136話 疾走攻略
目が慣れてきた。
試練の洞穴は、場所によって広くなったり、狭くなったりはするが、今のところ分岐がない一本道だ。厳しい臭気も、鼻が麻痺して徐々にではあるが、気にならなくなってきている。
──来た!
分かっている。
俺は、魔収納から取り出したレイピアを数閃して、襲ってきたコウモリ系魔獣を3体打ち落とした。息絶えると、光のモザイクとなって散っていく。
吸血するヤツのようだが、まあ倍の数で襲ってきても大丈夫だ。そもそも、まともな魔獣では無く、作り物だが。
──魔法使えないって言うから、どうなるかと思ったけどね。
これぐらいの雑魚なら問題ない。
──剣で戦う魔法使いって、何だかなあ……
前にも言っていたが、役に立ったろう。
──でも、この細さじゃねえ
まあ確かに重量級の魔獣とかには……
ブモゥーーーッッッ!
ブモゥ?
やや明るい前方を見遣ると、大きな黒い塊が突進してきてる。
チッ! ミノタウロスかよ。
嫌だなと思ってたヤツが来たな
──まだ槍の方が良いんじゃない?
そうだな。槍を出庫……待て待て。あれを試す機会だ!
─ 遷光剛 ─
ぼうと煙る光の微粒子が、剣に纏わり付く。
モモオオォォオォ!!!
白い息をたなびかせて猛進してきた、牛野郎の大戦斧の袈裟斬りを紙一重で躱し、レイピアを一閃!
血の代わりに、光を撒き散らして首が飛ぶ。数拍遅れて小片と化して崩れた。
素晴らしい切れ味だ。
無論刀身では無く、まとわりついている粒子だ。非常に不安定な物らしく、何かに触ると光に変わり、その時に慣性が伝達されて局所的に加速、引き裂かれる。これで剣士やろうかな。
腕輪をみると、青紫ぽくはなっているが、紅くは無い。
──攻撃魔法は使っちゃいけないじゃないの?
[使ってないさ。鋭利さを増強する魔法だ」
──うわっ。すっごい詭弁!
詭弁でも何でも、この腕輪が紅く光らなければ良いのだ。
あの腕力がなさそうなエリーカ姫が、達成できる試練だ。魔法を戦闘に使うこと自体が駄目とではないことが自明だ。
ただ、やり方がある。おそらくまともな攻撃魔法、火属性魔法を直接ぶつけるとかは駄目だ。それ以外の防御、回復、補助魔法は、同じ魔力を使っても悪い評価ではなかったと言うことだろう。
魔石は……10秒程前より僅かに青味が増している。
累積はされないと言うことだな。
ならば!
「ああぁ。大変だった。さっきみたいな牛魔獣が沢山来たら大変だあ(棒)」
──はあ? 何言ってるの? アレク!
来た!
多少感知魔法に魔力を込めると、前方から3体が突っ込んできた。
やっぱりな……。
俺も走る。
指呼の距離──
狭い洞内、一息に3角に並んだミノタウロスの間合いへ!
斜めに跳んで壁を蹴る……彼らの頭上だ!
重い戦斧を頭上に持ち上げるには、彼らの膂力を持ってしても、数瞬の遅延が必須。が、俺には十分な刻、先頭の肩口を切り裂き、右後列の喉笛を絶つ。
1体が光粒子に換わり、1体が膝を付く。
振り返った左後列を逆袈裟に切り上げて弾けさせ、返す刀で最後の首を飛ばした。
この間2秒。
続けざまに光粒子が飛び散りまくった。
くくくっ。楽しい!
魔獣といえども、生命を絶つには呵責があるが、こいつらは完全にバーチャルだ。何の躊躇もない。
そして、やっぱりこれは、まんじゅうこわいシステムだ!
──まんじゅうって何? 魔獣?
[食べ物だ!]
──はっ? 食べ物?
まんじゅうはどうでも良いが、要するに恐いと思っている物が出てくるヤツだ。
──さっぱり分からない……でも良いの?
[はぁ? 何がだ、アレックス]
──お楽しみのところ、水指すようで悪いけどさ
[だから、何がだ?」
──いや、少しは待っている人のことも考えたらどうかなと
[まあ、試練なんだから仕方ないだろう?! 大体弁当持ってきてるんだから、時間掛かるのはわかってだろうし」
──でも、レダは待ってるよ。あの神官がいた部屋で!
馬鹿な。
あんな殺風景で肌寒い地下室で待っている訳ないだろ。流石に姫殿下も気を使うだろうし
──ああぁぁ。アレクは、女心が分かってないね。あの子は健気だから、絶対待ってるね!
…………さあて、全速力で行くぞ。ウルァァアア!!!
──現金なヤツ
なんだ!
中型の魔鳥獣だ。ぱっと見10羽は居る。
大梟だ! 猛禽だけあって、飛行が速い!
ん?
先攻した数羽が壁すれすれに飛び、俺をやりすごした。感知魔法が背後での回り込みを知らせる。
挟み撃ちのつもりか!?
鬱陶しい!
ギィィィーーーーー、耳障りな鳴き声を上げて、殺到してきた。
もう一本レイピアを出庫──刻め!
後続の梟の前に舞い上がり、躰を捩る。
腕をY字に広げ、前も後も光の刃を幾度も凶悪に旋回させた。
──うわっ、鏖殺!
1羽残らず、切り刻み叩き墜とす。
が、休ませる気が無いのだろう、背後で光が飛び散る中、既に前から魔獣が来た。
狼男3頭が突っ込んで来る。
「どいつもこいつも芸のねぇー」
強化を掛け、右から来たヤツを天井まで蹴り上げ。喉笛に噛み付く迫る1体を上体をスウェーて避け、顎に光刃を食い込ませる。左腕を振り切って撫で斬りした。
着地して顔を上げる。
残り1頭は、ビビったのか背中を見せて逃げ出した。
──容赦ないね
急げと言ったのは誰だ!
脚を止めず、再び走り始める。
それから出てくる魔獣という魔獣を、瞬殺して進むこと30分。
洞穴の壁が様相を変えた。
入り組んだ木の幹や枝が、壁面を作っている。
どうやら着いたようだな。
奥から濃密な気配をあるしな。さらに進むと壁が現れた。
行き止まり?
しかし、気配は壁の向こうだ。
訝しんでいると、どん詰まった壁の中央に筋が入り、光が漏れてくる。やがて大きく開いた。
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訂正履歴
2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




