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これは予想外だ

 アデリーナ様はまだ見つかりません。

 大体この辺りだと思うのですが、武装した兵隊さんが村外れのちょっとした広場をウロチョロされているくらいです。


 そうです。

 私が光の矢を確認したということは、他の人も同様なのです。

 代官様の配下と思われる兵が周辺を警戒しているのでしょう。

 勿論、アデリーナ様が捕まったような感じはしません。



 配下の方々がいらっしゃる場所の背後が少し小高くなっている崖なのですが、その上の草むらに私は潜んでいます。様子はよく見えるのですが、去っていってくれません。



 じっと下方を観察していると、後ろから手を肩に当てられました。


「シッ。喋らないで下さいね」


 アデリーナ様だ。そうか、エルバ部長の魔力感知で、私の動きを把握されていたのですね。素晴らしいです。

 手招きされて、近くの森へ再び入る。



「アシュリンさんは?」


「今、丁度、村長の家から出た所だ」


 エルバ部長が教えてくれた。


「メリナさんのお陰で村人はほとんど、あちらに行ってくれました。村長も消火の指揮に向かったようですね。代官の方も、私の最初の矢の調査に入り、村にはほぼ誰もいません。作戦は成功裡に終わりそうです」


 良かった。巫女フロンさんの救出は完了しそうですね。


「アデリーナ様、先ほど、聖竜様よりお告げが御座いました」


「……本当でしょうか?」


「アデリーナ、メリナは本物なのか?」


「頭が弱いという意味では本物でしょうが……」


 違いますよ!


「しかし、下らない嘘はお酒以外では付かないと思います」


 そうでもないですよ。


「分かった。メリナ、続きを言え」


 はい。


「魔族が出現したようです。残念ながら、場所は聖竜様もお分かりになっておりませんが、エルバ部長に依頼することを提案しますと、丁度良いと仰っておられました」


「マジ? ……聖竜は私の事を知っていたのか?」


 私は直ぐに返す。


「聖竜様、存じられている、です!」


「あぁ、今の立場上はそうだな。申し訳なかった」


 立場とかいう言い訳は気に食わないですが、素直で宜しいと思っておきましょう。


「分かった。少しだけだが、心が踊るな。よし! 魔族がいるか、調べてやろう」


 エルバ部長は目を閉じる。



「村の近くにはいない。村長も代官も魔族ではないな」


 あれ、村長が一番怪しいと思っていたんだけど。あっ、聖竜様は突然現れたと言っていたから転移で出てきた可能性が一番高かったんだ。


「村の中か。子供しかいないぞ。全て人間だ。ただの凡人だな……。この動いているのがアシュリンとフロンか……」


 どんな仕組みなのか分かりませんが、エルバ部長は呟いて状況を教えてくれます。


「!? なんだ……?」


「どうされましたか、エルバさん?」


 アデリーナ様が少しだけ険しい顔で尋ねる。


「まずいな。これは予想外だ」


「何がですか?」


 私も早く結論が知りたくて尋ねる。

 その調子なら、そのフロンと言う者が倒すべき対象でしょう。


「魔族はアシュリンだ」


 目を開けたエルバ部長が言った。


 余りの事に、私は少し吹き出した。だって、アシュリンさんが冷酷非道な魔族な訳がないわ。彼女が魔族なら仲良くやっていけそうだし。



「アデリーナ、どう思う?」


「有り得ません! アシュリンとは昔からの付き合いですが、一切そのような不吉な者ではなかったと断言致しましょう」


「あぁ、私もアシュリンをよく知っている。紛れもなく人間であった。当然だが、神殿に入る前の経歴なども調べている。つまり、今から会うアシュリンが、彼女の姿のままであっても、それは皮を被った魔族であろう」


「そんな……!」


 出会ってから始めて、アデリーナ様の悲しみの顔を見ました。


「その時は、アシュリンさんが食べられたという事ですか?」


 私は驚いて質問した。まさかね。


「うむ、食べられたかどうかまでは知らぬが、アシュリンは負けたのだろう。油断していると我々まで、それこそ食われるぞ」


 ……アシュリンさんが負ける?

 有り得ないわ。あの人、大猿との戦いの最後に見せた動きなんか、尋常では無かったわよ。体術だけなら、私を上回るとしてもいいくらいよ。


「エルバさん、アシュリンではない気配なのに、どうしてアシュリンが魔族と分かるのでしょうか?」


 必死な顔?

 冷静な物言いですが、アデリーナ様もアシュリンさんを心配されているのでしょう。


「あぁ、動いているのが魔族なのだよ。そして、人間だったアシュリンの気配は村にない」 


 んー……。納得は行きません。



「エルバ部長、魔族に食べられたとして、その者の記憶は引き継がれるものですか?」


 アデリーナ様が訊く。意図は分からない。


「うむ、記憶の乗っ取りか。そういった話は物語ではあるが、私が知っている限りない」


「操られている可能性は?」


「ゼロだ。ちなみにアシュリンが生きている可能性も低い」


 アデリーナ様が爪を噛む。


「本当に魔族なのですか? 実は勘違いでしたなどと言われると、私はあなたを処罰します」


「認めろ、アデリーナ。明らかに魔族だ」


 自称天才の言葉を信じて良いのでしょうか。いえ、この目で確認してから殺すか決めましょう。


「やれるか、メリナ?」


「本当に、もし今から会う者がアシュリンさんの姿であっても魔族なんですか?」


 無言で首肯くエルバ部長。


「そうであるならば、倒します。それに、そうでなくても倒します」


 即断です。なぜなら、一つは、魔族を滅ぼすのが聖竜様からの指令なのですから。もう一つは、アシュリンさんとは初日にやり合って殴られたままですもの。

 次は私が頬を殴る番です。

 良い状況だと思っておきましょう。


「……メリナさんはブレないわね……」


 えぇ、悔しいですが、アシュリンさんの仇は取りますよ。あっ、ごめんなさい。死んでるかは分からないですよね。

数日前ですが誤字報告機能を使って頂いた方、ありがとうございます(^^)

助かりました。

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