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100話 製鉄の課題

本小説も100話を迎えました。ご愛顧感謝です!

 翌日王国政府から、国防評議会議員就任依頼状なる物が届き、承諾すると書いて、署名の上、返信した。

 それとは関係なく、問題が発生した。上屋敷の周りに、人垣ができたからだ。


 迂闊に外に出られない状況だ。

 朝食を珍しく早起きした先生と、一緒に摂ることになった。


「何だ、屋敷の周りの人だかりは? 鬱陶しいな」

 開口一番。言うことがそれですか、先生。


 皿を運んできた、アンが答える。

「あれは、アレク様が、ここにいらっしゃると知って、一目見ようと集まった人たちですね」

「はっ?」

 先生が珍しく間抜けな返事をした。


「ああ、アレク様が王都に滞在されていることを知られましたので、昨日の参内で」

「それで、集まってきたのか? 愚かだな。何時アレク殿が外に出るのかなど、分かっていないのだろうに」


「アレク様は巷で凄い人気になっていますから。少しでも望みがあればと言うことでしょう」


「俺が人気?」

「ご当人がご存じでないんですか?」

「知らん。なぜ一般人まで」

 まあ王宮では、そこそこ関心が持たれていたとは思ったが。


「新聞ですよ、アレク様。流石は王都、セルビエンテと違って新聞があります。アレク様のことは、号外に書かれていますから。私ちょっと持ってきます」

 アンは音も無く小走りで走って、食堂を出て行った。


 ふむ。新聞がこの世界にもあるとは訊いていたが。


 先生は、最初に出てきたスープを、スプーンで掬いながら、こちらを見てはにやけている。1分も掛からず、アンが持ってきた。

 手には、前世の新聞よりも相当質の悪い紙を持ってきた。

 これがこの世界の新聞か。B3サイズくらいの紙が1枚切りだ。

 受け取って、読む。


 見出しは、ディグラントから大挙押し寄せた多数の軍船を撃破!

 そして闘ったのは、1人の大魔法師アレックス・サーペント子爵様と活字が踊っている。


「ルーデシアの危機を救った新たな英雄が、空を飛ぶ大魔法使いで、聖サーペントの直系子孫、さらに世にも稀なる美男子ハンサムと来ていると書かれていますから。人気が出るのは当たり前です!」


「美男子?」

「裏を見て下さい。アレク様の似顔絵がありますよ」

 あわてて、裏返すとあった。

「なんだこりゃ」


 なんと言うか女を描いた絵だ。なよっとした科がある。いやいやいや。


「全然似てないじゃないか!」

 うーん、何て言うか、下手な少女漫画に出てくるキャラっぽい。モナリザの微笑みのようなポーズも虫酸が走る


「そうですか? 確かにもっといい男ですが。結構特徴を捉えていると思いますが」


 くっそう。先生が、声を上げずに大笑いしている。


「わかった。それは焼却処分してくれ!」

「駄目です。これは私の物ですから。大体これ一枚焼いても、世の中に多く出回っていますので無駄です。チーフ持ってらっしゃいますし」

「ユリも?」


 俺が卵料理を運んできた、ユリの方を向くと、彼女はぎくっと反応した。

「さっ、さあ。皆様お食事時に不作法は、おやめ下さい」

 誤魔化したな


     ◇


 屋敷の周りの人垣を避けて、迷彩魔法と飛行魔法を使って上屋敷から少し離れたところに降りた。

 朝から大分減ったようだが、まだ100人以上は居たな。まあこの分だと、新たに燃料を与えない限り、長続きはしないだろう。


「待たせたな」

 レダは軽く頷いた。

「アレク様。辻馬車を拾ってあります」


 走ること30分。王都の古城壁を抜け、拡大した新城壁との間を進んでいる。

 車窓から見える風景が、石造り、煉瓦造りの町並みから、地面や農耕地が混ざるようにになり、今ではすっかり田園風景だ。

 いつの間にか、右にはローヌ川の河岸が迫っている。


 さらに15分ぐらい走って、馬車は止まった。とある敷地に入っている。

 ここか。

 カッシウス製鉄研究所と看板が掲げられている建物の玄関前に、数人の男が立っていた。煉瓦作りの真新しい建物だが、俺の目には古めかしく見える。


「子爵様、こちらの所長兼社長のカッシウスです。我が研究所にようこそ。どうぞお入り下さい」

 180cm程のがっちりした体型だ。ガイゼル髭が気難しいそうな感じだ。貴族を迎えておいて、つなぎの作業服姿とはな。しかも所々油で汚れている。

 それを見たレダが、眉を顰めたが、手を振って宥めていく。


 研究所の事務棟に入り、応接室に通された。ソファセットに向かい合って腰掛けた。

「昨日頂いたお手紙では、精鋼工程の技術にご興味があるとのことでしたが」


「カッシウス殿。その通りだ。こちらの研究所に入れて戴き感謝する」

「はあ。貴族の方に礼を言われるとは、痛み入ります。では高炉とその後の精鋼工程について説明致しましょう」


「いやそれには及ばん」

「では?」


「まあ私の話を聞いて欲しい。我が国は、農業、商業に長けており、なかなかの国とは思っているが、大内海に面し海岸線は長い」

「私は鉄屋なのですが……まあ良いでしょう。つまり、軍事面で大きな弱点を抱えていると? しかし、我が国には、あなた、アレックス卿がいらっしゃる」


「先日の件を言っているので有れば、ただ運が良かっただけのことだ」

「ほう」


「国防を運に頼っては駄目だろう。したがって、我が国は海軍力を強化しなければない。そのためには鋼が必要だ」


「海軍……大砲を作る鋳鋼をお望みですか? ならば、我が社ではなく、リプケン社をこそご訪問されるべきでしたな」

 どうやらというか、確実に俺が来たのは迷惑そうだ。


「いや、欲しいのは砲金ガンメタルでもなければ、鋳鉄でもない。もっと炭素包含量の少ない鋼でないと。しかもコストは今の3割程度で。彼の社は無理だろう。精鋼に使うゴーレムを大量に入れるため、資本を大きく投下したばかりだ」


「ふふふふ。なかなか、お若いのに事情通のようですな。では我が社のことも?」

「ああ、多少調査させて貰った。貴殿が開発中の転換炉のことを教えて欲しい」


「ははは。確かに、コストを7割カットするためには、この転換炉が必要でしょう。噂通りお美しい外見には似合わぬ、内面をお持ちのようだ。大体、貴族の方に、この薄汚れた姿で相対すれば、先ず間違いなく、無礼者! と、叱責から入るのですがな」


「そうか? 社長自ら油に塗れる技術職というのは、存外悪くない。まあ、食事の時は勘弁して貰いたいが」

「よろしいでしょう」


 事務棟を出て百mほど歩き、河岸の近くの煉瓦造りの建屋に入る。


 高さ20m程の空間に、大きな装置が2つ見える。向かって左に巨大な筒状の塔のような構造物、そして右にやや小ぶりではあるがジョッキのような器がある。


 俺が、右に歩きだすと。カッシウスが笑い出した。

「何もご説明していないのに、迷い無く堂々と右に行かれるとは」

「左は高炉、右が転換炉だろう」

「その通りです。子爵様。ははは」


 転換炉の前にやって来た。綱が張ってあり、試験機休止中と書いてある。


 炉の周りに、大小何体かのゴーレムが立っている。口のややすぼまった、るつぼ状の本体の中央には、水平に回転軸があり、軸受を通して三角の鋳鉄基部が支えている。軸の右端には大きいハンドルが点いており、あれをゴーレムが回して、炉を傾けるようだ。


 全体的に見ると。何と言うか、前世で最も有名なスペースオペラ映画に出てくるロボット、背の低い方とフォルムがそっくりだ。いや、前世のベッセマー転炉にそっくりというべきだろう。機能美というもののは時空を超えるようだ。


「転換炉は高炉の後工程です。高炉は、鉄鉱石と木炭もしくは10年程前に発明されたコークスを層状に投入しまして、下から熱風を吹き込むことで、酸化鉄を還元して、銑鉄を作ります」


「だが、炭素が多くて脆い銑鉄しかできない」

「そうです。ですから、普通は銑鉄を再び焼いて溶かし、脱炭します。後は整形や精製のためにハンマーで叩く必要があります」


 そのハンマー作業をゴーレムにやらせることで、生産を合理化するのが、主流な技術となっている。


「転換炉は、まだ開発中でして、高炉から出た銑鉄に空気を吹き込むことで、炭素を燃焼させ包含率を下げることを狙っています。空気を吹き込むだけで、銑鉄が勝手に燃焼しますので、燃料や叩くと言うような作業が必要無くなるはずなのですが。しかし、まだうまく行っていません」


「やはり空気なのか……王立科学院アカデミーの論文にも書かれていたが」

 でも論文が出されたのは、3年前だ。余り変わっていない。


「私の論文をお読みですか、光栄です。ああ、空気です。炉の上の方に、ランスのようになった棒が見えると思いますが、あれは管になっていてあのゴーレムが、ふいごで空気を吹き込みます。それが、何か?」


「うん。それは置いて、うまく行っていないというのは。具体的にはどういう感じだ」

「はあ、不純物が多いのです。ルーデシアで採れる鉄鉱石は、燐が結構混ざっていて、それが取り切れません。あと窒素も」


 やっぱりそれか。


「それなら、何とかなるかも知れん。聞きたいか」

「無論です。もしこの転換炉がうまく行けば、鉄鋼の生産量は10倍以上に上げることができます」


「こちらにも条件がある。我が伯爵領のミュケーネ川沿いに製鉄所を作って欲しいのだ」

「サーペント伯爵領では、南方で石炭が採れると聞いていますが。あそこでは水力が」

「確かに、ミュケーネ川の水流はゆっくりだからな。だか、それも解決可能だ」

「本当ですか?」

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