107話 家族会議
昼食を食べながら、この後は煉瓦工場へと思っていたら、本館からお呼びが掛かった。
「アレックス参りました」
本館の対面の間に入ると、親父さんとお袋さん、さらにフレイヤまで居た。
壁際に6脚の大きいソファと、サイドテーブルがある、狭い割りに結構格調高い部屋だ。
「ああ、アレックス。良く来た。まあここに座れ」
親父さんが指差すソファに腰掛ける。
何と言うか。どう見ても家族会議だよね。俺を吊し上げる系の。
「えーと。私に何かご用でしょうか」
「ああ、もちろんだ。お前の縁談の件だが……」
まあ、それ以外にないよな。
「……何か、進展はあったか?」
「いえ。特段」
何故か、フレイヤが華のように笑った。相変わらず、綺麗で可愛いな。
「そのなんだ。いろいろな方面からせっつかれているから言うわけでは無いが」
「はあ。ご迷惑をお掛けしています」
「む、むう……仮婚約者を決めておかないか?」
「ああ、それなんですが。一度仮婚約を破棄していてなんなのですが。婚約と仮婚約の違いが、もう一つ飲み込めていないというか」
男前な親父さんが、眉間に皺を寄せる。
ああ、こりゃ叱られるな。
「そうか。まあ簡単に言うとだ……」
本当に偉い人だな、親父さん。
「……大きくは変わらないがな。貴族の場合、婚約は政府に届ける必要があるが、仮婚約はない。両家の同意、いや本人同士の同意があれば成立する。破棄も同じだ」
「はあ、それは初耳です」
「基本的に、仮婚約だと不首尾となってもあまり双方に傷は付かないが、婚約はそうはいかん。貴族の場合は、一般にその事実が公表されるからな」
「なるほど」
「そういったわけでだ。仮婚約しておけば、それを理由に有象無象……言い過ぎた。その他をいなすことができると言うわけだ。決めておくことを勧めるが」
眦を上げてフレイヤが立ち上がった。何事だ?
「でも、焦って決める必要はありません! お兄様」
はっ?
そこで、おふくろさんは、優雅にかちっとカップをソーサーに置いた。
「フレイヤは黙っていなさい! 黙っていられないのであれば、この部屋から出て行きなさい」
この人、美しさの上に迫力があるよな。
「……はい……お母様」
──怖いよね、母上。
[そうかぁ?]
「そういうことなら、相手は決まっています」
「ほう」
「……えっ?」
フレイヤは眼を見開いた、視線が泳いでいる。
「カレン・ハイドラ嬢です」
「じょ、冗談ですよね」
「そんな訳ないだろ」
彼女の表情が崩れていく。
「……お兄様……聞きたくない、私は聞きたくありません!」
フレイヤは逆上したように、席を蹴り部屋を飛び出していった。
えーと……。
「あれは、どうしたんだ?」
親父さんも、呆気に取られている。女はわからないよな!
「いいんです。放っておきましょう」
なぜだか、お袋さんはにっこりと微笑んだ。
「あっ、ああ。アレックス。なぜ、そのハイドラ嬢を選んだ? 理由を聞かせてくれ」
「彼女のことは、学園の活動でそれなりに知っていますし。第一、前回の仮婚約破棄以降、初めて婚約を申し入れてきた人物だからです。…………ああ、大事なことを言い忘れました。彼女のことは憎からず思っています」
「憎からず…な……」
「あなた……」
「うむ。私はお前の決定を尊重する」
「私もよ。アレックス」
親父……。
「さて、そうとなれば、相手の同意を取り付けねばな。まあ本人も、その本家筋も希望しているからには問題は起こらないだろうが」
ですよね!
「でも、手続きは大事よ! 特に女の子相手にはね」
お袋さん……。
◇
俺は、飛行魔法を使い、1人で煉瓦工場へやって来た。
「トーマス!」
向こう向きにしゃがんでいる男に声を掛ける。びくっと反応して振り返った。
「子爵様……なんで。ここへ」
立ち上がって、小走りに寄ってくる。
「ようこそ……」
「ああ、挨拶は良い」
「ですが……」
一般庶民は、貴族に礼尽くさないといけないんだろうなあ。他の貴族がどう庶民と接しているか……いや、取り巻きしか接していないのが大多数なのだろうが。
「事務所で聞いたら、こちらと聞いてな」
「誰もご案内しないとは、とんだ失礼を……」
「ああ、いやいや。知らせに行くという従業員を必要ないと言って、俺が止めたんだ」
「はあ……」
「それでだ、今日は昨日言っていた魔動モータができたので、持ってきた」
トーマスは、何度も瞬きした。
「あっ、えっ。できたんですか? 昨日仰ったばかりなのに……」
「じゃあ、取り付けよう」
人力を魔動モータに替えるのは、トルクが足りないのと、今でも結構疲れると言う課題があるからだ。まずは、人力プレス機の人間が回すべき、巨大なハンドルを外す。100kg以上有るが、強化しているので問題ない。
このハンドル大きくしてトルクは稼ぐのは、既に直径120cm位有って却って回しづらくなる。昨日、この課題が分かった段階で、減速ギヤ入れてとも考えたが、折角だから機械化しようとなって、魔動モータを作ったわけだ。
次は、感知魔法で、軸の高さを認知して、魔動モータの軸高さを引いて寸法を計算する。よし!この高さプラスアルファで。土魔法を!
─ 版築 ─
「おわっ! 地面が……子爵様」
いちいち驚くなよ。ちょっと持ち上がっただけだろ。結構堅いはずだが流石に、モータを据え付けるには、剛性が足らないな。
─† 牢固 †─
硬化魔法を発動!
軽く促成台座を拳で叩くと、工具鋼並(HV200)の堅さになっている。
「少しよろしいですか?」
ん?
俺が頷くと、トーマスは拳を振り降ろした。
ガシっと痛い音がした。
「むう、良い硬さです」
いやいや。ドワーフは頑丈って言っても拳を痛めるぞ!
あれか? 煉瓦職人だけあって、硬く土を固めた状況は、看過しえなかったのかな。
そして、俺は、魔動モータを台座に据え付け、アンカーボルトを撃ち込んで固定し、継手で、プレス機の軸と繋げた。
「さて、トーマス。このモータの使い方を教えるぞ」
「えっ。私に使えるんですか?」
「当たり前だ。お前が使えなくて、誰がやるんだ?」
「はあ」
ドワーフの割りに端正な顔立ちに不安が過ぎる。
「先ずは、この魔石のケースだ。窓が緑に光っているのが分かるな。この緑が黄色に変わって、さらに色がなくなったら、魔石の替え時だ」
「はい」
「そして、このケースをカチッと音がするまで軸の方へずらす。これで準備完了だ。後は、声で命令する」
「声で?」
「ああ。時計回りに、3回転!」
果たして滑らかに3度回った。まあプレス機に何も入っていないからな。
そこでトーマスが、こう言った。
「反時計回りに3回転!」
しかし、何も起きない。
「声で操作できるのでは?」
「はっははは。今みたいに、関係ない人間が勝手に口出ししてきたら困るだろう」
「ああ、なるほど」
ケースを停止側に戻す。
このケースを開けるとだ。魔石が7つ見えるだろう。白い水晶が制御用、大きいのが、動力だ。そしてこの小さい透明な小さい魔石が使用者登録用だ。トーマス! この魔石を触りながら、自分の名前でも何でも良いから、赤くなるまで喋り続けろ」
「はあ」
彼は、小さい魔石を触りながら、トーマス、トーマス……と続ける。
大柄なドワーフのトーマスがやっていると、結構滑稽だな。すると……。
「子爵様。赤くなりました」
「じゃあ、ケースの蓋を閉じて、使用側にずらせ……そう。それで命令して見ろ」
「はい! 反時計回りに3回転! …… おお、回りました!」
「そういうことだ、小さい魔石の数、5人まで、使用者を増やせる。このケースを開ける鍵を渡して置くから、管理するんだ。あとは実際に材料を入れてやってみてくれ」
「分かりました。何から何まで、ありがとうございます」
その後、材料を入れ、所望の圧力を印加できることができるの確認できた。
「では、納品は2週間後を目処に。それまで試作品の状況については逐次お知らせ致します」
「ああ、頼んだぞ。後金は……」
「はい。マルズ様から納品時にと伺っております」
「ああ。ではな」
俺は帰路に就いた。
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