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簡単なクイズですよ、アシュリンさん

 私たちは森から出て崖の上に潜んでいる。

 来た!

 アシュリンさんが走ってきます。事前に決めていたように、さっきアデリーナ様が矢を放ったと思われる場所にやって来たのです。


 とても速くて、疾風の如くに走っての到着です。両腕には女性が抱かれています。


 崖下の広場には、代官様の配下の方々がいらっしゃったのですが、鎧袖一触でして、足払いだとか急所への一撃だとかで、数名いた全員を倒されました。鮮やかです。



「あれ? 魔族じゃなくなっているな。どう思う、メリナ?」


 本気で言っているの、エルバ部長? さっき魔族だと断言していたばかりじゃないですか。


「んー、アシュリンさん、そのものではないでしょうか?」


 エルバ部長の問いに私は答える。


「うむぅ、いや、アシュリンの魔力でもないな。混ざっている? そうだな、やはり、あいつは魔族だ」


 ちょ、混乱してくるわね。しっかりして下さいよ。でも、魔族だと言われても、ちゃんと集合場所に来ているしなぁ。


「アデリーナ、分かったか?」


「すみませんが、分かり兼ねます。不審な点はないように思います。私が矢を放った地点に来ましたし」


「しかし、アシュリンは途中まで人間だった。進行方向さえ分かれば、知らなくとも類推はできる。気を許すな。食われるぞ」


 調査部長が言うんだから、本当かな。でも、この人、犬蜘蛛の美味しさも知らなかったし、間違っているかもしれない。

 


「アデリーナ様、私が確かめましょうか?」


 私は提案する。


「どうやってでしょう?」




「先手必勝です。半殺しにする気で魔法を放ちます。死の間際になれば、正体を現すでしょう」


「あなたの精神構造は本当に常人とは異なりますね。神殿よりも牢屋にでも幽閉した方が世の中の為ではないかと思うくらいです。本物だったら、どうするんですか?」


「回復魔法で何とかします」


「ダメです。うっかり死んでしまいましたなんて事があるでしょう」


 そんなへまはしないと思うのです。精々、下半身を吹っ飛ばすくらいです。アシュリンさんなら、腸が千切れてもしばらく生きておられると思いますよ、たぶん。


 が、アデリーナ様に従いましょう。



「分かりました。先手はあちらに差し上げます。私が魔族かどうかを改めて平和的に確認します。アデリーナ様も相手が敵だと確信できたら援護をお願いします」


「あなたの言う平和が私の知っているものと同じであれば良いのですが」


「そこそこ平和です」


「……それ、平和じゃないと感じますね」



「行って来い、メリナ。アデリーナは情で判断が鈍っている」


 エルバ部長の言葉に少しだけアデリーナ様の表情が怖くなった。一瞬だけだけど。

 エルバ部長もわざわざ指摘しなくて良いのに。アデリーナ様も戦力とするに足り得る人材です。気持ち良く戦って頂きたい所なのですよ。



「了解です。エルバ部長はアシュリンさんが抱いているフロンさんの確保をお願いします」


「魔族は魔力が強いものだが、転移で湧いたなら、その魔力の一定量は抜けているはずだ。少なくとも魔法をバンバン使うのは無理だろう」


「肉弾戦は私の得意とするところです」


「分かった。だが、私が命じたとは言え、無理はするなよ、メリナ。マジだぞ」


 私はアシュリンさんを見据えたまま、一歩前に出て、背後になったエルバ部長に片手を上げて応える。



 メリナ、行きますっ!



 私は崖を飛び降りて、シュタッと地に立つ。


 そして、考える時間を与えないように唐突に問う。



「アシュリンさん、私はどちら様でしょうか?」


「突然、何を言っている? お前はメリナだろっ!」


 アシュリンさんは明確に返答しました。正解です!

 口調はアシュリンさん、そのものです。


 アデリーナ様は流石、賢いです。「体を乗っ取られても記憶は移らないのか」という質問は、この為だったんですね。質問をして間違えれば、魔族と判定できるのです。


 ただ、今の質問で私はアシュリンさんを疑っていることを暗に、いえ、あからさまに伝えました。向こうも警戒したことでしょう。

 私は優しいです。踏ん切りが付かなかったアデリーナ様の為に飛び蹴りだとか魔法とかを食らわせなかったのですから。


 さて、普通の人なら、ここで自分の名前を知っているからと油断するに違い有りません。


 しかし、私はそのような凡庸ではないのです。相手は魔族。私たちを事前に観察していた可能性があります。

 

 次です。



「私、メリナは今からあなたを殴り殺します!」


「何を言っているんだ、メリナっ!? 私だぞ、アシュリンだ」


 この反応はどうだろう。本物なら、この時点で襲ってきているんじゃないでしょうか。

 なので、不正解でしょう。



「一応、聞いておきましょう。その抱えている人は誰ですか?」


「竜の巫女だっ! やはり、あの家にいたぞ」


 うーん。

 アシュリンさんがフロンさんを竜の巫女と呼ぶのは普通なのでしょうか。知っているなら「フロン」と呼んだ方が自然な感じがします。知り合いでは無いのでしょうか。知り合いでないと仮定すると、竜の巫女と判断できる理由が別にあったのでしょうか。


 総合判断で不正解です。偽アシュリンの疑いが強まりました。なぜなら、アシュリンさんなら、私が質問中に殴ってくるからです。



 最後の質問をしましょう。たぶん、私とアシュリンさんしか知らない事です。


「私、メリナの職業は何でしょうか?」


「竜の巫女だろ。何を言っているんだっ。早く逃げるぞッ!」


 そうですね、その答えは正解ですが、私が想定したものでは無かったです。


 難しいので二択にしてあげましょう。


「違います。わたしは、戦士巫女でしょうか、巫女戦士でしょうか。戦士巫女だと思うなら右手を、巫女戦士だと思うなら左手を上げて下さい。三、二、い――」


「待て、待て! 両手はこの通り塞がっているんだ」


 アシュリンさんなら、その娘を落としてでも答えるんじゃないかな。いえ、あっさり口で答えて終わりでしょうね。


「では、戦士巫女なら左目、巫女戦士なら右目を一呼吸か二呼吸分だけ閉じて下さい」


 アシュリンさんは右目を閉じていた。おっ、正解ですよ。おめでとうございます。確か、そんな結論だった気がします。うっすらとですが。


 私は殴り倒した後にそれを確認した。



「残念、正解は巫女戦士でしたぁ。お忘れでしたか?」


  まるで、不正解だったかの様に振る舞う私。いえ、本物のアシュリンさんだったら、すみません、「私から見ての左右の目です」とかで言い訳できますもの、きっと。



 !? 驚いて見上げるアシュリンさんの顔にヒビが入る。

 そして、そのヒビが全身に広がり、ポロポロと崩れ落ちた後には青黒いアシュリンさんが出て来た。


 魔族なの? いえ、疑問に思う必要はない、魔族だ!


 ダークアシュリンと名付けましょう。

 少なくともアシュリンさん自身ではなさそうです。偽物かどうか分からないまま、殴った私、グッジョブです。


 フロンさんはダークアシュリンが倒れた巻き添えを食らって、地面に投げ出されていますが、この際はどうでもいいです。逃げられるなら、早く逃げてください。

 この場では、私はあなたに配慮せずに戦わざるを得ませんよ。


 相手はアシュリンさんに勝ったであろうヤツです。余裕など吹き飛んでいます。


 私は勢いそのままに倒れているダークアシュリンの前頭部を蹴り飛ばす。「首がへし折れます様に!」と願いながら。


 ガッ!


 固い。およそ人間とは違う感触だ。


 私の軸足を掴もうと手が伸びてきた為に、後ろへ跳び、間合いを広げる。



「符牒か。小癪だな。外殻を破壊されたか」


 ダークアシュリンは立ち上がって、私を睨む。その口調に、アシュリンさんの面影はない。


 あと、符牒ではありません。どっちの目を閉じても、全力で殴ってました。アシュリンさんに何回も殴られたので、そのお返しの意味も込めてます。

皆様、「小説家になろう」様のユーザー登録はされていますでしょうか。小説を書かれない人は、わざわざアカウントをお作りになっていないもしれませんね。

でも、複数の小説をブックマークに出来る上、更新情報も一目で分かり、読者様にとっても非常に便利なのですよ(唐突)


あっ、次で100話目ですね。メリナと同じく頑張ってるな、私 (/ω・\)チラッ

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