第111話 男に襲われる恐怖 ー長尾栞編ー
約1時間ほど西に走り続けて車は止まった。
車を停めたところはコンビニの駐車場だ。
誰もいないコンビニの駐車場に動くものは見当たらず、数台の汚れた車が止まっている。
コンビニ店もボロボロに荒れ果てていて食料があるかもわからなかった。
「ちょっと待ってろ!」
さえない中年の男が車に鍵をかけ、恐る恐るコンビニに向かって歩いて行く。
きょろきょろしながらコンビニに行くと、自動ドアは開け放たれており中は荒れていた。
中年の男は店舗内を物色しカゴに食べられそうなものを放り込んでいく。
常温で置いてあるがまだペットボトルの水やお茶は飲めそうだった。だが傷んでいるといけないので水だけをかごに入れる。
そしてバックヤードに入ると、ダンボールに入ったペットボトルの水があったのでそれを小脇に抱えレジ台の上に置いた。
更に店にあったチョコレートや飴やスナック類を、かごに入れ携帯パックの米があったのでそれも入れる。
「よし。」
男はカゴとダンボールを抱えて車に戻る。
車には鍵をかけていたので里奈はまだ車の中に乗っている。
「よお・・食うか?」
「んーんー!!」
猿轡をしているので何を言っているのか分からない。
「おい!暴れるなよ!暴れたら殺すぞ!」
男は女にナイフをちらつかせる。
すると青い顔をして里奈がおとなしくなったので男は猿轡を取ってやった。
「何で女優があんなとこにいたかわかんねえが、食いもんは食ってんのか?」
「食べてる・・」
「いくらか菓子があったけどよ。食うか?」
里奈はフルフルと首を振る。
どうやら怯えていて萎縮してしまっているようだ。
「ふん!」
男はチョコレートを一つ取って、包装紙を破きとり乱暴にチョコレートをかじった。
「スーパーやコンビニにはかろうじて食いもんがあるんだよなぁ・・。生きている人間なんざひとたまりもなくやられたからだろうからな。でも世界に俺一人になっちまったんだと思ってたよ。ホテルのガラスの中で走ってるお前をみつけてな・・」
里奈は口を利かなかった。
「おい。さっきの威勢はどうした?」
「・・・私を帰して。」
「だめだ。ほとんどの生存者が死んで俺は一人で生きてたんだ。女がしかも美人女優がいたなんて俺は幸福だよ。」
「・・・あなたは幸福になんてなれないわ。」
「お前の仲間が今頃気づいたところで、どこに行ったかなんざぁわかんねえよ。」
「・・・・」
男は腹が減っていたのか、無心にチョコレートや湿気たスナック菓子を食べながら水を飲んでいた。
「俺とくれば良い目を見せてやるって言ってんだ。」
「・・・無理。」
「俺は警察官だったんだぞ。しかも特殊任務についていただから戦闘力も高い。そしてなもっと不思議なことがあるんだよ。」
「・・・・・」
里奈は男の話を黙って聞いていた。
「俺の警察の仲間は全員感染してゾンビになるか死んじまった。だけどな俺は感染しないんだよ。俺は何度もあいつらに噛まれているのにだ。不思議だろ?だから俺と居たら安全なんだ。」
里奈は思っていた。
《いや・・私たちにはもっと凄い力を持っている人がいる》
「お前が感染しちまったらどうしようもねぇけど、俺と居れば守ってやれるぜ?」
「・・・いい。帰る。」
「くそが!わかんねえガキだな!女優とか言っても所詮はそんなことも理解できないガキかよ。」
《悔しい。》
でもそんなことはどうでもいいと里奈は思った。
自分が犠牲になる事で他の人に危害が加えられることが無いのだから。
《仲間はみんないい人だった。私が犠牲になる事で皆が救われるならそれでいい。》
里奈は押し黙ってしまった。
「どうせ誰もこねえ。」
そして男はおもむろに運転席のシートを倒して来た。どうやら車で寝泊まりしているらしくシートはフラットに倒れ、後部座席とまっすぐにつながった。
・・・・これは。
男が何をしようとしているのかがわかった。
「やめて!」
「うるせえよ!菓子を食って腹が膨れたんだ!そしたら次にやる事はひとつに決まってんだろ!こんな美人の女優を目の前にしておとなしくしてろって方が酷だろ。」
「いやぁ!」
男が近づいて来たので、里奈は手足を縛られながらもバタバタと暴れる。
「おい!忘れたのか?これが見えねえのかよ!」
スラリと大きいナイフを見せつけられる。
「俺は何度もこんな事をくりかえしてきた。生きる為なら男も女も殺して捨てた。まあ殺してもゾンビになって復活してくるんだけどな。お前は殺さないでいてやる!こんな有名女優とずっとやりてえと思っていたんだ。じっくり心行くまで何カ月でも何年でも一緒にいてやる。」
里奈は背筋が凍る思いだった。
失意のどん底に叩き落されてしまった。
《誰かにトレーニングルームに行くって言っていればよかった!だれか気づいて!!》
とにかく祈った。
しかし何も起こりはしなかった。
「へへへ。よし静かにしとけよ!」
里奈は手足を縛られて体の自由は効かなかった。
それよりも殺されてしまうと思うと怖くて思うように体が動かない。
「へへへ・・そうだ・・最初っからそうしてればいいんだよ。」
男が近づいてくる。
どうやら男は何カ月も風呂に入っていないようで臭かった。
さっきは必死だったので気が付かなかったが思わずえずいてしまう。
「うっぷ。」
男はそんなことお構いなしだった。
里奈は手足を縛られながら後部座席の背もたれに顔を押し付けられる。
お尻が男に向くような姿勢になった。。
死にたい気持ちだった。
「だれか・・」
ズル
乱暴にジャージとパンツがずり下げられた。
「へっへっへっ!どうやらきれいにしてんじゃねぇか・・」
男の顔が自分の裸の尻に近づくのを感じて究極の嫌悪感を感じる。
「嫌だ!」
バタバタと暴れはじめる。
「おい!殺すぞ!」
里奈が体を思いっきり伸ばして抵抗し始める。
「くそ!」
それでも何とか里奈を押さえつけてやろうとするが、里奈の足がクラクションにかかる。
プーーーーーー!
高らかにクラクションが鳴るのだった。
次話 第112話 間一髪.




