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歳上を敬いなさい

 視界が戻ると、森の中に立っていました。朝よりも少しだけ明るいですが、やっぱり鬱蒼としています。




「お前、何だよっ!?」


 そして、私は困っています。

 目の前のナタリアと同じくらいの児童が生意気にもタメ口で食って掛かって来るのです。

 その子は、これまたナタリアと同じく女の子で、一般的な村人服を着ています。


 お母さんは竜の巫女の傍に移すって言っていたのにな。アデリーナ様はこんな粗雑な物言いをしませんし、こんなちんちくりんではありません。


「メリナです。あなたは?」


 とはいえ、礼儀も必要です。丁寧に対応致しましょう。


「不審者に名乗れるかよっ!?」


 うわっ、この子、ダメだ。親からどういった教育を受けているんでしょう。

 私が躾し直しましょうかね。


「どっから湧いて来たんだよっ!」


「沸いているのはあなたの頭です。歳上を敬いなさい」


 ガツンと言ってやりましょうね。私流の優しさです。ニラやナタリアみたいな良い子にお育ちください。


「はぁ!? チョームカつくんですけどぉおお」


 こっちのセリフですが、もういいです。

 この子は見捨てましょう。いえ、こんなヤツでも、聖竜様に将来を祈ってやりましょう。それが私に出来る最大限の慈悲です。


 アデリーナ様はどこだろう?

 お母さんは竜の巫女の近くに移すって言っていたけど、全く見当たらないわ。



「ちょっとだけ宜しい?」


「なんだ? 早く去れ」


 タメ口っていうか、攻撃的なのよね、このクソガキは。


 ぐっと我慢して質問する。

 そう私には時間がないのです。ナタリアのお姉さん召し使いの貞操の危機なんです。いえ、もう知った段階で危機の先に行ってしまっていると思うのですが、より一層の悲劇を食い止めなくてはいけません。


「この辺りで人を見られませんでしたか? 金髪で慇懃無礼な人。あと、背の高くて声の大きい人も」


「……見てない。さぁ、去れ」


「そうですか。残念です」


 言われなくても、あなたにもう用はありません。



 ん?


「迷子?」


「違う。去れ」


「いえ、私がです」


「知らねぇよ!」


 ラナイ村はどちらなんでしょうか?

 アシュリンさんの様に木を登ってみますか。



 私は一番大きな木に目星を付ける。うん、これが良さそうです。手を回しても四人くらい居ないと幹を一周できそうにないくらい太いです。



 フルスイングで、幹に拳をぶつけます。

 ちょっと血が出ましたが、これは回復魔法で何とか出来ます。


「おい! 怖いだろ。何してるんだよ!」


 クソガキが喚くのは無視です。早く去りなさい。



 縁がささくれ立っていますが、ちゃんと幹に窪みが出来ています。

 次は上段突きで同じ様な陥没を樹表に作ります。もちろん、先ほど使わなかった方の手です。当たり所が悪くて指の骨が折れました。


 痛い。でも、回復魔法で両手とも治します。


 次に両足を窪みに入れて木を両手を広げて抱く感じで木にしがみつきます。それから、手先に力を込めて樹皮を穿ちます。体を固定する大事な工程です。立派な木なので、思ったより堅くて爪が剥がれそうです。

 で、右手を外して至近距離からボディー狙う感覚でアッパーを木にお見舞いします。力が入りにくい体勢なので何回も。森に音を響かせながら10回も打つと、凹みが出来るのです。これは足場です。両手を治してから一段上に足を運びます。


「マジこえぇよ……。新種の魔物かよ」


 ふざけた事を言わずに、さっさっと去りなさい。


 何回も繰り返すことで、私は太い最初の枝に到達し、あとは簡単に眺めの良い所まで登った。



 うー、樹海よ、これ。

 山は見えても家の屋根なんか見えません。


 が、キョロキョロすることで、煙を発見しました。

 丁度、昼時だったんですね。ご飯の用意をしているのでしょう。あちらが村の方向に違いありません。


 そして、もう一つ幸運にも発見がありました。


 降り際に、とても大きな蜘蛛を発見したのです。ノノン村の皆は、犬蜘蛛と呼んでいます。よく野犬を食べている姿を見るからです。

 巣を張るタイプでなくて、ジャンプして獲物を獲るのですが、私を狙っているようですね。


 目が合う前に炎の雲を出します。

 すると、ほら、足を縮めて木の下へ落ちました。



 ラッキー!

 お昼ご飯をゲットです。


 下からクソガキの悲鳴が聞こえましたが、まだいたのでしょうか。


 盗まれないように急ぎましょう。



「おい! 魔物を狩るなら、先に言え!」


 地に着いた途端に、また生意気を言ってきます。


「それは私の獲物ですよ」


「分かっている! 冒険者風情が偉そうに言うなっ!」


 ふん、私の正体を知って、驚愕すれば宜しいのよ。


「竜の巫女」


 見習いを端折って自己紹介です。その方がカッコいいもの。


「!?」


 ふふふ、驚いて声も出ないのね。


「……どこの間者だ? シャールから付けていたか」


 あれ?

 どうもおかしいわね。



 胸元から刃物を出されたので、先手で前蹴りを入れたのですが、後ろに跳んで避けられました。


 幼い姿に惑わされて、動きが鈍ったかな。

 甘いです、私。

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