表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の品格 -20回目はヒロインでしたが、今回も悪役令嬢を貫きますー【コミカライズ原作】  作者: 幸路 ことは
学園編 18歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/198

131 今後について話しましょう

 ジークは高座から降り、クリスの正面に立った。エリーナはクリスに手招きされたため、しずしずと側に寄る。急展開に頭が追い付かないため、少しでも側にいたかった。


「では、改めて王女エリーナとクリス殿の今後について考えがあれば教えてほしい」


 ジークがそう切り出せば、隣にルドルフが近づいてくる。補佐を務めるようで、視線を合わせて頷き合っていた。クリスは涼しい顔で前もって用意してあったように、迷うことなく答えを返す。


「僕はエリーナを連れて西の国へ帰るよ。さっき、エリーナもこの国に未練はないって言ったし、僕も手放すつもりはないから」


 さすがにクリスの身分が明らかになった以上、ローゼンディアナ家を継ぐことはできない。ジークは予想のつく答えだったのか、顔色を変えずに吟味するそぶりをみせる。そこにルドルフが補足をいれた。


「先ほどの確認だが、現段階でエリーナ嬢が王女の身分になられても王位を継ぐことはできず、その身分を考えると王家か公爵家に嫁ぐことになるだろう。その上で、西の国の王家に嫁げば初めての王族同士の婚姻となり、外交上も大きな意義がある」


 ルドルフは冷静にエリーナの現状とクリスを選んだ時の国の利点を述べた。ジークは何度か頷き、エリーナに視線を向ける。その瞳は真剣でありながらも、どこか優しい。心の底からエリーナのことを心配し、力になりたいと思っていることが伝わってきた。


「エリーナ、クリス殿と共に西の国へ行きたいか?」


 そう問われ、エリーナは隣に立つクリスを見上げた。クリスがこの国に残るという選択肢はない。それならば……。


「はい。クリスについて行きます」


 心残りが無いと言えば嘘になる。視界に映る友人たちと離れるのは寂しく、心細い。だが、それよりもクリスと離れるのは身を切られるような苦痛だった。

 ジークはエリーナの想いを受け止め、一度頷くと微笑んだ。


「わかった。上は俺たちが押さえる。エリーナは笑って西の国へ行ってこい」


 頼もしいジークに、エリーナは満面の笑みを向けた。クリスも目礼をし、嬉しそうに口元を緩めている。だが、まとまりかけたところに小難しい顔をしたルドルフが懸念を示す。


「しかし、前王派はエリーナ嬢が異国に嫁ぐのをよく思わないかもしれません。前王の忘れ形見という象徴が現れたと思ったら、西の国へ嫁ぐのですから」


「……それはありうるな。クリス殿はいつ西の国へ立つつもりだ?」


「そうだね。できるだけ早くと思っていたけれど、そっちの事情もあるだろうし遅くても一か月後かな」


 二人はその返答に視線を合わせて頷き合い、ジークが何かを言おうと口を開いたところに、離れたところから鋭い声が飛んできた。


「一つよろしいかしら」


 気高く凛とした声は、聴くだけで安心感がある。声を発したベロニカが前に出てきて、四人に近づいた。


「どうしたベロニカ」


「エリーナ様とのつながりが希薄になることを懸念されるなら、一つ提案がございますわ」


 ベロニカは立場を重んじてエリーナを様付けした。エリーナは少し寂しくなって、しゅんとした表情をベロニカに向けたら「今だけよ」と口が小さく動いた。


「どんな提案だ?」


 ジークがそう促せばベロニカは未来の王妃に相応しい微笑を浮かべ、つつましく進言する。


「こちらと連絡役になる侍女をつけるというのはどうでしょうか。ローゼンディアナ家に仕えていた者から何人かは行くでしょうが、国側からも派遣してはどうでしょう」


「なるほど。それはいい案だな。そちらはどう思う」


 ジークに異存はなく、クリスにそう尋ねた。クリスが視線をエリーナに向けたので、小さく頷けば「異存はない」と返す。


「そして、ここで一人推薦しますわ。わたくし付きの侍女であれば信頼も厚く、所作も申し分ないでしょう」


「あぁ、それがいい」


 ジークの同意を得たベロニカは、すっと視線を人垣の方へ向け呼びかけた。


「リズ・スヴェル。前へ!」


「ふぇっ、は、はい!」


 間抜けな声が返ってきて、転がるようにリズが前に出た。その顔にはなぜ呼ばれたのかと混乱がありありと浮かんでいる。挙動不審でベロニカとエリーナの顔を交互に見ているリズは、少し頼りない。そこにベロニカの叱責が飛ぶ。


「胸を張りなさい! 栄えあるエリーナ王女付きに推薦するわ。両国の友好とエリーナ様に尽くしなさい!」


「もちろんでございます!」


 少し上ずった声で返したリズは涙目で、徐々に感極まったのかすすり泣きが漏れた。事の顛末をずっと側で見ていたのだ。エリーナの力になりたいのに何もできず、ただ祈るように見守ることしかできなかった。それが悔しく辛かったこともあり、役に立てると思ったとたん感情の抑えが効かなくなったのだ。


「なら、あとの人選はこちらでするとして他に決めることはあるか。皆も、意見があれば言ってほしい」


 ジークが皆をぐるりと見回し、意見が出ないのを確認すると高らかに宣言した。


「では、これで卒業パーティーを閉会とする。皆、後日王宮からの伝達が出るまで口外は慎むように!」


 ジークの言葉が終わるなり大広間は拍手に包まれ、口々に「エリーナ王女」と人々が叫ぶ。エリーナはその熱気に圧倒され、目を白黒させて周りを見回した。困惑しているところに肩を抱かれ、見上げるとクリスは微笑んでいた。


「エリー、愛している。僕を選んでくれてありがとう」


 そしてそっと、エリーナの頬に口づけたのだった。一際歓声が沸き、エリーナは恥ずかしさのあまりクリスの胸を押しのける。


「あ、あんまり馴れ馴れしくしたら怒るわよ!」


「怒ったエリーもかわいいよ。でもあんまり逃げると追い詰めたくなるから、気を付けてね」


「何かあったら、ベロニカ様のところに駆け込むわ! 国を超えて!」


 そうやりとりする二人はいつも通りで、周りは微笑ましく見守る。


 こうして、歴史を変えた卒業パーティーは幕を閉じたのだった。


あと、活動報告でエリーナ、ベロニカ、リズ、クリス、ミシェルのキャラメーカーで作ったイラストを載せています。よかったらどうぞ。 8月12~24あたりですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本編終了後の短編集です!

『悪役令嬢の品格ー読者様への感謝を込めた短編集ー』

コミカライズ版です!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ