141話 天空から来たるもの
9月中旬となった週末。
今日は学園も、宰相府も休みだ。ややゆっくりと起きて、食堂へ向かう。
「おはようございます」
既に先生が居た。
「うむ。アレク殿、おはよう」
席に着こうとすると。
「アレクーーー」
背後からぱたぱたと小走りの音がした。ロキシーだ。白いワンピースを身についている
なんだか。少し大きくなったな。人族で言えば、12歳くらいに見える。
暫くかまってやらなかったな。
腕を広げると、抱き付いてきた。
「ああ、ロキシー元気だったか?」
「うん。元気だよ。アレクもご飯食べよう!」
「そうだな」
床に降ろして頭を撫でてやると、一層にこやかに笑った。
最近は、ランゼ先生が、文字の読み書きを教えているようだ。
「ところで、アレク殿、アレは何か知っているか?」
「あれと申しますと?」
「上のヤツだ」
「上?」
特に何も無い。
目を向けなくとも、屋敷の上空100mまでは分かる。
「もっと、ずっと上だ」
感知魔法の探査距離を上に伸ばす。
おっ!
200m強位に何か居る。
「あれは……」
窓に歩み寄ると、開け放つ。
ピーーーーーーーー。
口笛を吹いた。
遙か高みから、急降下して来た。
目にも止まらぬ、いや眼には見えぬモノだ。
見えた!
光学迷彩を解いたのか、飛来した物が可視化した。大きく翼を広げ急制動すると、俺が伸ばした腕にふわりと舞い降りた。
キューーー。
ワイバーンだ。
膜翼を折り畳んで、俺の腕に鉤爪を回して掴み、留まっている。
シャーーーー!!!
すぐ傍らで、少女が毛という毛を逆立て、獣に戻ろうとしていた。口から牙を突き出し、眦を吊り上がらせている。
「ロキシー! こいつは仲間だ! 敵じゃない!」
狼ぽい毛の生えた顔から、少女の面差しに戻ってきた。
「仲間?」
「ああ、仲間だ。仲良くしてやってくれ」
「名前は?」
「ヒルダだ!」
「ヒルダ! ヒルダ!」
興奮が冷めたのか、ロキシーは嬉しそうに手を差し伸べる。
「ギィーー」
威嚇されて、素早く手を引っ込めてしまった。
「おい、ヒルダ。お前も仲良くしないと、また……」
……ワフッ。
理解したようだ。
「もう大丈夫だ。ロキシー! 頭を撫でてやってくれ」
「うん」
少し、おっかなびっくり、手を伸ばして、頭に触った。すぐ引っ込めたが、動かないのに気を良くして、ゆっくりとビルダの頭を撫でた。
「良い子、良い子!」
……ワフッ。
「うふふふ」
ヒルダも、尻尾をぷらぷら振り出した!
その時。
ダーーン!!
勢い良く扉が開き──
「アレク様ぁぁああーー」
図体がでかいゾフィが駆け込んできた。
「なっ、何か禍々しい気が、空から!! そっ、そっ、それはぁぁ!」
なんだか知らんが、動転している。
「わっ、ワイバーン!!」
目を回しているような表情。
「かっ、かっ、勝ち目は無くとも! 死ぬ気で!」
短い槍を振りかざして、こちらに突っ込んでくる!
「ゾフィぃぃい!! 止まれ!」
「はっ!」
俺の命令には絶対服従!
普段から骨身に染みているのか、混乱した中でもピタッと止まった。
「落ち着け! ゾフィ。このワイバーンに害は無い」
「まっ、真ですか?」
「ああ。まだ子供だしな」
「しっ、失礼致しました」
その場に、土下座するように床に伏せた。
「ゾフィ、おっちょこちょい」
人のことを言えた義理か、ロキシー。獣相化しかけた癖に。
「さて」
先生がいつの間にか、こちらに回り込んで居た。
「少し落ち着いたか? で、このワイバーンは、どうした」
そう言えば、話してなかった。
「ああ、忘れてました……」
いや、真面目に、すっかりと記憶から消えていた。
「この前、学園自治会長の故郷に行った話をしましたが」
「ああ、エルフのな」
「はい。そのとき、大母神とか言う祖先神の試練を受けたのですが、最後に出てきたのがこいつで」
……ワフッ。
ペロ!
おわっ、首筋を舐めやがった。
「うらやましい……」
なんだ。こいつが好きなのか、ゾフィ。あとで弄らせてやろう。
──違うって! 鈍すぎ!
何がだ! お前。少し引っ込んでろ。
「やっつけた? その割には生きて居るではないか?」
「やっつけたというか、少々閉じ込めたところ自滅して、少し威圧を掛けただけです」
「少々……な。まだ子供のようだが、ワイバーンはワイバーンだ。返り討ちになるとは思わなかったのか?」
「うーん。亜竜種には、なんだか負ける気がしないんですよね……」
──ヒルダと遭った時もなんてことなかったもんね
まあな。
「ふん。最強宣言か」
「いやあ。単なる相性でしょう」
「それで? 随分と慕われているようだが、ここに呼んだのか」
はっ?
「いやいや。洞窟抜けたら、勝手にどこかに消えたので……なんでここに来たのか」
──えっ? わかってないなあ。
「まあいいが。ここで飼うつもりか」
はっ?
「そんなわけないでしょう。飼いませんよ!」
……ワフッ?
「冷たいな」
「いやいやいや! ワイバーンなんか飼える訳ないでしょう! 誰かに見られたら、さっきのゾフィの再演ですよ」
一般人ならパニックになって暴動に発展するかもな。何と言っても魔獣階位7だし。
……クゥフッ。
ん? なんだか鳴き声が変わったようだな。
──お腹がすいたんだって。
[わかるのか? アレックス]
──多分ね
多分かよ。
「ふーむ。そやつ、腹を空かせておるようだな」
「ああ、はい。そのようです」
「竜属は、生きてる動物しか食べないがな」
「お腹ペコペコ!」
ロキシーがお腹を摩っている。
「ああそうだ、ロキシー。お前の狩り場でこいつに狩りをさせてやっても良いか?」
「ヒルダ?」
「ああ、そうだ」
「いいよ!」
「そうかそうか、悪いな」
先生も肯いた。
「あっ、あたしも行く!」
「ああぁ。ロキシーは、ここでユリのご飯を食べておけ。それからなら来て良いぞ」
「はぁーい」
俺はヒルダを連れて食堂を出た。
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