48話 最終決戦
「団長負けちゃったね」
「アグスルトは拠点を壊しにいくみたいやなぁ。どうしよか。サクラたん」
「拠点で迎撃する」
「ほな、拠点にいこか。アートマ足止めよろしく」
「これまた厳しいことを言ってくれる」
「団長がダメージ入れてるんやから、気張りや」
「じゃっ、よろしく」
「おいで、可愛い可愛いストールちゃん」
湖都は何もない空間に魔法で扉を作る。
そこからバイコーンが現れる。二人はバイコーンに跨りアートマを残して拠点へと向かった。
二人が拠点に着くと戦闘職は少なく、残ったメンバーも既に満身創痍だった。
職人達は採掘をある程度の目処で済ませいつでも下山できるように準備をしていた。
「これは無理やな」
湖都はそのアグスルトのダメージと拠点の戦力を計算してそう判断した。
「オウカ、上はどうなったんだ?」
クロツキが二人の姿を確認して駆け寄る。
「ダメだった」
オウカは首を横に振る。
「上は全滅、ドラゴンはここに向かっとるわ。でも戦えそうにないな。すぐに職人はんらを下へ逃し。時間はウチらが稼いだるから」
「俺たちもやれるだけはやろう」
「私も残る」
「俺も残るよ」
満身創痍だったもの達が虎徹を中心に立ち上がる。
「きたぞーーー」
一人の男が叫ぶ。
「はやっ!? アートラ全然気張ってへんやんけ」
「遠距離攻撃開始!!」
サフランの合図で遠距離攻撃を持つものは一斉に攻撃を開始する。
しかし、アグスルトの歩みは止まらない。
ダメージすらないように見える。
「いくぞ!!」
虎徹の掛け声で前衛職が近づくが火炎のブレスが襲いかかる。
ベルドールにスキルを使う余力はなく、虎徹の盾となって消えていく。
ほとんどの前衛職が一瞬で焼き殺される。
火炎のブレスはそのままサフラン達後衛も焼き殺した。
虎徹は刀に手をかける。
「居合・一閃」
抜かれた刀がアグスルトの鱗に傷をつける。
しかし、本当に少しだけのかすり傷が精一杯。
「くっ、ならば三段突き!!」
高速での刺突を3発放つも刀の切っ先が欠けて与えれたのは僅かな傷が三つのみ。
虎徹はアグスルトが腕を振った勢いで刀は完全に折れて吹き飛ばされていく。
まともに戦えそうなのはもう3人しかいない。
クロツキが前に出るのを湖都は止めた。
「あんさんは隙を窺っておればいいんどす。ウチとサクラたんの二人でやりますさかい」
「団長のお陰であいつは空飛べない。一気に全力で行く。でもそんなに持たないかも……」
アグスルトの片翼が噛みちぎられたように大きな傷を残していた。
あれでは満足に飛べないだろう。
「炎鎧巨人顕現」
巨大な炎の巨人が竜の前に現れる。
「ビーストタイプフルチャージ、全ステータス上昇。属性強化・闇」
バイコーンが強化されていく。テイムモンスターには細かな設定があってそれに合わせたバフスキルを使用するのがテイマーの戦闘スタイル。
竜は火炎のブレスを吐くが炎巨人には通じない。
以前よりも巨人の動きが安定しているし、すぐに巨人が消えるという焦りもない。
さすがは四次職といったところだ。
「炎巨人の鉄槌!!」
両手を組んで振り下ろしの一撃。
アグスルトはその巨体を素早く動かして回避する。
鉄槌の落とされた地面は大きく陥没している。
当たればダメージを与えられること間違いなしだ。
「闇夜からの突き上げ」
バイコーンの二本の角に闇の魔力が集まり拡張していき、その角でドラゴンの腹部を突き上げた。
少し浮いた巨体を再び鉄槌が襲い、頭部へと見事にクリーンヒットする。
「ガァァ」
アグスルトは尾を使って巨人とバイコーンをなぎ払う。
巨人は足を砕かれて横たわり、バイコーンも大きダメージを負っている。
絶体絶命に見えるが俺はこの隙を見逃さない。
最高速度からの宵闇の小刀『月蝕』による首への一撃。
俺にとっての最高火力。
竜鱗を斬り裂き首を斬るが、それでも後一歩足りず首を落とすには遠い。
「ヤバっ!?」
アグスルトは地面に向けてブレスを吐いた。
炎が溢れて、地面を覆っていく。
俺は空中を蹴ってその場から回避するもアグスルトは追撃の構えを見せていた。
「ディー、頼む」
俺はディーに闇槍で気をそらしてくれという意図で頼んだ。
だが、ディーが放ったのは大きな黒い球。それをアグスルトの上空に飛ばす。
黒い球は破裂して無数の闇槍がアグスルトを襲う。
数も多いし高いところから落とすことによって威力も上がっているようだ。
おかげで助かったが始めて見た魔法だ。
「あんな魔法あったのか」
「キュイキュイ」
どんなもんだといった返事をするだけで詳しいことは分からないな。
助かりはしたが状況は最悪。体感では後、3倍は速度を出さないと首は落とせそうにない。
バフをかけて貰えばもう少しマシにはなるかもしれないが3倍は流石に無理。それにそんなプレイヤーは残っていない。
速度を出す方法か……
結構惜しいところまではきてるんだよな。
アグスルトからすればそれほどのダメージはないはずなのに先程の攻撃に恐怖を感じているのが分かる。
装備の補正はかかっているとはいえビビリすぎだろ。
最初は分厚い氷の鎧を纏っていたとオウカが言っていたが、もしかしたらあまりダメージを受けたことがないのかもしれない。
相手が恐怖を感じてくれていれば俺は戦略が広がるけど肝心の火力はなぁ……
いや、最悪の方法を思いついてしまったかもしれない。
本当に最悪だ……でもこれしか手はない。




