生存か屍か?
古の魂を宿す俺が、魔女の秘密に触れた。
哀しい結末に魂を穢した魔女の運命を知らされた・・・
昔何が起きたのかを、騎士の魂に告げられた。
でも、俺にはその中で疑問が湧く。
騎士の子が殺されたのなら、騎士の血統はそこで潰えた筈だ。
マリキアという子が亡き者にされたのなら、今の自分はいない筈なのだから。
「一つ訊きたい。
騎士の他にも時の指輪が使える者が居たのか?」
時の指輪を持つ者として、ルビナス・ルナナイトが訊ねた。
「「いいや、他に使える者など存在しなかった」」
時の指輪を持っていた者として、ファサウェーが答える。
「だとすればだ。俺が存在している訳はどうなる?
時の指輪を以って魔法を使える俺は、お前の子孫の筈だよな?」
「如何にも。ルビナスは我が子孫」」
騎士は魔女と共に滅び、子はフェアリア王の手に因り死んだのではないのか?
ロゼと名乗っていた魔女の妹に売られ、王に渡されたのではないのか?
「殺されずに済んだというのか?ロゼという妹が命乞いでもしたというのか?」
魔女は妹を呪い続けているのだという。
でも、こうして俺という者が居るのなら、確かに魔女の子は生き永らえれたのだ。
騎士が願ったように、子に因って名は残された。
その原因であるロゼという妹が執った行動に、全ての謎がある筈なんだ。
「「それが分からないのだ。
彼女の魂はどこかに隠された状態なのだ。
私もこの戦争が始まってから目覚めたのだからオーリエと同じ時に」」
死してから今日に至るまでの情報が無いと、騎士の魂が答える。
それにしても、御先祖さん達は俺に何をさせようとしているんだ?
騎士の魂は魔女とかした妻を取り戻そうと頼んでいる。
そもそも、その妻はどこに居ると言うんだ?
墓場に居たと言ってたが、今はどうしているというんだ?
「復讐すると言ってたんだろロゼって妹に?
そのロゼって云う妹の魂がどこに居るのか解ってるのかよ?」
「「魔女と同じように、新しい身体に宿っていると思われる。
だが、今の処その行方はようとして分からない」」
それじゃあ、どこをどう探せば良いのかも分からないじゃないか?
復讐を遂げんとする魔女には判るのだろうか?
「「だが、オーリエが最期に言ったのだ。フェアリアの魔法使いを狙うと。
お前の仲間である娘も、復讐の相手にされておるのだぞ」」
つまり、フェアリアの魔法使い全てを対象者に入れてるのか?
1万人に一人と言われる魔法使いだが、あまりに数が多いのだが?
「フェアリアの人口が4000万人として、4000人もの対象者が居るんだぞ?
どうやって探し出す気なんだ?全員を殺す気なんじゃないだろうな?」
あまりに桁外れの人数に、復讐が果たせる筈もないと思ったのだが。
「「いや、彼女はフェアリアに居る全ての者に復讐しても良いと考えたのかもしれん。
フェアリア人そのものの駆逐・・・根絶やしにする気なのかもしれない」」
それ程までに恨み、それ程までに絶望したのか。
魔女は復讐の為だけに蘇ったというのか?
「それならアンタが行って改心するように迫ればいいじゃないか。
オーリエとかいう魔女はアンタの妻なのだろう?アンタが止めれば辞めるんじゃないのか?」
魔女を止めれるのは騎士の魂しか思いつかなかった。
だが、ファサウェーの魂はこう言ったのだ。
「「私が止めても闇からは抜けれないだろう。
彼女を止めれるのはロゼだけ。
妹ロゼの魂によってしか魔女は正気に戻る事はない。
ロゼとマリキアの魂によって語られてこそ、オーリエは救われるのだから」」
魔女がいつどこでどのようにして現れるのかも分からない。
そんな状況で妹ロゼの魂を見つけろと言われても。
「だいたいだな、オーリエさんが誰に宿ったのか知ってるなら教えろよ?
魔女が誰に宿り何処へ行ったか知らないと話にもならないぞ?」
一番振り出しに話を戻した。
魔女がどこの誰に宿ったのかを知らないと、求めようも無いから。
「「それを知ったとして、お前に魔女を正気に戻せる筈もない。
彼女を正気に戻すには、妹の魂が必要不可欠なのだ」」
騎士の魂は答えて来ない。だが、何故答えないのか?
俺は気付いていた事があった。
騎士が俺に宿っているのは、同じ血縁だから。
同じ力を持つ者だからだ。だとすれば、魔女の血縁で同じ力を持つ者と云えば。
「まさかとは思うが。魔女が宿るのは俺の妹じゃないのか?」
「「そうだとすれば・・・どうする?」」
ファサウェーは否定しなかった。
「それじゃあ、妹は。ノエルは生きているんだな?!」
呪われようが宿られようが。そんなのは二の次だ。
家族が生きている事の方がよっぽど大事な話なのだから。
「ノエルが・・・生きているのか?宿られたというのなら生きているんだろ?!」
「「私が最期に感じたのは、お前の妹が絶望している姿。
人々の死を目の当たりにし、オーリエと同じように復讐に身を墜とした姿だ。
その絶望と復讐心にオーリエの魂が目覚めてしまったのだ」」
ファサウェーはノエルが死んではいないと、暗に示して来た。
「ノエルが・・・ノエルが生きていてくれた?!
父さんや母さんは一緒に居るのか?!」
妹が生きているのなら、両親だって生きているのではないかと訊ねるのだが。
「「すまんが私には分からない。
オーリエが目覚めてから私も目覚めたのだから。
その時には既に魔女と化したオーリエは宿った後だったのだ。
その時にはお前の両親の気配は既になかったのだ」」
騎士の答えには、両親は絶望なのだと含まれていた。
既に亡き数に含まれた後だと言っているのだ。
「そんな・・・ノエルだけが?
だから・・・復讐心に染まり絶望していたのか?」
妹の身に起きた悲劇を想い、俺は悲しい現実に向き合わねばならなくなった。
ノエルに何が起きたのかの片鱗を聞かされて。
「そうだとすれば、この指輪は?どうやって俺の元に来たんだ?」
「「それも分からないが。妹達はお前に届く様に手配していたのだろう。
お前に時の魔法が秘められている事に気づき、助けを求めていたのではないか?」」
ノエルを想った時に思い出すのは、汽車の中から観た最後の姿。
差し出された手には、間違いなくこの指輪が填められていた。
その指輪が今、こうして俺の手に在る。
ノエルはどんな想いで託そうとしたのだろう。
「ノエルは魔女に宿られてどうしているのだろう?
一人ぽっちになって泣いていないだろうか?寂しがってはいないだろうか?」
幼き日のノエルが頭に過る。
俺の後を付いて回る少女を観ていた、思い出の中で。
「俺は帰ると約束したんだ、ノエルに。
必ずノエルの元へ行かねばならない、どんな事をしてでも!」
その為には、兵隊を辞めてでも。脱走したって構わないと思う。
故郷の墓地に行けば、何かしらの手がかりがつかめるのではないかとも考えた。
「「待つのだルビナスよ。
はやる気は判るが、妹はフェアリアに居ないのかもしれんぞ」」
ファサウェーの言葉に出端を挫かれた。
「「魔女が宿った娘は、ロッソアの機械に取り込まれたのだ。
巨大な砲を持つ戦闘機械に乗った者に救われてな。
お前の乗る機械と同じ様な物に連れて行かれた事だけは間違いない」」
「ノエルが?!ロッソア軍に連行されただと?!」
衝撃の言葉に俺は眩暈を覚えた。
「じゃあ、戦争が終わらない限り取り戻せないじゃないか?!
アンタの魔女にだって逢えずじまいじゃないか!」
連行されたのなら、捕虜として?それとも・・・
俺はこれまでの闘いで、ロッソア軍による残虐な行為を知っていた。
そのロッソアに連れて行かれたというのなら・・・
「一刻も早く獲り返さないと。ノエル迄殺されかねない」
気が気ではなくなる。
生きていたと知らされたのに、このままではそれさえも喪いかねないのだから。
「「私は魔女が宿ったのだと言った筈だぞ。
悪魔の如き力を持つオーリエがな。宿り主をむざむざ殺すような真似はしないだろう。
それこそ次に生まれ変われる保証など、どこにも無いのだからな」」
ファサウェーが俺に言って聞かせるのは、魔女がこの機会を逃す筈が無いのだという事。
宿り主を殺す筈が無いとも聞こえる。
「じゃあ、ノエルを取り戻す事が出来ると言うんだな?
魔女が復讐を果すまでの間は、ノエルも生きていられるというのだな?」
「「少なくとも、果たし終えるまでの間は護ろうとするだろう。
しかし宿る必要が無くなれば・・・妹から離れてしまうだろう」」
騎士の言った意味が、少し分からなかったが。
「兎に角、魔女に現れて貰えれば。
ノエルを取り戻せれば・・・後はロゼという妹の魂を探せば良いんだよな?」
ノエルを獲り返せれば、後はどうなろうが構わないと思える。
先祖が困ろうが、魔女が魔法使いを駆逐しようが・・・
「魔法使いを狙ってるって・・・言ってたよな?」
「「そうだが?」」
だったら・・・居るじゃないか。俺の傍に二人も。
しかも部隊には新たに加わった少女達も居る。
「魔女にもロゼという妹の在処は知られていないんだよな?」
「「そうだと思われる・・・が?」」
俺が何を言いたいのか探って来たファサウェーに。
「魔女がどんな手でノエルに魔法使いを倒させるか。
ロッソアに連れて行かれた妹に、戦争を手伝わせるようとする方法。
それは魔法使いだからこそ出来る事があるんだ今は。
魔鋼騎・・・それに乗れば魔法使いを倒す事が出来る。
妹ノエルに出来るかは分からないけど、それならば堂々とフェアリアの魔法使いに闘いを挑める」
この時代ならではの魔法使いとしての闘い方を知らせた。
「敵の中に介入する事が出来れば・・・だけど」
連行された妹に、敵が魔鋼騎を与えるのかが問題だったが。
「ロッソア軍がそこまでお人好しだとは思えないが、魔女の力を認めれば。
オーリエという魔女の力を利用する事に気付いたのなら、有り得ない事では無いとも思えるんだ」
俺は魔法使いの存在が稀な事と、魔女が何らかの行動に出て復讐を企てると想い、
「もしかすると。どこかの戦場で出くわすかもしれない。
もしかすればもう既に出逢っていたかもしれない・・・」
敵魔鋼騎に出くわしたことが無かったと思うが、もしかすれば居たのかもしれないと思った。
「これからは敵の魔鋼騎に注目しなきゃな。
それでオーリエという魔女はどんな属性を持つ魔法使いだったんだよ?
魔鋼騎にはそれぞれが持つ属性を顕した紋章が浮き出る筈なんだ。
知っておかないと、それこそ見逃してしまうからな」
「「槍・・・槍だ。オーリエは攻撃力に主眼を置いた魔法を使っている」」
槍。
槍の属性を持つ紋章を浮き立たせた敵魔鋼騎に注目せねばならない。
「じゃあ、槍の紋章だよな。それで、何色の光を浮かばせられる?
ロッソアの多くは古来から紫だと相場が決まってるんだが?」
「「オーリエは赤髪で紅い瞳だった・・・」」
なるほど。俺やノエルの瞳が赤色なのも、魔女の血を受け継いだからなのか。
「赤色の紋章を浮かばせる魔鋼騎・・・それが目印なんだな」
「「もし、お前の妹がロッソア軍に加えられ、魔砲の戦車とかに乗って居れば、だ」」
俺が勝手に想像するのを、騎士の魂が仮定だという。
「仮にでもなんでも、そう思わなくちゃいたたまれないじゃないか。
そう思わなくちゃ闘う事も出来なくなるし、助けることも思いつかない」
完全否定が出来ないのか、騎士は黙って俺の言葉を聞いている。
「今の俺は復讐なんて考えられなくなったんだ。
妹を取り戻す事だけが闘う意味に代わったんだ。
その為だけに生き残ろうと思えるように変わった」
何だか今迄の鬱屈した心が、一気に晴れ渡った気がする。
ロゼに復讐を諦めないと言っていたのが、嘘のように感じられた。
「「ならば、お前はこれから何を目的に闘う?
ルビナス・ルナナイトという騎士は、誰の為に闘うというのか?」」
騎士の魂が訊いた。
俺という戦車猟兵に向けて。
「簡単な事さ。俺が目的とするのは妹を取り戻すのみ。
俺が闘う訳は、仲間を護り現れる魔女に逢う・・・魔女が現れれば取り戻せるんだろ?
だったら、俺はノエルの為に闘うと決めたんだ」
復讐は捨てた。
だって妹が生きていてくれるのなら。
妹を取り戻すのが、生きる意味だと分かっているから。
死に急ぐことは出来なくなったけど、新たな願いが産まれたんだと知った。
俺が闘い、生き続ける本当の意味が、やっと手に出来たんだと思えたんだ・・・
俺の心は飛び跳ねる。
死んだと思っていたノエルが生きていると分かり。
魔女に呪われていたって、生きてくれているのなら。
復讐なんてどうでも良い。
あるのは妹の奪還・・・それだけだ!
次回 ロゼッタはロゼ
聴いてくれロゼ!俺は復讐を辞めるんだ!・・・って?あれ??




