39話 誕生
二人のホームは庭付きの古民家といったところ。
まぁ、実際に住んだりすることはないので特に関係ないか。
部屋には大きな箱が備え付けられていてアイテムボックスの10倍以上の容量があるらしい。
俺もそのうちホームについては検討することにしようと思う。
さて、本題はこいつですよ、こいつ。
俺はアイテムボックスから卵を取り出す。
「うわぁ、これがドラゴンの卵なんですね」
「すげー、どんな奴が出てくんのかな」
二人が目を輝かせている。
俺はどんなドラゴンが出てくるのか聞いてるので知ってるが、それでも興奮を抑えれない。
庭に出て準備を進める。
まずは火炎蜥蜴のフェザーテールを地面に適当に置いていき、その上にフレイムパピヨンの鱗粉を振りかける。
そして卵をセットする。
手をかざしてほんの少し魔力を流すと鱗粉が発火する。
炎はフェザーテールに移り卵を温める。
このままでは卵焼きができそうだが、これがストルフさんに教えてもらった手順なのだ。
3人で10分ほど凝視していると炎が弱くなってきた。
卵にヒビが入る。
徐々に殻がめくれて中から現れたのは黒いドラゴン。
「キュイ……」
恐ろしく可愛い。
50センチほどの人形のようなドラゴンは前足を器用に使って顔を擦ってる。
ここで気になったのグウェンドは二足歩行で小さな手の西洋ドラゴンだったのに目の前のドラゴンは四足歩行だ。
めちゃくちゃ小さな翼なのは成長すれば大きくなるだろうがグウェンドとは明らかに骨格が違うように思える。
どちらかというとグウェンマグナに似ているがあちらは二対の翼があった。
こっちは一対の翼しかない。
なにかまた別の種族なのかもしれない。
今度ストルフさんに話しを聞きに行ってみよう。
ちなみに二人はうっとりとした目でドラゴンを見ている。
「クロツキ、なんだこの化け物級のかわいさは」
「お名前は決めてあるんですか?」
「あぁ、ディーにしようと思ってる」
「ディーちゃんですか、いいですね」
「ディー、こっちにおいで」
ディーはキョロキョロと俺たちを見て、なんと俺の元へとよちよち歩いてきてさらに、頭を擦り付けてきた。
親が誰かちゃんと分かってるんだな。
「そうだクロツキさん、ご飯をあげないと」
「ですね」
そうだった、生まれたては弱っているからご飯を食べてもらって元気になってもらわないと。
俺はアイテムボックスから残穢の影の核を取り出す。
手のひらにのせてあげるとディーは核をボリボリと食べる。
「かっ、可愛すぎる」
リオンが悔しそうにしてるので核を渡してあげる。
ディーはリオンの元へと歩いて行って核を食べる。
次はルティにも核を渡してディーにご飯を食べてもらう。
全ての核を食べ終えてもディーは不満げな顔をしている。
「ディーちゃん足りなかったんですかね」
「ハッハッハ、ディーは食いしん坊だな」
「でも核はもう無くなったしあとはこれしかないぞ」
俺は死穢の影の核を出す。
ディーの目の色が変わった。
「キュイキュイー」
どうやらこちらの方が好みだったようだ。
「よかったんですか? クロツキさん」
死穢の影の核は残穢の影の核と比べて10倍以上は価値が高い。
「ディーのためなら気にならないですよ」
「親バカじゃねえかよ」
ディーはお腹も膨れ目がうつろうつろとしてきている。
しかし、ここで問題が……
俺にはテイム関係のスキルがない。
出し入れができないのだ。
「じゃあ仕方なしだが、ここのホームを好きに使っていいぜ」
「そうですよ、それならディーちゃんも安心して眠れます」
二人は嬉しそうにしているが残念なことにディーは俺の影の中に潜って行ってしまった。
どうやら休憩するときは俺の影の中に移動できるみたいだ。
なんとも悲しそうな顔をする二人。
「まっ、まぁ、また遊びにくるから」
「ルティ、私も相棒を探しにいくことにするよ」
「確かに何かのイベントで手に入るということが分かったんだからチャンスはあるよね」
今のところテイマー以外がモンスターを使役したという情報はない。
しかし、ディーのような例もあるということだ。
§
「ディー、攻撃だ」
「キュイキュイッ」
ディーはコボルトファイターに突進していく。
なんとか倒せたようだ。
今日はディーの初陣ということで、色々と試しに来ていた。
リオンとルティも誘ったが相棒探しの旅に出たようだ。
何度かの戦闘を終えてディーについて色々と分かったことがある。
まずはテイムモンスターとは違うということ。
テイムモンスターならばステータスがあってパーティ画面で見れるはず。
だがディーは見ることができない。
さらに戦闘に関してもスキルなどは使うことができず、今の戦闘も俺がHPをミリ単位にしたコボルトファイター相手をなんとか倒すのが精一杯。
ちなみにストルフさんにディーを見せにいくとめちゃくちゃ興奮していた。
もしかしたら新種かもといっていたが実際どうかは分からない。
ストルフさんも全てのドラゴンを知ってるわけではない。
ディーについてはよく分からず、このままでは戦闘に出すのは無理そうだ。
俺的にもディーが傷つくのは見たくないし……
でも影に戻っていてくれっていっても拗ねて戻ってくれないんだよな。
ディーは戦いたいみたいなんだけど。
遠くで魔力が高まっている。
コボルトウィザードがディーに狙いをつけて炎の槍を放ってくる。
俺はディーを抱えて躱す。
全く、ディーを攻撃するなんて許せない。
ディーを地面に置いてダガーナイフを構えたとき後ろから高々とした咆哮が聞こえた。
「キュイーーーー」




