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不憫ですが

 日が暮れ始めました。

 今晩はアシュリンさんが寝ずの番をするそうです。私も名乗り出たのですが、何かあれば起こすとのことでした。アシュリンさんは、寝なくとも平気な人なのでしょうか。



 さて、私はアシュリンさん以外を寝床に案内します。


 落ち葉で出来た布団です。我ながらたくさん集めましたと感心します。



「……メリナさん、これは何でしょうか? 落ち葉がこんもりと集められています。夕飯は先ほど食べましたし、警備のための篝火でしたら煙が立たない魔法の方が宜しいのですよ?」


「この中で寝るのです」


「!? 虫とかいらっしゃるでしょ?」


「たまには、いるでしょうね。アデリーナ様には、特別によく乾いた上等の葉を選別致しました」


「……メリナさん、どのように寝るのか見せて頂けませんか?」


「はいっ!」



 私は足から落ち葉に体をモゾモゾと入れていく。そして、顔だけを出した体勢になった。


「……ミノムシ……みたいですよね」


 アデリーナ様の呟きにナタリアが少し物憂げに笑った。



「あなたもこちらへどうぞ、ナタリア」


 私は誘う。もしかして経験がないのかしら。大昔の英雄物語にも出てくる由緒正しい寝方なのですが。その方は裸で入られたらしいです。


「ナタリア、覚悟を決めなさい。これくらいは耐えないといけません。あなたは1日、メリナさんと一緒なのですよ」


 その通りです。ノノン村まで歩くのです。体力回復のために寝ないといけません。寝不足は判断も鈍くしますし。


 だから、


「アデリーナ様も入るんですよ?」


「分かっています!」




「メリナっ! この残ったドングリは食べて良いか?」


「えぇ、いいですよ。すみません、アシュリンさん。一晩宜しくお願いします」


 私は葉に埋もれたまま答える。


「あぁ! 任せろっ!」


 枕も用意すれば良かったなぁ。

 私は木々の間から見える星々を見ながら思いました。


 アシュリンさんは火を焚かずに見張るんですね。村人による山狩りを一応警戒されているのか。


 さて、寝ましょう。おやすみなさい。

 カサカサと音がするので二人も入られたようですね。




 どれだけ眠ったのか分かりませんが、アシュリンさんに起こされました。まだ周りは暗いです。


「飯だっ!」


 ありがとうございます。見張りの上にご飯の用意まで!


 私は勢いよく立ち上がる。

 落ち葉がバサッと周りに飛び散って、アデリーナ様のお顔に掛かる。


「なんて目覚めなんでしょう」


 片手で落ち葉を払いながらアデリーナ様も起きられました。


「髪の間にもゴミが入り込んでいるわ。もしかして、虫もいるんじゃないの?」


「確認しましょうか?」


「……えぇ、報告は不要ですので見て下さい」


 私はアデリーナ様の髪を掻き分ける。ついでに、ナタリアのも見てあげる。


「終わりました。やっぱりいましたね、黒くて艶々し――」


「はいはい! ご飯ですよっ」


 アデリーナ様に遮られました。せっかちさんですね。



 朝御飯は果物でした。黄色い林檎みたいなの。


「アシュリン、お手柄です。メリナさんの草からすると、全てが御馳走に見えます」


 くやしいですっ! 私だって探せば果物の一つや二つくらい用意できましたよ。

 時間を優先させたのですよ。ご理解下さい。


「私も採ってきますね。もっと大きいのを知っています」


「やるのかっ!? 私も負けんぞっ」


 私とアシュリンさんは睨み合います。視線と視線がぶつかって火花が飛び散るが如くです。

 ここは私の慣れ親しんだ森ですよ。素人のアシュリンさんが勝てるはずがないのです。


「時間が勿体無いでしょう。お止めなさい。メリナさん、それはお昼にナタリアさんにご馳走なさい」


 アデリーナ様、分かりました。この可哀想な元奴隷、ナタリアに森の逸品を用意致しましょう。ノノン村へ急ぐのでそれは叶わないかもしれませんが。


 ナタリアの頭を撫でたら、体を固くされました。楽しみにされているのですね。



「では、行って参ります」


「……す、すみません。私も竜の巫女様と……」


 ナタリアさんがアデリーナ様との別れを寂しがりました。


「あなたはメリナさんと共に安全な所に向かいなさい」


「お任せください。私が最速で連れていきます。なので、全力を出すご許可をお願いします」


「分かりました。善処してください。……でも、無茶は止めて下さいよ。ナタリアさんは、一般人ですからね。あなたと居ること自体がとても危険だとも思えるのです」


 ご冗談を。


「それから、もしかしたらエルバさんは本当にノノン村にいるかもしれません。情報は集めてください。それでは、アシュリンさん、行きましょう」


 そう言うとアシュリンさんとともに去っていきました。私とナタリアはその背が消えるまで見送ります。



「それでは私たちも行きましょうか」


 不安な顔を見せるナタリア。不憫ですが私を頼りにしてください。


 では、道を作りましょう。



 私は願う。


『聖竜様、私、メリナです。お力をお貸しください。この森の中にノノン村の手前まで道を作りたいんです。あっ、ノノン村は焼いては行けませんよ。その手前まででお願いします。炎をたっぷりお出し下さい』


 前に出した私の両手から赤い炎が射出され続ける。まだ夜は明けていないから、この光の量では森の外からも目立ってしまうかもしれないけど、構わないです。村人が追ってきたら、それなりの対応を致しましょう。

 木々を薙ぎ倒していく炎を見ていると大変に気持ちが良いです。

 シャールの森の時ほど道の幅も要らないと考えましたので、魔力も少なくて済み、私の体もそんなに重くなりません。



「バカがまたやってるわっ!!」


 アデリーナ様の声が遠くから聞こえてきましたが、ご許可を頂いていたので問題無いです。アシュリンさんの事でしょう。



 炎が消えた所で、ナタリアの両脇に手を入れて持ち上げます。で、肩車です。

 足をじたばたして抵抗されている気もしますが、ラナイの村が恋しいのかもしれません。召し使い扱いであっても、長年住むと愛着が湧くのでしょうからね。


「動かないで下さいね、ナタリア。落ちると命を失うかもしれません」


 私の忠告にナタリアは黙って従ってくれました。足が小刻みに震えている気がしますが、武者震いだと思っておきましょう。


「最速で行くとアデリーナ様と約束しましたからね。ちょっとだけ我慢してください」



 私はもう一つ魔法を使います。


『私は願う。全力で走りたい、地面を蹴りたい。魔物を蹴散らしたい。だから、私に力を。そういった力を私に与えて』


 漲る衝動。あらゆる物を破壊できそうです。

 あぁ、でも、両手に持つ、この細こい足は握り潰してはいけませんね。壊すのも面白いのかもしれませんが、色々と面倒が待っていそうです。



 ククク!!

 さぁ、行きましょうか!!


 道の脇から何か出てこないですかね。

 走りましょう。獲物を求めて。


 風を切って進んでいくと、視界が血色に染まっていきます。

 もっと染めたい。

 あぁ、首の後ろに弱いのがいるのに、これの血は流させてはダメなのですね。



 グアアアアア!!


 欲望を抑えるためには叫ぶのが一番です。



 気付けば、私は道の端っこまで来ていました。

 ナタリアを優しく下ろします。もう震えは止まっていました。良かったです。

 あれ? 眠られていますか?

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