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悪役令嬢の品格 -20回目はヒロインでしたが、今回も悪役令嬢を貫きますー【コミカライズ原作】  作者: 幸路 ことは
アスタリア王国編

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168 秘策を甘んじて受けようか

 リズの秘策が発動したのは、クリスとリズがお互いの秘密を話してから二週間が経った時だった。クリスはなかなか打ち明けられないモヤモヤを抱えながら公務をこなし、午後のゆったりとした時間を過ごしていた。エリーナはナディヤと王都に遊びに行っているので、暇を持て余していたのだ。今日こそエリーナとお茶をしながら打ち明けようと思ったのだが、肩透かしを食らった気分だった。


 自室のソファーに身を横たえながら、暇つぶしに本を読んでいるとドアがノックされる音がした。クリスは体を起こし、本をテーブルに置いて返事をする。公務で何かがあって呼び出されたのだろうかと思っていると、思いもよらぬ人物が入ってきて思わず声を上げた。


「カイル!?」


 侍女に案内されて入って来た友人に、クリスは驚き立ち上がる。近いうちに支店の視察に来るとは聞いていたが、今日来るとは知らなかった。


「クリス殿下、ご健勝のようで」


 爽やかな笑みを浮かべているカイルにクリスは近づき、手をさし伸ばした。カイルはにこやかにその手を取り、力を込めた。何やら怒りのこもった握手だ。それだけで、カイルがただ顔を見に来たわけではないことを察したクリスは人払いをし、カイルと向き合ってソファーに座ったのだった。


「……えっと、どうかした?」


 カイルは実にいい笑顔を浮かべていた。付き合いの長いクリスには分かる。その笑顔は怒りが度を越えた時のものだ。さすがのクリスもこのカイルを前にして、魔王モードを出すほど馬鹿ではない。


「どうかしたじゃねぇよ。俺が何で来たか分かるか?」


「え、支店の視察でしょ?」


「それだけじゃない。エリーナちゃんのとこの可愛い侍女から手紙が来たわ。二人が悩んでいて、クリス様が踏み出せば解決するから後押ししてあげてくださいって」


 クリスはそういうことかと理解し、顔を引きつらせた。リズのことだから明かせるところの線引きはしているだろうが、おそらく多少事実を曲げてそれっぽく伝えたのだろう。そうでなければ、カイルがここまで怒って乗り込んでくるはずがない。


「お前、恥ずかしくないのか? エリーナちゃんに嫌われるのが嫌で、エリーナちゃんのことを執拗に調べたり、男を遠ざけたりしていたことを言えないって。しかも、出会う前にもいろいろやらかしたんだろ? あんまり詳しくは知らないし、聞かないけど、リズちゃんが引くってどんだけだよ」


 リズは大事なところはぼかしつつも、かなり事実に近いことを伝えていたようで、クリスの心に矢の如く突き刺さっていった。中々伝えられないことがもどかしくて、気分が下がっていたところにこの仕打ちは辛い。


「それは……」


「まぁ確かに? 法とか倫理とかギリギリなところもあったし、やっと恋人になれたのに失うのが怖いとか、そんなとこだろ?」


 ズバズバとクリスが気にしているところを言い当てられ、やはり親友には敵わないとクリスは素直に頷く。


「その通りだよ……僕の愛が狂気なのは僕が一番わかってる。だから、言えないんだ」


 リズが言うように、せめてこの世界が終わらないことだけでも伝えたい。エリーナはそれを不安がっているのだから、取り除いてあげたいと思うのは当然だ。だが、それを話せば、他の事も芋づる式に話さざるを得なくなる。

 カイルはため息をついて、じっとクリスを見る。


「なぁ。お前は、ずっとエリーナちゃんを守って、愛してたよな。俺、それに関しては尊敬してる。普通、あそこまで献身的にはなれない……」


「それほど、エリーナは僕にとって救いだったんだよ。他の何物にも代えられない存在だ」


「……じゃぁ、そのエリーナちゃんを信じろよ。時間はいつまでもあると思うなよ。うかうかしてると、お気に入りの先生に取られちゃうぜ?」


 そうカイルが意地悪な笑みを浮かべると、クリスは間髪入れずに拒絶の声を出す。


「嫌だ! やめて、口にしたら現実になりそうだからやめて!」


 リズの手紙に書いてあった情報をもとに揺さぶっただけだったが、効果はてきめんだった。カイルはリズの情報収集力の高さに口笛を吹きたくなる。ぜひ商会に欲しい人材だ。


「なら、お前が動くしかないだろ。エリーナちゃんだって、きっと同じような思いで立ち止まってるんだと思うしさ」


「……わかってる」


 弱弱しい声に、本当に言う気があるのかとカイルが目で圧力をかければ、クリスはムッとした表情に変えた。


「わかったって! 言う。明日の夜、絶対言う!」


「言ったな? リズちゃんにも伝えておくから、明日その秘密を明かせなかったら、俺がエリーナちゃんにお前の悪事を色々ばらす。リズちゃん曰く、俺は秘策らしいからな」


「それ、ばらしたら、まじで縛り上げるぞ」


 と、調子に乗ってクリスを責めていたら、本気の怒りを込めた低い声が返って来たのでカイルは身を震わせた。超えてはいけない一線を超えたかもしれない。


「必ず言うよ。僕をここまで追い詰めたんだから……それと、秘策は二度目は通用しないから、覚えておいて」


 クリスは恨みがましい目をカイルに向け、凄みのある笑みを浮かべた。カイルはさっと血の気が引き、無意識に背筋が伸びる。


「だから、責任をもって今日は付き合えよ。王都のいい店を紹介してやるからさ」


 監禁夜までコースが確定した。しかもクリスの愚痴とエリーナへの惚気付きだ。クリスはさっそくベルで侍女を呼び、遊びに行く旨を伝え用意をさせる。まだまだ日は高い。たっぷり時間はあった。


「ついでに観光案内もしてやるよ。学生の時みたいに、二人で遊ぶのもいいだろ?」


「え……私には遊びに思えないのですが。あ、その、持病が、胃が痛くなってまいりまして」


 侍女が来たのでカイルは口調を丁寧なものに変えており、クリスは白々しいと冷たい視線を送る。


「へぇ。ずいぶん顔色も良くなってるけど? 聞けば、東の国から胃に効くいい薬を取り寄せたんだってね」


 和風プリンの食材探しで、東の島国に繋がりが広がった恩恵だった。カイルはギクリと肩を震わせて、乾いた笑みを浮かべる。確かに前より胃の痛みはよくなったが、今痛み出した。


「ラルフレアではよくなってましたが、こっちに来たら元凶の二人がいるので……」


 ミシェルのところも、よくわからない押しかけ針子がいると聞いているので、今から胃が痛くなってきた。クリスはニコリと笑い、小首を傾げる。


「それは大変だね。そういう時はお酒を飲むに限るよ。さぁ、行こう」


 馬車の用意が出来たようで、二人は立ち上がって侍女について行く。クリスは楽し気で魔王の笑みが戻っており、カイルは悲壮な表情でシクシクと痛む胃に手をやっていた。長い二人の時間は、まだ始まったばかりだ。


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本編終了後の短編集です!

『悪役令嬢の品格ー読者様への感謝を込めた短編集ー』

コミカライズ版です!

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