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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第5章 鋼鉄の魔砲少女(パンツァー・マギカメタル)
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希望の絆

遂に。


遂に魔女は真実を受け入れるのか?!

黒き霧が、ひかりに掻き消された。

金色の光は闇を討ち祓った。


ーーー オオオオーンッ ---



悪魔の慚愧なのか。

いいや、闇が退き下がる遠吠えだったのだろう。


娘は闇に染められた母の魂へ手を指し伸ばす。

救いを求める迷える者へ。


「あなたは?!あなたが?マリキアなの?」


闇に堕ちた魔女の瞳から、邪気が消えゆく。


「本当に、赤子だったマリキアだというのね?」


指し伸ばされた手を押し抱き、母たるオーリエが救いを求める。


頷いた女性が金の髪を靡かせて、母を見詰めて微笑んだ。


「あああっ!マリキア!」


感極まったオーリエは歓喜の叫びをあげて抱き寄せる。


「マリキア、さぞや辛かったでしょう、辛かったでしょうに。

 こんな身勝手な母をどうか赦して!許して頂戴!」


我が子と再会出来た喜びに、オーリエの呪いは打ち消される。


「やはりあの時。あなたを手放さなければ良かった。

 ロゼになんて預けるのではなかった。いっそ親子で死んでいれば・・・」


後悔に身を捩るオーリエに、マリキアの魂は首を振る。


「?!なぜ?マリキアは母と別れさせられたというのに悲しくないの?

 ロゼに酷い仕打ちをされたというのに、母と一緒が善かったのでは無いというの?」


マリキアの反応に、オーリエは虚を突かれた。


「姉様、マリキアこそ一生を賭けて守ったのです。

 ルナナイトの名を・・・そして繋ぐべき力を。

 唯独り・・・どんなに辛くても、逢いたく想おうとも守り抜いたのです。

 私の言葉に従い、戦争を続けるフェアリアには入らず。

 継承者を作るまでは・・・

 マリキアの子を育て上げるように言った、私との約束を果したのです」


姉の娘がどうして墓前に行けなかったのかの訳を教えるロゼ。

フェアリアからの追及を逃れる為と、継承者を絶やさぬようにマリキアに訓戒した。


「それが、私との約束だったのでは?

 マリキアを生き永らえさせて、いつの日にかもう一度領地に帰れるようにと。

 私が生きている間には叶えられませんでしたが、マリキアの孫の代になって漸く果たされたようです。

 ・・・皆が願った平和な時代になって・・・ようやく」


姉は本当なのかと娘を観る。

微笑み頷く娘の顔には、涙が流れ落ちている。


涙に嘘偽りがない事を悟り、母たる魔女は改めて自らの浅はかさに戸惑った。


「マリキア、ではあなたは?

 あなたの一生は不幸では無かったというの?

 ロゼに育てられたあなたは、この母をどう想っているの?」


オーリエは先立った自分に、娘は何を想うのかと問う。


「・・・お母様かあさま。恨んだり憎んだりする訳がないじゃないですか。

 私は老いて死を迎えられた・・・誰も恨んだりしていないの。

 お母様もお父様も、私の姿をご覧になればお判りでしょう?

 この姿をお見せすれば、ロゼお母様が約束を守られた証でしょう?」


マリキアの姿が年老いた婦人に変わり、オーリエに生き抜いた証を立てた。


「お母様、私は愛する夫と二人の子に恵まれました。

 独りはマーキュリアを継がせ、一人はルナナイトを名乗らせました。

 勿論、指輪に選ばれた者をルナナイトとして名乗らせたのです。

 此処に居るルビナスの先祖となった我が子は、やがてその子供に帰還させたのです。

 ・・・やっとフェアリアとロッソアの間に平和が訪れたから。

 それを観てから・・・私は漸く死を得られたのです」


我が子の苦渋を知り、オーリエは涙ぐむ。

そこには恨みや呪いは消え果て、真の母たる魂だけがあった。


「マリキア・・・辛かったでしょうに」


闇が消え去ろうとしていた。

最早恨みも呪いも追いやり、子に因って罪が拭われていく。


「いいえお母様。辛かったのは私ではなくロゼお母様の方ですよ。

 私を育てるだけに一生を費やされ、遂に独り身を貫かれた・・・

 結婚はおろか、殿方に触れる事さえされず・・・私だけを育てて下されたの」


マリキアは再び姿を少女へと換えて、母に教えるのだった。


「ロゼが?!ならばルナナイト家とマーキュリア家は?!マリキアの子孫だというの?

 私が滅ぼさんと願った子孫たちは・・・私の血縁だというのね?!」


「そう。二つの家に別れたけど、私の子供達なの。

 このルビナスも、ロゼッタも。私の血が流れているのよ?」


マリキアの言葉を受けたオーリエは、己の浅はかさに悔いた。


「なんてこと・・・私はなんと愚かであったのでしょう。

 調べもせず悔い改めもせず・・・愚かにも我が子の末裔を殺さんとしていた。

 ああ、私は悪魔に身を任せていた事が呪わしい・・・自分を呪いたい」


本来なら護るべき子達だったのに。

恨みが眼を澱ませ、あるべき物を観ていなかった。


「お母様、もう誰も憎んだり恨んだりしなくて良いの。

 私の居る天国迄来れるのだから、罪を犯す前に粛罪したのですから」


マリキアは母オーリエに微笑んだ。


「お父様もこちらへ来られますよ、だからお母様も。

 闇を捨てて光の中へ・・・来られるのだから・・・神の御許に召されましょう」


「あああっ!許してロゼ。許してファサウェー様。

 私の罪を、月夜の魔女と化したオーリエを・・・どうかお傍までお連れください」


娘の魂に因って、悪魔と化した魔女の魂は浄化された。

一番心に残っていた最愛の娘により、闇は打ち破られたのだ。


「勿論だよオーリエ。

 やっと君に戻ってくれた。

 どうして離すものか私の妻を、そして我が娘と永遠に暮らそう神の御許で」


騎士ファサウェーの魂が娘と共に迎えに来る。


「ああ、神よ。我が主よ。罪を赦したまえ、我が身を御許へ召したまえ」


娘に因って粛罪されたオーリエは、あるべき姿へと戻った。

赤髪は麗しく靡き、蒼き瞳は夫を求める。

身に纏った魔法衣は薄汚れた色から、清浄なる光の衣に戻るのだった。


「さぁお母様もお父様も。

 神の御許で永遠の平安を・・・」


天に召される魂は、娘の導きで光となる。

身を光に包まれた夫婦は光に溶け込んで行く時に下界を観た。


そこにはマリキアの末裔たる男女が佇んでいる傍に。


「どうか・・・お幸せに。永遠に安らぎの中で」


ロゼの魂が地上に残されていた。

天国に召されるのを拒み、未だに果たせぬ想いを背負った姿で。

フェアリア戦車兵の少女に宿ったまま、見送るロゼが見送っていた。


「ロゼ?!あなたも来るのよ!なぜ召されないというの?」


夫の魂に寄り添うオーリエに、妹の魂は微笑んで言った。


「約束ですから。

 ファサウェー義理兄にい様との約束なの。

 ルナナイトの血を絶やさないって・・・それは今も変わらなく続いているの。

 ルビナスやノエルを必ず生き残らせてみせますから・・・それが私の約束。

 そうする事が私の出来る罪滅ぼし・・・あの子を親から奪った私の罪滅ぼしなの」


マリキアを救う為とは言え、誰かも分からない子を墓場から奪った罪は深い。

あの子の魂は決して赦しはしないだろう・・・と。

理不尽を冒した罪は、永劫に渡って拭われはしないのだと。


「だから・・・私は神の御許へは行けないの。

 この魂が消滅し、もう一度蘇れれば。その時やっと逢いに行ける。やっと許されるの」


「ロゼ・・・許して頂戴。愚かな姉を、妹に罪を被せた愚かな姉を!」


悲し気な姉を気遣うように、ロゼの魂は笑って見送る。


「勿論!許しますとも。だってこの世界にいればもう一度恋が出来るのですから。

 やっとお姉様に遠慮せず、自分の想いを伝えられるのですから。

 ロゼッタという娘と一緒に夢を追いかけられるのですから!」


それが本心なのかは、姉にも分かりようがなかった。

妹は最期まで他人ひとの心を気遣っているだけかもしれないが、優しさは本当だと判る。

 

「ロゼ、そなたに感謝する。

 ルナナイトとマーキュリア双家の守護を任せる。

 魂が清められんことを切に願う・・・」


ファサウェーが消える前に言った。


「妹ロゼの魂に感謝を。

 救ってくれた妹に陳謝と礼を・・・そして再び逢える日を待っています」


悪魔から解放されたオーリエの魂も、夫と共に消えて行った。


挿絵(By みてみん)



「ええ、姉様。いつの日にか・・・きっと」


魔女ロゼは、天に召された夫婦に別れを告げる。


「あの子も、きっといつの日にか天に還してあげなきゃ・・・」


ロゼは粛罪を誓う。

己が為に墓から奪ってしまった子への、罪滅ぼしを誓うのだった。




「で・・・っと。

 私はこれで良い。だけど、この子をどうするかだわ」


ロゼの魂はレオンに宿ったもう一人の魂を見詰める。

怯えたように躰を丸め、伏せた顔。

赤毛を魔法衣に被せ、紅き瞳に堕ちたままの少女を観て。


「どうやら、出て来れなくなっちゃったのよね?ノエル」


ノエルの魂に呼びかける魔女ロゼが、どうすれば良いのかを一考して。


「そのままだと後々いろいろ問題があるわ。

 身体を取り戻せたらいいけど、最悪の場合は<無>にされてしまう」


ふむ・・・と、顎に手を添えて考えるのは。


「ルビにも希望を与えてあげたいし、ノエルにだって輝を取り戻してあげたい。

 どうすればいいのか・・・ノエルは兄と離れたくはないだろうし」


ふと、ルビの指輪を観て気が付いた。


「そういえばファサウェー様は天国へ登られたんだから・・・指輪の中には誰も居ないわよね。

 もしかすると宿れるんじゃないかしら。ノエルだって姉様の末裔なのだから」


ファサウェーが居なくなった今、指輪には誰も宿ってはいない、からっぽだ。


思いついた魔女ロゼは、少女の魂に呼びかけてみた。


「ねぇ、そこのあなた。私の声が届くのなら宿ってみない?」


軽くかけたつもりだったが、少女の方から意外な声が。


「あのっ!もしかしてあなたも魔女なの?

 だったらアタシが困ってるのをなんとか出来ないの?!」


「はぁ?!いきなり威勢のいい子ねぇ?」


ロゼが見た所、少女の魂は闇に穢されているようにも映ったが。


「アタシっ、ここから抜け出せないようにされているの!

 悪魔の魂に因って誑かされて、この中に閉じ込められちゃったの。

 今さっき、急に束縛が無くなって・・・話す事が出来たの!

 だけど、抜け出す方法が分らない・・・なんとかならないの?!」


半分闇に冒された状態だが、なんとか自我は残されていると判る。


「何とかって・・・あなたはノエルなのでしょう?

 ルナナイトの末裔である魔法使い、ノエル・ルナナイトなのでしょう?」


ロゼが悪意を退き下がらせようと名を教えた。


「ルナナイト・・・・ノエル・・・・そう。

 そう!アタシはノエル!月夜に舞う魔法使い、ルナナイトのノエル!」



 ーーー ポ ア ァ ッ ---


光がノエルを包んだ。


「やはり、オーリエ姉さんの呪法に澱まれていただけか。

 だったら・・・この指輪を知っているだろう?それにこの子の事も」


ノエルの魂に向けて魔女の力を示すロゼ。

手の先から出た魔法で、ルビの指輪を指す。


「それは・・・アタシの指輪。

 あの時確かに願ったのに・・・誰かに渡してくれと。誰かに・・・渡してと」


記憶が無くなったのか、記憶が混乱しているのか。


「ノエル、あなたは誰かに託したのね。

 指輪を渡してくれって頼んだ・・・誰に?」


「分からない・・・でも、渡して欲しかったのは間違いないの。

 とっても大事な人に、時の指輪を使って欲しくて」


ロゼは気が付いた。

ノエルの束縛は破けると。妹が求めている名を知っているから。


「あなたが求めるのは大切な人の名。

 妹であったことを取り戻し、魔女の束縛から逃れるには。

 指輪を渡したい人の名を思い出せば良いの・・・私は教えられるわ、今直ぐにでも」


闇の束縛から逃れたいノエルにとって、どうしても思い出せずに苦しんでいたから。

求め続けていた答え・・・指輪を渡したい人の名。


「教えて!そうすればここから抜け出せるの。

 魔女に掛けられた呪いから抜け出せる!身体を取り戻せるようにもなるんだから!」


両手を指し出しノエルが叫ぶ。心から助けを求めて・・・


「ルビナス・・・あなたの兄、ルビナス・ルナナイト。

 指輪の正統なる持ち主、あなたの兄ルビナスよ!思い出しなさいノエル・ルナナイトよ!」



 --- パアァァッ ---


光が闇を破った。

少女ノエルは解放される。


魂の束縛が破れ、レオンの中から抜け出た。


「さぁ、妹よ。兄の元に宿るのよ。

 二人を繋ぐのは時の指輪。あなたが宿るのは兄の指輪の中!」


魂の宿り先を教える魔女により、ノエルは跳び付く。


「ああっ?!生きていたんだねお兄ちゃん!」


指輪に宿るよりも、生きていた兄へ跳び付くノエル。

半ばだが、不完全だが約束はたった今果たされたのだ。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!アタシの大好きなお兄ちゃん!」


ロゼは兄妹が再会を果たせたのを、祝福の微笑みで観ていた・・・


挿絵(By みてみん)


 

やっと。

魔女は騎士と天国へ召される。

恨みを解き、大事な者達と共に・・・


そして。ルビの元へ現れたのは・・・ちびっ子ノエル?!

さぁ、これがまた・・・ややこしくなる原因だった?!


次回 指輪に宿る娘

妹よ・・・おまえもか?!ツーンとデレデレ・・・ルビ女難の相が大有りだな

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