」
「怪我はなさそうです。」
「よかった。」
しかしこの男をどうするのか?放ってはおけないと思うのだが。
「男は私が運転して来たワゴン車に収容しましょう。」
華江先生が言う。
「じゃあ俺がその車を運転します。」
遠藤さんが運転していくという。
「じゃあこのままセントラル総合病院に行きましょう。里奈ちゃんの治療もしたいしね。」
「はい。」
そしてワゴンにそっと男を運び遠藤さんが運転する事になった。
後部座席には愛奈さんと沙織さんが座り男を見張る事にする。
華江先生が言うには脊髄損傷しているので動くことは無理だろうとの事。
「じゃあ行きましょう。」
3台の車はセントラル総合病院に向けて走り出すのだった。
里奈ちゃんは少し落ち着いてきたようだった。
「里奈ちゃん・・大丈夫?」
「はいゾンビは?ゾンビはいませんか?」
「いないわ。遠藤さんがいるのよ。」
「よかった・・」
「襲われたの?」
「もう少しで、危なかったです。」
どうやら私たちが知らないところで、里奈ちゃんはとても怖い思いをしたようだった。
「もう大丈夫よ。落ち着いたら何があったのか聞かせて。」
運転している華江先生が聞く。
「わかりました。あの・・男は?」
「大怪我をしたけど生きているみたい。」
「そうなんだ・・」
いったい何があったのか?
そしてあの男は何者なのか?
男を連れてセントラル総合病院に運び込んだのだった。
事故を起こした男をセントラル総合病院に担ぎ込んで華江先生が緊急手術をした。
脊髄損傷、頭蓋骨骨折、右肋骨2本、右上腕骨折、右大腿骨骨折、肝臓破裂、裂傷多数。
通常なら助からないほどの怪我をしていたが、華江先生の天才的外科手術のおかげで一命をとりとめた。
次話 第113話 レイプ未遂犯が生かされる.




