46話 パーティー編成(前) 対立
「アレク! それでどうするんだ?」
叙爵の晩餐会が終わって屋敷に戻ると、先生が俺に執務室に来た。
大体の察しは付くが…。
「何のことですか?」
「決まっているだろう。カレン・ハイドラ嬢のことだ」
一瞬嫉妬? と思ったが、がっつりにやけている。面白がってるだけだな。
「いや、まだ特に、何とも」
「そうか…彼女の髪の毛を分析してみたのだが…」
はあ?
「ちょっと待って下さい!」
こめかみを押さえながら、俺は切り出す。
「どこで、カレンの髪を?」
「カレン…な」
「名前ぐらい、いいじゃないですか。同級生だし。それより……」
「髪は、本館の応接室でな」
「でも、メイドとかフレイヤも部屋には来ましたから、それがカレンのかどうか」
「消去法だ。髪の毛の遺伝子が、この館のどの者とも違っていた」
「えっ?! えーと。全員の髪の毛を手に入れ…てるみたいですね」
久しぶりに、先生でドン引きした。朝はカレンでドン引きしたが。
「お前の分は、髪の毛だけでなく、爪に唾液、血液、精液…」
「もぅーー良いです」
「良くはない。日々更新しながら、お前の健康状態をだな…」
ありがたいことなんだろうが、全く嬉しくない。しかも更新してるのかよ。
「それで、カレンの髪の毛を調べたんですか?」
「ああ、調べた。結果を聞きたいか」
「何の結果ですか?」
「お前とハイドラの遺伝的相性をだな」
「いや、いいです」
先生が、あからさまにがっかりしている。
「おまえ……そこは、”是非聞きたいです!”だろ」
「是非聞きたくないです。もう帰って下さい」
「なんだ。やりがいがないな」
いや! 俺は、頼んでないし!
「まあいい。相性は結構良いな。私やユリ程ではないが」
「はあ……そうですか」
俺と、先生やユリとの相性は良いのね、遺伝子の。
というか、そんなの分かるんだ。前世より進んでないか?よく知らんが。
「そういう訳で。ハイドラとの婚約については、私は賛成だ!」
「はぁぁああ?」
「私は、賛成……」
「いや、聞こえてます。そうじゃなくて、遺伝子だけで人の結婚を決めないで貰えますか!」
「むうぅぅう。じゃあ、何で決めるんだ?遺伝子の相性が悪いと、生まれてくる子は不幸だぞ」
「そっ、そこは、恋愛感情でしょうよ」
うわぁ、心底蔑む眼で見られた。
「いいじゃないか、お前とハイドラの子。私も創作意欲が湧くし」
「その意欲要りませんし、止めて貰えますか。仮にできたとして授かり物ですし。アレックスは思いっきり恨んでますよ!」
「それを言われると弱い!……ではな」
ランゼ先生は、麗しい眉と肩を下げて部屋を後にした。
ふう。全く先生にも困ったものだ。
本人は、半分くらい俺のためと信じてやってるところが始末に負えない。あとの半分は狂学者の性だが。
「あっ、はい」
ノックがあって、メイドが入ってきた。ユリだ!
表情が微妙だなあ。
やっぱり,カレンのことは知っているようだ。
「アレク様。おめでとうございます」
「あっ、ああ。ありがとう」
俺達の言葉はぎごちなかった。
「アレックス卿と呼ばれるんですね。時々キッチンへつまみ食いに来られていた、小さくて美しい、あの子が」
なにやら感慨深げだ。
「ああ。時の経つのは早いな」
「はい…私に子爵様の専属メイド頭が勤まりましょうか?」
俺は、席を蹴って、立ち尽くすユリの前まで歩いた。
ユリの顎を掴んで、上を向かせる。
ンゥンンン…ツッ……。
ユリの唇に光の架け橋が見えた。
「憶えておいてくれ。俺は狡い男だ」
ユリは、俺の顔を見上げた。
「アレク様が狡いなら、私も狡くなります」
「ふふ。それは良い…カレンに結婚を申し込まれたが、今のところ受けるつもりはない」
「そうなのですか?」
「ああ」
「ご結婚されるも、されぬも…アレク様の御随意になされませ…でも…」
「ああ、ユリを離しはしない」
「うれしいぃっっっ」
翌朝。
馬車では、フレイヤも押し黙ったままだったし、ホームルームまでの時間も平和で肩すかしにあったようだ。もっとも、自称親衛隊のメンバーがゼノビア教官と一緒に教室に入って来たところ見ると、俺が知らぬところで何か進行中な気もするが。
こうして平和裏に、昼休みも終わり。魔法実習の授業となった。
しかし、実習服には着替えなくて、制服のままで良いという。しかも、練兵場ではなくて、座学の教室に集合だ。
なんだか嫌な予感がしたので、時間ぎりぎりに入った。
鐘が鳴る前に入ったのだが、既にゼノビア教官が教壇に立っていた。
「……知っていたが、どうした」
んん? 何の会話だ。
「サーペント、早く席に着け」
「はい」
生徒の方を見ると、エマが憤然と席に着いた。
教官と何かあったか?
嵐の前の静けさという言葉そのものだ。
何だか、異様な雰囲気だなあと思いつつ、一番後ろの席に向かう途中で、女子に手を振られた。
げっ。カレンだ。女子制服を着てる。
先週まで、男子制服だったよな。
さっきの状態がピンと来た!
男子として通ってた、カレンが女子だった!ゼノビア教官は、それを知っていたのかと、エマが詰問したのだ。
晩餐会で、泣いて帰った1年生が、ご注進と親衛隊に知らせたに違いない。
席に着いた直後に鐘が鳴り、授業が始まった。
「うむ。全員出席のようだな。流石に2年ともなると嗅覚が利くようになるものだな」
はぁ?どういう意味だ。
しかし、俺以外の生徒は分かったようで、ゼノビア教官が言葉を止めると、教室がしんとなった。何やら、今日は特別なことがあるらしい。
「今日の実習を、教室でやる理由は他でもない。皆の期待の通りだ」
ウァアアアと、教室内に歓声が谺した。
だから、何なんだって?
「恒例の園外演習を、再来週の水曜日から金曜日に掛けてやる。この時間は、その事務的な説明をする」
園外演習……? 2泊で?
そう言えば、そんなことが学園の要綱に書いてあったような気もするが、詳しくは読んでない。従者が理解しているはずだ。
教官の説明を聞いていると、演習は王都場外では有るが、そんなに離れては居ない、15km程行った森でやるらしい。2時間弱の行程だ。
何をやるかと言えば、魔獣を斃す訓練だ。まあ森と言ってもそれなりに手が入っていて、大凡は魔獣階位で3。数頭のオーク位、階位4は居ないそうだ。
マニュアル上は階位4の魔獣が現れれば、非常事態が宣言され、監察教官の指導の下に撤退となっている。そのような例は、長い学園の歴史で1度も無いそうだが。
水曜日の朝に出発、10時頃ベースキャンプに到着、昼から演習開始、2日間継続して金曜日の午前中にベースキャンプに帰投。そのまま王都に馬車で戻る予定だ。
ここまでの説明で45分。
たるい…。口頭説明じゃなくて、文書でくれよ。レダが読むから!
「これで大体の説明は終わりだが、肝心の話がまだだ……」
なんだと?
「パーティーの話だ!」
教室に歓声が上がる。
流石、宴会の話とは思わない。
「演習では団体行動…6人または5人単位でパーティーを組み、行動して貰う。さらに6パーティーに1人ずつ監督教官が付く」
ほう。そういうことか。が、正直誰でも良い
「魔法科2年は男子13人だ。指導要領3の1によると、寝食を共にするので男子多人数に少数の女子を入れるわけにはいかん」
そりゃそうだ!
フレイヤがそうなったら、俺は暴れるぞ!
「よって、男子12人で2パーティーを作って貰う。自主的に決めろ。ああ教室のそっちの方でやってくれ…」
男子達が立ち上がり、言われた一角に移動し始めた。
「……おい、サーペント!なんで立ち上がるのだ?」
「あーいや。男子で決めろと」
「12人と言った。お前を入れると13人になる」
「はあ?」
「お前は、ハーケンと同じパーティーだ。女子を従者にするから、そうなる」
げげっ。抗議の出鼻を挫かれた!
言い返せないし。
「あとの女子4人をどうするかは…」
「教官、提案があります!」
「なんだ?ハイドラ!」
是非是非、ブックマークをお願い致します。
ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya




