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128話 王宮からの緊急呼び出し

「では、次はレダさん。読んで下さい」


 俺の横で、レダが立ち上がり。開いた本の朗読を始めた。


 学園の文学の授業だ。下の方にある教壇で、うんうんと教師も頷いて居る。


 良い声だ。すうっと眠たく……いかんいかん。お袋さんに文化系科目も頑張りますと誓わされたからな。


「サリエリは、悠然と剣を抜き放ち……」


 その時。下段の出入り口がノックされる。扉が開いて、女性事務員が入ってきた。


「授業中、失礼致します。火急の用がございまして。こちらのサーペント様に」

 教室中がざわめく。


「ああ、サーペント殿は、あの上段に」

 教師の解答に合わせて、レダが手で俺を指す。

 教室の中央の階段状の通路を事務員が登ってきて、封書を差し出した。


 レダが一旦受け取り、透視したのだろう、頷いて俺に渡した。

 裏返して見ると、封蝋の紋章は、ストラーダ候のものだ。

 ふと視線を上げると、クラスの皆が俺の方を見ていた。


「ああ済まない。授業を続けて下さい」

「そうですか……ではレダさん続きを」


 はいと答えて、レダが読み始めた。


 ペーパーナイフを取り出して封を切り、便せんを取り出す。

 ぱっと見、文章が短いな。


 アレックス・サーペント子爵様

 本日は平日ゆえ、パレス学園にて授業を受けていること存ずるが、先週の国防評議会での発言について、伺いたい儀あり。

 大変恐縮ではあるが、馬車を差し向けるので、本書状を受け取り次第、小職を尋ねて、王宮へ参内戴きたい。

 王国宰相 ランベスク・ストラーダ


 げっ。これは召喚状だ。


「……サリエリは、滂沱と涙を流しながら跪いた」

「はい。レダさん。そこまでで、結構です。次は……」


 仕方ない。

「済みません。先生」

「あっ、はい。サーペント殿。何でしょう」


「先程の書状は、王宮からの呼び出しでした」


 王宮!!!

 教室中が響めく。


 王宮でこれなら、宰相様からと言ったらどういう騒ぎになるのかと思ったが、やめておく。


「はい。皆さん静粛に! 静粛に! 彼のお仕事から言えば、そういうことも有ります。それで?」


「申し訳ありませんが、これより向かいますので。早退します」

 横のレダが見上げてきたので、頷く。


「分かりました。気を付けて行ってらっしゃいませ。担任のゼノビア教官には私の方から連絡します」

「ありがとうございます」


 こっちを向いた、エマに目配せする。

「ああ、妹さんには、私から……」

「頼むぞ。では失礼します」


 席横の専用扉から外に出て、玄関に向かう。そこには、王宮から迎えの馬車が横付けされていた。以前勲章貰ってメティス王女に会いに行くため、王宮内を移動するときに使った馬車と同じ意匠だ。所々に王家の金獅子紋章が象眼で取り付けられている。


 近付くと、黒服の男が進み出てきた。


「アレックス卿でございますな」

「そうだ。貴公は?」

「侯爵ストラーダの従者ヴェルフェスにございます。書簡にありました通り、子爵様を王宮宰相府までお連れせよと命じられております」

 頷く。

「役目大義。早速参ろう」


 15分で正門へ辿り着き、ほぼフリーパスで外苑に着いた。白い大理石で彩られた建物宰相府に横付けされる高級官僚が使用するであろう、長い玄関で降り、ヴェルフェスに先導されて御殿に入った。


 霞むほど長い廊下を数十m進み、左に折れた。

 ここは前に通ったな。尖った変形アーチの天井の通路を進むと、槍を持った2人の兵が護る扉があった。宰相執務室だ。


「閣下は?」

「御在室です」

 ヴェルフェスの問に答えた、兵によって扉が開けられる。


 中に入るとストラーダが机の前で立ち上がった。


「お連れしました」

「おお。アレックス卿。突然呼び立てして済まない」


 レダと共に跪礼する。

「いえ。再びお目に掛かり、嬉しく存じます」

「うむ。そちらへ掛けられよ」

 ソファを進められ、着席する。


「さて。本日の用向きだが……もう1人客が来るので少し待ってくれるかな」

「はぁ、はい」

 にこやかな表情だ。


「そうそう。前に希少なナップ酒を我が家へ届けてくれた礼を言っていなかった。ありがとう」

「ああ、いえ。恐縮です。お口に合いましたでしょうか?」

「うむ。なかなか口当たりが良くてな。儂より家内が大層気に入ったようだ」

「それは何よりでございます」


 少し変だが、右手を左胸に当て光栄と手振りで示す。


「うむ。それから宮中大膳課で話題になっておったな。ここだけの話だが、何でも陛下の寵姫のお一人がすっかり梅酒の虜になったようだ。大貴族共も、争って手に入れようとしているようだしな」


「はあ。カーチスからも大層ご愛顧戴いている旨聞き及んでおります。試験的に造りました去年より、今年は多く仕込んでいるとのことなので、品薄も解消されるかと」


「それにしても……子爵は多才だな。魔法に、酒に、今度は鉄か……」

「はあ」


 その時、扉がノックされて開いた。

 入ってきたのは──


「ダイモス!」


 サーペント家の家宰のダイモスだ。

 一瞬こちらを見た彼は、ストラーダ候に向き直って跪礼する。

 少し驚いたが。考えてみれば、理由は分かる気がする。


「宰相閣下には、ご壮健の由、恐悦に存じます」

「うむ。アレックス卿の横に座られるが良い」


 ダイモスに驚いた様子は無いので、俺がここに呼ばれているのは、予め知らされていたのだろう。


「さて、アレックス卿には待たせたが、話を始めよう」

 頷く。


「報告に拠れば、カッシウス製鉄をセルレアン領内のラトバタなる場所に誘致し、大規模な製鉄所を造る計画を申請しているとのことだったな」


「その通りにございます」

「そこで造られる設備では、これまでに比べてかなり廉価な鋼ができると、先週の評議会でも説明し、工業院……ふふん。リプケンの技術者が認めたそうだが」


「リプケン?」

 ダイモスが呟く。


「何だ。家宰殿には言っていないのか」

「もちろん。非公開の内容ですから」

 閣下は笑いつつ何度か頷いた。


「こちらは、清々しいが。あちらはなあ。転換炉による製鋼の製法に特許を無効にするよう働きかけを始めているようだ」


 ふーむ。脅しが利きすぎたか……………。

 評議会の光景が甦る


『しっ、しかし。その設備には、多大な投資が必要になりますが。カッシウス社にて賄えますでしょうか?』

 パスカリスが、やや甲高い声で訴える


『参考人へは、心配掛けて申し訳ない。無論、国へも借款を求める予定だが、投資が既に1/3ほど集まっているのでな。何とかなるようだ』


『そっ、それは、サーペント家が……』

『ウッフォン。あー。参考人へ訊きたいことは済んだ。ご苦労だった。退出してよし!』

 ヴァドー議長が遮った。


 パスカリスは、何かを言い掛けたが止め、項垂れたまま議場を辞して行った…………。


「そうですか……」

 閣下を見つめる。

 すると。片口角を上げた。


「心配するな。私の眼の黒い内は、そんな醜い行為は許さん。それで? 国にはいくら借款を求める?」


「軍事費でなくて、よろしいのですか?」

「はっはは。確かに儂は軍事に疎いが、軍費で支出すれば、鋼で何を造りたいか、自ら喧伝するような物ではないか?」


 確かに、閣下の考えも一理ある。


「閣下。私は、鋼の軍船を造り、戦争に勝ちたいわけではありません」

「ほう……」


 宰相閣下の目が鋭くなった。


「相手が攻めてくれば、致し方有りません。護るために闘わざるを得ないでしょう。が、本来、強い兵器は相手の心を挫く物でなけばなりません。敵がルーデシアに鋼船が有ると知れば、迂闊に攻めることはないでしょう」


 鋭かった眼が細まる。


「ふふふふ。戦争嫌いの魔女殿の弟子が、軍備に積極的な理由を計りかねていたが」

「ああ、人間が死ぬ戦争は大嫌いですよ!」

「私もだ。だが、軍費の相談もせねばならぬ。なんと矛盾に満ちた世界だろうか」

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訂正履歴

2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)

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