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26、魔王の相棒2

 ヨシュアに続いて魔物へ飛び乗ったサリーネは、両手に持った短剣を自在に振り回し、魔物の目や触覚など、適格に急所を狙って攻撃を繰り出しては、一匹、また一匹と落としてゆき、落下しながら次の魔物に飛び移り、目にも止まらぬ速さでまた倒してゆく。


 一方のヨシュアは、武器を持たず拳だけで固い魔物を屠っては、サリーネの倍のスピードで叩き落としていっている。

 筋肉隆々というわけではなく、どちらかといえば細身のヨシュアの武器が素手とか、もう規格外過ぎてついていけないが、逃げ腰だった騎士団も二人のあまりの強さに歓声を挙げ、トンヌラは呆れたように呟いた。


「暫く見ない間に若はまた一段と魔王になったが、お嬢は金がなかったんだろう? 何で冒険者にならなかったんだ?」

「若が言うには、かなり自己肯定力が低いそうっす」

「あれで弱いと思ってるわけ? 冒険者になったらソロでも億万長者になれる位稼げるじゃん。おかん、バカなんだな」


 言った瞬間、ギロリとヨシュアに睨まれて、カントがギョッとした顔になる。

 三人がいる城門からヨシュアが戦っている場所まではかなり距離がある。

 何でこんなに離れているのにサリーネの悪口だけは聞こえるのか? そういえばサリーネの完璧な変装を難なく見破ったのもヨシュアだった。我が主ながら怖すぎる。


 そう思っていると、サリーネに両断された大蛇が最後の悪あがきなのか、尻尾で彼女の足元を払ったのが見えた。

 体勢を崩され大蛇と共に落下しそうになるサリーネを、ハヤブサの如く駆け付けたヨシュアが掴まえる。と、思いきや、擦れ違いざま彼女を後方へ放り投げ、真横に飛んだヨシュアの眼前に、いつの間に狙っていたのか怪鳥の鋭い嘴が迫る。


「「「若!」」」


 串刺しになりそうな状況に、たまらず声をあげた三人だが、悲鳴をあげたのは怪鳥の方であった。


「キエエエエッ!」


 青い血飛沫を噴き出して落下してゆく怪鳥の両目には二つの短剣が突き刺さっている。

 ヨシュアに放り投げられたと同時にサリーネが放ったものだ。

 それを素早く二つとも抜き取って、ヨシュアが手近にいた魔物の身体を駆けあがってゆくと、丸腰で魔物と対峙し防戦一方になっていたサリーネに背後から投げつける。

 頬を掠めて深々と魔物に刺さった短剣を引き抜き笑顔を向けたサリーネに、ヨシュアは軽く手をあげると正面に迫ったドラゴンの顔面を素手で打ち砕いた。


「二人並ぶと魔王と悪魔にしか見えねぇな」

「おかん、最強じゃないっすか!」

「やべぇ、マジで鬼強い。人間じゃねぇ」


 トンヌラもチンクーも、カントでさえも目を瞠る。

 ヨシュアもサリーネも宙を舞うように次々となぎ倒しているが、実は上空にいるのは一体でも討伐するのが厄介な魔物ばかりなのである。


 サリーネがオオトカゲと言っていた魔物は最強ランクのドラゴンであるし、大蛇も怪鳥も地方の小規模な騎士団程度では総がかりで一体仕留められるかどうかの難敵だ。

 それをいとも容易く屠る様を見て、地上にいた魔物も明らかに動揺しているようである。


「若達にばかり頼るわけにはいかねぇ」

「そうっすね! 俺たちは俺たちの仕事をするっす!」

「俺らも連携攻撃しちゃう?」


 突進してきたリカントを一刀両断し真面目な顔で言い放ったトンヌラに、チンクーが数だけはやたら多いゴブリンを薙ぎ払いながら応じ、カントが空中を回転しながらマンティコア達を切り刻んで軽口を叩く。


 想定外の人外魔境な生き物二人の参戦で魔物が浮足だってしまったことと、普段はトンチンカンな三人もかなりの強さだった(だが連携攻撃は悉く失敗していた)ので、ついに魔物の大軍は殲滅し、スタンピートを一人の犠牲者もなく終わらせることに成功したのだった。


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