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悪役令嬢の品格 -20回目はヒロインでしたが、今回も悪役令嬢を貫きますー【コミカライズ原作】  作者: 幸路 ことは
アスタリア王国編

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浮気の対処を考える必要があるわ

「……ということなんです」


 鼻をすすり、ベロニカに絹のハンカチで涙を拭われながら、エリーナは事の顛末を全て話した。それを聞き終えたベロニカの眉間には皺が寄っており、確認のためリズに視線を向ければ肯定の頷きが返ってくる。


「クリスは翌日には公務に行ったから何も聞けなくて、最近はずっとモヤモヤしてしまったんです……」

「確かに、今までのクリスさんの行動から考えると少し変ね。彼なら証拠隠滅しそうなのに」

「でしょう? だから、なんだか不安になってしまって……」


 やっと溜まっていたものを吐き出せて落ち着いたエリーナは、リズが淹れ直してくれた紅茶で喉を潤す。


(あ、懐かしい……ラルフレアの紅茶だわ)


 こちらでずっと飲んでいたお茶に懐かしさを感じ胸がつかえる。それほどアスタリア王国に、クリスの隣にいた時間が長くなっていた。


「そうねぇ、でも浮気をしている証拠も、心変わりをしそうな気配もないのよね?」


 涙が止まり不要となったハンカチをテーブルに置き、ベロニカも優雅な作法でソーサーを持ち、ティーカップに口をつける。


「はい……でも、今後は分からないじゃないですか。まだ婚約状態ですし」


 エリーナはティーカップをソーサーに置くとテーブルに戻し、プリンに手を伸ばす。見ただけでわかる。王都にあるアーク本店の王道プリンだ。


 その美しい頂にスプーンを入れればカラメルが流れ、口に入れればとろけて甘さとカラメルの苦みが合わさる。その瞬間が幸せで、悩みも忘れてしまうほど。


 プリンは毎日食べているが、場所が変わり、一緒に食べる人が変わるので同じプリンには二度と会えないのだ。一期一会、一プリンである。


「まぁ……クリスさんに限ってはないと思うけれど、想定しておくのも大切よね。二人の結婚がご破算となれば、醜聞どころの騒ぎではなくなるわ」


 二人の婚姻は両国の架け橋であり、前王の実子という下手すればラルフレアの継承問題に発展しかねない問題の解決策でもあったのだ。


 しばし自分が握っている情報を繋ぎ合わせ思案していたベロニカだったが、「そうね」と呟くと扇子を掌で打ち鳴らした。


「現実的に婚約破棄は難しいから、こういう時は浮気された時の対処を考えておけばいいのよ」

「対処……? ベロニカ様は考えたことがあるのですか?」

「当然よ。王妃として常に最悪の可能性は考慮しておくべきだわ。もともと素行がいいとは言えなかったもの」


 エリーナとリズは頷きかけてやめた。本人がいないとはいえ不敬に当たりそうだ。それをごまかすようにリズが続きを促す。


「その、もしそうなったら、ベロニカ様はどうされるんですか?」


 その質問に不敵に笑い、獲物を狩る肉食獣の目になったベロニカに、続きを聞きたいような聞きたくないような気持ちになる二人だ。


「まずは、王子時代の黒歴史を枕元で朗読。次に、黒歴史の中でも令嬢たちに送っていた薄っぺらい恋文の写しを音読させるわ。それでも懲りなければ、あいつがやらかしたあれこれをまとめた資料を喜劇にしてもらって一緒に観賞。最後はそれらの手紙や資料を歴史資料として保存かしらね。あの馬鹿の黒歴史が今後も残り続けると思うと痛快だわぁ」


 流れるように対処法という名の復讐を挙げるベロニカの笑顔には黒いものが滲んでおり、婚約者時代の苦労が偲ばれた。即位した今そのようなことはないと信じたいが、藪蛇になりそうなのでエリーナは深堀できない。


「す、すばらしいですね……。ちょっと、私にはできなさそうですが」

「あら、クリスさんの後ろ暗いところはいくつか知っているから、本当に必要になったら言ってちょうだい」

「わぁ、覚えておきます……」


 今さらながらベロニカの強さを実感し圧倒されていたエリーナだが、ふとその言葉の中にひっかかりを覚えた。


「というか、ベロニカ様はジーク様の手紙をお持ちなんですね。しかもそれを後世に残すって……」


 リベンジのスケールが桁違いだ。エリーナが王様って大変だわと心の中で少しジークに同情していると、お茶請けのプリンクッキーを口に入れたベロニカが呆れ顔になった。


「何を他人事のような顔をしているのよ。貴女の手紙だって残るに決まっているじゃない」

「え!? 何でですか?」


 目を丸くして驚いているエリーナに向けるベロニカの顔は残念な子を見るもので、ため息が追い打ちをかける。


「王室の歴史学者にとっては、貴重な資料だからよ。それに貴女の身元の証明の一つが前王から母君への手紙だったの忘れたの?」

「そうでしたわ!」


 そこにお茶を注いだリズの呟きが入る。


「そういえば、何百年も前の浮気相手に贈った手紙や奥さんに謝る手紙が出てくることもあるみたいですし……」


 リズのは前世の記憶だが、ここでも十分起こることでありベロニカはその通りと頷いていた。二人の反応にエリーナは「えっ」と何かに気付いたように短く叫んだ。それは取り返しのつかないミスに気付いてしまった時のような顔で……。


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本編終了後の短編集です!

『悪役令嬢の品格ー読者様への感謝を込めた短編集ー』

コミカライズ版です!

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