転移魔法
「いいな、これ」
私とエルバ部長は蜘蛛を囲んで団欒しています。
「はい、村の皆も見つけ次第、焼いています」
もう蜘蛛の足は一本しかありません。
「生でも美味しいんですけど、お腹を壊すこともあるんです」
「虫を生食か。やはり抵抗があるな。だが、旨いなら悩む」
また捕りましょう。是非味わって頂きたいです。
「あっ。頭の中も食べられます?」
「マジかよ!? そこも食べるのかよ!」
「勿論です。濃厚ですよ」
私は毛で覆われた頭を拳で叩いて割る。
「この黄色いのが通には堪らないらしいです」
「頂こう」
ちなみに、私はこいつの頭は苦手です。
「うむ。これもいいな。ねっとりして舌に旨味が纏りつく」
おぉ、大人な意見です。見た目は子供ですが、態度と味覚は偉そうです。
「メリナ、お前は何をしに、こんなところにいるんだ?」
何だっけ。ナタリアのお姉さん召し使いさんを救出?
いえ、本来の目的は違いましたね。
「エルバ部長の探索です」
「ん? 私はちゃんと予定通りだが?」
「フローレンス様からのご依頼だと思われます。うちの部署に話が来ました」
「巫女長か。それは戻れと言うことだな。何故だ?」
「そこまでは分り兼ねます」
私の精霊が何たらかんたらとフローレンス様は仰っていましたが、関係あるのか不明ですし。
「分かった。シャールに戻る」
「ありがとうございます」
犬蜘蛛がとても美味しかったおかげで、エルバ部長と仲良くなれました。先ほどの脳天キック、申し訳ありません。でも、私は正当防衛をしたまでです。悪くないので口に出しませんよ。
「エルバ部長、私はラナイ村に向かいます」
「どうした? 馬車か」
お酒も置いたままですが、それだけではありません。
「ラナイ村の村長に仕える召し使いを保護しました。その者が言うには、更に虐待されている者がいるとのこと。私は救出に行かないといけません」
「……魔物駆除殲滅部としての仕事か?」
えっ、どうなんだろう。
「分かりません。ただ、総務部のアデリーナ様に伝えれば、間違いなく、私と同じく向かわれると思います」
「そこで王家の嬢ちゃんが出てくるのが分からんな」
「今ははぐれていますが、共にラナイ村に来ております」
「状況が分からん。アシュリンは?」
「同じく共に。二人ともエルバ部長を探しに来ました」
エルバ部長は黙って考えているようだ。
「お前の話では分からん。まずは、アシュリン、アデリーナと合流だ。村に向かうぞ」
私はエルバ部長とともに森を歩く。
「エルバ部長は、どうしてあんな所におられたのですか?」
「あぁ。この付近で一番行き易いのがそこだったんだ」
そうですか? 木の上から見た感じだと道からも村からもかなり離れていたと思いますよ。
「どういう意味ですか?」
「お前も転移魔法を使うのだから分かるだろ。あそこは魔力が噴出しているから、転移の先として都合が良かろう」
はぁ。
全く分かりませんよ。
「村からでもここの魔力が柱のように見えるじゃないか。転移するときに魔力が抜けると死にそうになるだろ?」
いや、本当に分かりませんです。
でも、私が聖竜様の所に行った時は、むしろ酒が抜けたような感じでしたけど。
「私が思うにはな、体が転移しても魔力は転移できずに置いてきてしまうのだ。だから、魔力が豊富な場所に出ないと体内から魔力切れになるんだろう」
髪の毛の先ほど興味もないわ。マリールは今朝もシェラのおっぱいをモミモミしたのかの方が気になるわね。それくらい、どうでもいいです。
「それは何故だと考える? 転移魔法は物質しか送れないのか。では、魔力と違い、魂は転移しているのか。そもそも、魂というものは存在しないのか。深いテーマだ。どうだ、面白そうだろ?」
「あっ、キノコ生えてますよ。これ、食べれますよ」
「えっ。聞いてた? 魔法学校の学生なんか土下座して続きを聞きたいって言うんだが」
「そうなんですか?」
「そうだ」
「……私も土下座した方がいいですか?」
「まぁ、そうだな」
「絶対、嫌です!」
「なら、言うなよ……」
私も神殿生活に慣れてきたんでしょうね。今なら副神殿長の眼鏡話も途中でぶったぎれそうです。
私たちは順調にラナイ村に戻っている。
たぶん。……方向合ってますよね、エルバ部長?
「魔物に遭わないですね」
そうそう、ノノン村の森ならもっと出るんだよね。シャール近くの森でも、オロ部長が食べていたけど、ゴブリンだとか、猪だとか、結構出現していました。
「魔力を感知して避けているんだ」
「そんな事出来るんですか?」
言ってから気付く。この人を調子付かせることになるわ。
「私を誰だと思っているんだ」
偉そうな口を叩く、おチビさんです。仲良くなったので、私の中で、クソガキから進化しましたよ。
「シャール魔法学校の天才講師、且つ、竜の巫女、エルバ・レギアンスだぞ」
全く知りませんし、自ら天才と呼ぶ方に碌な人はおられないと思うのです。
「さっき、私に倒されてましたよ」
「お前! もう一度やるか!?」
私は笑顔で返す。また負けたいのですか?
「ふん。ん? 人間の気配がするな」
くんくん。
「そんな臭いはしないですよ?」
「犬かよ。魔力感知だって言っただろ、バカ。付いてこい。あと、声出すなよ。面倒な奴だったら困る」
エルバ部長が先導して森を進んでいく。




