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166話 戦術演習

魔人認定の第2課題の開始です。

 数日後。

 俺は、第2回検証とやらで、王宮から三筋離れた参謀本部へ呼び出されていた。

 魔人の検証を、なぜ王都のど真ん中でやるのかと言う疑問は湧くが。単純な魔法勝負、力比べということではないのだろう。

 

 受付に待ち構えていた兵に案内されて、本庁舎脇の部屋に入る。


 正面に覆いが被ったでかいテーブルに椅子。そして大きな機械時計が置いてある。そして、既に待っている者が居た。以前俺を査問した男だ。


「今度は、バネッタ君か……」


 男は何度か瞬きすると、肩を上下させてから、しゃべり始めた。

「アレックス卿。お越し下さり感謝致します。早速ですが、説明致します。本日の課題は、こちらで戦術演習盤を使って戦って頂くことです」


「演習盤……」


 学園でも、騎士課程では授業がある。ざっくり言うと、6角形のマスいわゆるHEXが切られたウォーシミュレーションゲームだ。


 レダが進み出た。

「戦術演習盤が、魔人検証にどのように関係があるのか、ご説明願います」

 攻撃を始めたな。暫く傍観しよう。


 レダの方を、40絡みの男は、にこりともしないで見据える。

「恐れを多くも、魔人は我が軍において、将軍としての指揮権を有することになります。ならば、その方は、戦略・戦術に対する識見と経験を有している必要があると、参謀本部では考えております。したがって、魔人検証の課題として、戦術演習盤は最良と判断します」

 抗議に向けて、事前に準備した答えだな。


「それは、参謀総長殿の意見ですか。それとも参謀次長ですか?」

 鋭いなレダ。後者で少し眉が動いたぞ。


「そっ、そのような個別質問についてはお答え致しかねます」

 タジタジとなったバネッタを冷たく睨み付ける。


「それにしても、不公正な課題ですね!」

「なっ、何がでしょう」


「アレク様は今の今まで課題の内容を知り得ず、対戦者は今日に向けて準備ができました。これでも不公正でないと?」


「課題の評価は、勝ち負けだけを問うわけではなりません」

「公正の担保には一切なりませんね。逆に言えば、勝ち負けだけでないと言うことは、そちらの恣意的な評価ということになります。より不明瞭ではありませんか?」


「むぅ。評価は、軍籍にない第三者の王立科学院に審査役にお願いしております……アレックス卿が勝利した場合は無条件に最高評価。仮に引き分けか敗北の場合に初めて審査役に委ねられます」


 この辺で良いだろう。


「良いのではないか? 彼らは、私の悪評価を公表したいだけのようだしな」

「ぐっ。アレックス卿。そのようなことはありません」


「どのみち軍部の評価は参考意見でしかなく、結局は王立科学院と宰相閣下がお決めになることだ」


 バネッタは一瞬睨んだが、目を伏せ詳細説明を再開した。


 演習盤戦は、平面の盤に、部隊相当の駒を置き、それを動かして闘いを模擬する。

 団体戦、個人戦があるが、試合では敵味方と審判の最低3人以上が必要になる。


 試合は、戦力と部隊設定する作戦ステップ、部隊をステージ上に配置する布陣ステップ、試合本番となる戦術ステップの3ステップからなる。

 戦術ステップは、彼我が同時に行われる行軍と戦闘をひとまとまりする行動相フェーズが4回含まれる演習上時間30分を1単位とする戦術回、ラウンドの繰り返しだ。なお、行軍しなければ、部隊再編成をすることも可能だ。なお20ラウンド経過すると1日(夜間は行動不可)が経ったことになる


 部隊は騎兵や歩兵といった兵科と、武具や魔法などの攻撃手段、防具、移動手段、練度などの固有属性を持ち、さらに兵数、士気、消耗度、損傷度などからなる可変属性を持つ。

 それらの属性に加え、時間帯、天候より、盤上の1行軍フェーズにおける最大移動距離が決まる。さらに索敵範囲と攻撃可能範囲つまり最大射程が決まる。

 

 段階レベルとは、模擬の詳細度であり、数が大きくなるほど詳細になる。1から2になった段階で、兵科に対する武器の自由度が上がる。さらに3になると行軍の会敵時の状況が異なってくる。また段階が上がれば、運要素、基本的にはサイコロを振って決まる要素が増えてくる。


 演習盤戦は、戦闘結果の計算量、それに把握すべき項目と数値の量がとにかく多い。当然その計算に時間が掛かる。しかも段階によって、それらは対数的に増えるのだ。

 したがって、現実に近いと言えば近いが、楽しいかと聞かれれば、間延びして楽しくはない。計算や表示が、前世のコンピュータゲームのように、ほぼ瞬時に機械がやってくれるなら、また別だろうが。

 しかし、軍人養成には有用とされているし、何にでも好きな奇特な人間は居るので、学園では授業以外に部活動として実施されている。


「それで、段階レベルと参謀数は?」

「はい。段階は最高のレベル3、参謀は0。つまり、アレックス卿のみで戦って戴きます」


「レベル3で参謀0? 正気ですか?」

 ああ、またレダが、氷点下で沸騰し始めた。


 正気ではないだろう。

 俺は学園の状況しか知らないが、学園では参謀を大体3人以上付けるし,段階は大体1、まれに2だ。3にしたら、凄まじい計算量をこなさなければならなくなり、会敵した時点で1フェーズを終わるのに15分以上掛かって、あっという間に時間切れになってしまったそうだ。


「ええ。大丈夫です。審判役は50人動員していますので、さほどお待たせすることはありません」

 50人? 人を掛け過ぎだ。


「審判より、選手の戦力把握が追いつきはしません」

「そこは、頑張って戴くしかないですな。参謀を付ければ、それはアレックス卿が優秀なのか、参謀役の人間が優秀なのか判断できませんからな。その代わりに子爵様は、慣れないでしょうから、天候は晴れのみ、風もそよ風を超えるものは発生しない設定に致します」


「それは、全く譲歩に……」

「ふふふ。良いじゃないか、レダ」

「アレク様?」

「その条件で受けるぞ。バネッタ君。で、他には」


「あっ、ありがとうございます。他は、参謀は認めませんが、分軍団を1つまで認めます。別行動を採る場合は、審判員から副将役とその軍監を置きます。ただし、副将の裁量が入らないように、指令書を書いて戴きます」


 はあ、面倒臭いな。


「それから終了条件ですが、標準ルールを使います。降参もしくは、いずれか部隊全滅、あるいは4ラウンドごとの判定で損耗率30%を超えるか、試合時間が終了した場合とします。試合時間は、休憩時間を除き6時間。20ラウンドつまり1日を単位として休憩を入れます。そうですな、順調にいけば第20ラウンドで昼食を摂って戴けます。説明は以上です。で、では30分後に開始致します。時間になりましたら、従者殿は退出戴きます」


 バネッタは逃げるように出て行った。


「アレク様、圧倒的に不利な状況ですが。私が居なくても……」

 珍しく心配そうだ。


「そうだな。レダには参謀について貰いたかった。何より淋しいしな」

「そんなに、にこやかにされては、私はどうしたらよいか……」


 へえ。俺は笑っているらしい。自覚はないが。種目が何でも競争好きなのだな。

「まあ、そんなに心配するな。命までは取られわけではない。取られそうになったら反撃するが」


     ◇


 30分が経ち、レダが退出した代わりに、覆面した審判役9人が部屋に入ってきた。


「ただいまから演習盤を開示し、30分間、戦略作戦時間をとります。戦術ステップは10時開始です」

「ああ」


 審判役は、丸めてきた地形図を広げて、その端に重しを置いた。

「規格41です。どうぞご覧下さい。アレックス卿は、南端付近のこの範囲に布陣し、北端付近に布陣する敵と戦って戴きます」


 首肯しつつ、地形図マップを眺める。

 むう。結構広いな。


 地形図に書かれた戦域ステージは外形が大凡6角形で、その内部はさらにHEXで区切られて描かれている。ちなみにHEXは、1辺が250m相当で、外形の各辺が規格の数、つまり41HEXだ。全HEX数は4921に及ぶ。

 ちなみに、一辺がn個のHEXならば、全体の数は3n(n-1)+1だ。


 その地形、つまりHEXの色は、薄茶色と薄緑色しかない。つまり平原ステージだ。ステージの中程は薄茶色の剥き出し地面が多く、周縁は薄緑の草地が多く分布している。


 勝負に紛れの少ない、実力がそのまま発揮される地形と言うことだ。


──あーあ。あからさまに敵有利に持って行ってるね!


[なんだ、アレックス。戦術演習盤は詳しいのか?]


──まあ、辺境伯子弟の嗜み程度には


 じゃあ、しばらく言うことを聞かないようにしないとな。


──はっ?


 ふむ。さて、どんな布陣をしたものか。


     ◇


 対戦者の部屋──


「セブルス。アレックス卿は乗ってきたぞ。フフッハハハ」

 愉快そうだ。


「そうか……」

 セブルスながら、乗り気ではない。

「なんだ、お前らしくもない。余裕だろう、魔人か何か知らないが、所詮相手は素人だ。翻ってお前は参謀本部では敵無しなのだから」

 簡単に言ってくれる。

 確かに演習盤の経験はほとんど無いだろうが。引っかかることはある。


「そうだが……素人の戦術は、常識では測れないし、俺は勝率が高いと自負しているが、無敗ではない」

「随分弱気じゃないか、それでは困るぞ」

 マクエスは、眉根に皺を寄せる。


 彼は俺がアレックス卿に確実に勝てるだろうと思って、この企画を盟主に提案したのだろう。

 確かに、演習盤、しかも段階レベル3。扱うデータ量は夥しい。素人はそれに慣れることすらできずに、終わることがほとんどだ。しかも、参謀もなしとなれば、如何なアレックス卿と雖も……。


「無論、最善は尽くす」

「頼むぞ!」


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