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151話 一族集結

「おはようございます」


 ん? うううん。

「はあ。ああ、おはよう……ユリ」

 なんとなく触った敷マットには、まだ体温は残っていたが、カレンの姿はなかった。

 起きて自室に戻ったのだろう。


「湯浴みをされますか?」

「いや……」


─ 御祓ミソギ ─


 ユリは、俺の身体を包んだ、金色の光を見て眉を上げた。

「寝汗なら、これで十分だ」

 寝る寸前にも、発動したしな。


「では、お召し替えを。本日は冬至の式典がございますので……」

 そう大事な式典だ。


 何にも言わないな。俺が昨夜カレンと結ばれたことは知っているだろうに。

 立ち上がって、ユリに抱き付く。

 我ながら最低! そう思いながらも、抑えられなかった。


 カレンも好きだが、やはり第一に大切なのはユリだ。それなのに、何もしてやれない。そう思うと愛おしさがこみあがってくる。

「ごめん。ユリ」

 佳い匂いだ……。


「アレク様」

「ん……」

「前にも申しましたが、私は幸せです。アレク様を、お支えできているのですから」


「けどなあ」

「こうしているのはとても嬉しいのですが。そろそろお時間が」


「さっき、湯浴みするかって、訊いたじゃないか」

 ならば……。

「申し訳ありません。確実にないと思いましたので、ギリギリまでお休み戴きました」


 むう。

「わかった」

 腕を解くと、俺の身支度が始まった。


 貴族の正装だ、シャツの上に膝上までカバーする襟無しの蒼いベストを着込む。下は多くの貴族が着る半ズボンのようなブリ-チズではなく、最近王都でも流行りだした足首まで覆うパンツに、キラキラと金鋲が多く使われたショートブーツを履く。あのタイツみたいなのは勘弁だからな。


 パンツの皺を伸ばしていたユリから、フフフと笑い声が聞こえる。見下ろすと、満面の笑みを湛えている。


「どうした?」

「何度拝見致しましても、とてもお似合いで、惚れ惚れ致します」

 うーむ。俺は某歌劇団の男役のようで、もう一つなのだが。

 薄手のコートに袖を通すと、微笑んでいるユリが襟元を直してくれる。


「それより、俺はユリにカレンのようなドレスを着せてやりたいのだが」

「それは、メイドの分を超えます」

 襟刳りの大きな……着てくれたら何時でも眼福になるのだがな。


「じゃあ、出迎え行ってくる」

 と言っても、本館の玄関だが。

「いってらっしゃいませ」


 部屋を出て、カレンの部屋を訪れる。

 ノックすると、ルーシアが出てきたが、その奥には既に身支度の済んだ、カレンが立っていた。

 おおぅ。

「綺麗だ!」


 カレンは、ペールブルーの素晴らしく品の良いいドレスを纏っている。

 きゅっと絞ったウエストから、結構な丘陵をレースのベールが幾重に覆う。そしてスカートはやや広く丸く広がり、裾はやはりレースが織り込まれている。


 優雅で居て可愛らしい。

 舞踏会へ行くほど派手ではないが、特別な衣装だ。


 この子を、最初は男子と思っていたとはなあ。

 すっと差し出された手を取って引き寄せる。


「行こう」

「はい」


 本館玄関に着くと、既に両親とフレイヤ、さらにいつ来られたのか、グリウス叔父にエヴァ従姉さんが待機していた。それぞれに挨拶して、お袋さんとフレイヤの間に並んで待つ。

 エヴァ従姉さんが、俺にウインクしていたのは、何の意味があるのだろうか。そう言えばイオちゃんが居ないが、まあ、血の繋がらない祖父母に会っても仕方ないしな。

 

 そんなことを思っていると、城内に来客が馬車で入ったと感知魔法が知らせてきた。


「義姉上。そのドレス、とても華やかで良いですね」

 そう言ったフレイヤも正装であり、多少大人びて見える。


「お越しになります!」

 従者の声で、全員が居住まいを正した。


 城から遣わした馬車が、ロータリーを回り出した。間もなく我らの前に停まると、従者が扉を開けた。


 ゆっくりとステップに足を掛け、先代領主、つまりはアレックスの爺様とお婆様が降りてきた。


──お爺様の扱いが悪くない?

[心の中だけだから良いだろう]


 親父さんに倣って、出迎えた皆が跪いて挨拶する。


 まずは、親父さんの前に立つ。

「父上、壮健のご様子、嬉しく存じます」

「うむ。ガイウス。出迎え御苦労。セシリア殿もな」

 爺様は、いつもながら渋いね。


 おっと俺の前に来た。

「お爺様、お元気そうで何よりです」

 鋭い目付きで睨まれた。

「うむ。アレックスも、良い血色だ。最近の活躍は聞いておるが……。婚約したそうだな」

 視線が一瞬、左隣へ向いた。


「はい。こちらが、婚約者のカレン・ハイドラ嬢です」

 一歩左にずれた。

「初めて御意を得ます。カレン・ハイドラと申します。伯父セザールが、何とぞよしなにと申しておりました」


 爺様は、カレンをじっくりと見定め、微笑んだ。

「ふむ、ハイドラ候がな。御先代とは懇意にしておったが、御当代は彼が若い頃何度か会ったことがある。そう言えば、そなたの父君も、ザムレムのお屋敷で会ったことがある。彼がまだ幼い頃だがな」

 へえ。

 ちなみにザムレムとは、王都のハイドラ家本屋敷のある場所のことだ。


「そうなのですか」

「ああ、儂のことをキツネ、キツネと呼んでおったわ! はっははは」   

 爺様は、ルーデシアの政界に棲み、その手腕と言うか、政治スタイルでキツネというあだ名で呼ばれていたようだ。


「それは、とんだ失礼を」

 カレンが、少し頬を紅く染めながら謝る。

「いやいや。そなたに責はない。それにしても……」

 何だ? 俺の方を見た。

「……我が子孫共は、揃いも揃って飛び抜けた美女を連れ合いと連れてくるわ」


 これは、なかなかの当て擦りだな。まあ、お袋さんは超絶美形だし、グリウス叔父の奥さん二人も、かなり美人だったらしい。俺がこの身体を乗っ取ってになってから会ったことは無いが、エヴァ姉さんと、イオちゃんを見れば大体想像は付く。


「なんの。それでも、お婆様が1番お美しかったと思っておいででしょう」

 玄関ホールは、和やかな笑いで包まれる。


「無論、エウリアは別格じゃ。カレン殿、アレックスを頼むぞ」

「はい。この身に代えましても」

 俺もおっ! っと思ったし、爺さんも少し考えたふうだったが、何度か首肯して、フレイヤの前に行った。そして、お婆様が来られた。


「アレックスさん。元気みたいで、よかったわね。でも、無理をしてはいけませんよ」


──心配掛けてごめんね。お婆様


 俺が、この身体を乗っ取ったことは知らないからな。病み上がりと、心配なのだろう。


「ありがとうございます。肝に銘じます。お婆様もお健やかのようで、私も嬉しいです」


 いやあ。本当に元気そうでよかった。

 前世には両親も祖父母も居たのだろうが、記憶がないし。爺様とは少し壁があるが、ここに居る皆は、本当の身内という感じがする。この家に転生して良かったよな。

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