仕事だっ!
昨日は夕食も取らず、朝までぐっすり眠ってしまいました。同室のシェラもマリールも私を気遣って寝かせてくれていたのかな。
いつもすみません。
で、小鳥の囀りで私だけ目を覚ましています。マリールは油断ならないヤツだけど、今日はちゃんとスヤスヤおねむの様ですね。
私の視線は隣のシェラに向かう。
おぉ、凄いなぁ。上掛けがずれていて、上半身が出ているんだけど、でっかいなあ。シェラは細身じゃないけど決して太いっていう訳でもない。なのに、あの大きさは奇跡よね。
……中身、入ってんのかな。
ゆっくり上下するそれを指でそっと押してみた。
なるほど。こんな感じか。
柔らかいな。指がどこまでも入って行きそう。
ダメダメ。こんなのマリールに見られたら、また変に絡まれるわね。
ということで二度寝です。聖竜様と同じく、睡眠は心地良いものなのです。
魔物駆除殲滅部の小屋に入ると、アシュリンさんが椅子に座って机に向かっていた。
「おはようございますっ!」
「うむ」
書面から視線をずらさずに返答された。アシュリンさんの性格を知っているから悪くは思わないけど。
「仕事だっ!」
ようやく私の顔を見たアシュリンさんは唐突にそんな事を言う。
「仕事ですか?」
遂に来ましたか。長かったです。
着々と見習いとして学んでいたシェラやマリールに対して焦りを感じておりました。
「何をすれば良いのでしょうか?」
「調査部のエルバ部長の探索だっ!」
それ完全に巫女長様からの命令じゃないの。昨日、そんな話をしてたわよ。
「魔物駆除ではないのですね?」
「神殿上層部からの直々の命令だ。確かに魔物駆除ではないが、オロ部長からも宜しく言われている」
上層部というより完全にトップですけどね。
「分かりました。それが聖竜様の為になるのであれば、何でもします」
「あぁ、元より貴様に拒否権はないっ!」
そうですよね。
「気合いを入れていけっ! 昨日もフローレンス様の所から帰って来ないと思ったら、部屋で寝ているとは。正直、驚いたぞっ!」
また私を探されたのかしら。だって、する事ないじゃない。強いて言うなら、眠たかったのが悪いかな。つまり、私は悪くない、きっと。
「ランニングするなりして持久力を上げろっ! オロ部長のお言葉を忘れているのかっ!?」
徹夜明けで、そんなのしたら死ぬわよ。アシュリン、あなたと同じに思わないでよ。
だから、無視します。
「どこに向かうのですか?」
「あぁ!? ……ラナイ村だ」
それ、私の村の近くですよ。何を調査しに行ってるの?
「馬車の準備は出来ている。行けるか、メリナっ!」
いきなり言われても無理ですよ。
村の皆にお土産物も買わなくちゃ。
「部屋に戻っても宜しいですか? その村は私の里に近いのです。お土産代を取りに行きたいのです」
「土産なら神殿の売店でツケ払いにすればいい。行くぞっ!」
アシュリンさんは強引です。私も心の準備が出来ていないだけなので、今、出発しても問題ないのです。その辺、アシュリンさんも知っているんだろうな。
逆に土産を買わせてくれるアシュリンさんが優しく感じました。ノノン村に寄る時間を下さるのかな。
アシュリンさんに案内された売店は、本殿の参拝客の通路出口にあった。
そこで、シェラに会いました。何でも休憩に入ったところで、蜂蜜入りの絞り果汁を買いに来たとのこと。さっきまで礼拝部で何をしていたのか知りませんが、少し額に汗が滲んでいます。
「シェラ、すみません、今日から数日、仕事で寮に戻りません。突然ですみませんが、マリールにもお伝えください」
「まぁ、本当に大変ね。シャールの外に出られるの? 気を付けてくださいね」
「シェラも毎朝のマリールのモミモミにご注意してね」
私は明るく冗談で返す。
「……気のせいかもしれませんが、メリナ、今朝、私を、その……お触りになられませんでした?」
ばれてた! 私はぎこちない笑顔で否定する。
「メリナ、早く選べっ」
意図せずでしょうが、アシュリンさんが、その話題を止めてくれた。有り難いことです。
でも、そう急かさないでよ。最近はシェラとゆっくり話も出来てないのよ。
「何を選ばれているのでしょう?」
果汁をストローで飲み終えると、シェラが私に聞く。
良かった。シェラも今朝の事は然程気にしていないのね。
私は親や近所の人へ土産を買いたい旨を伝えると、シェラは小麦と蜂蜜を練った菓子を勧めてくれた。
「シャールの名物ですよ。是非どうぞ」
はい、是非もなし。私はそれを数箱買う。もちろん、ツケで。
「巫女割引」とかで半額になるらしいけど、値段は分からないわ。だって、アシュリンさんが早く選べと言うんだもん。
シェラに軽く会釈して、私は先に進む先輩の後を追った。
向かった馬車にはアデリーナ様が待ち構えていました。
この人も仕事してないんじゃないかしら。
「私は新人のお目付け役よ。メリナさんが無茶しないか心配でならないのです。だから、同行致します」
機先を制して、アデリーナ様はそう言います。まるで、私の心を読んだかのようです。
「それにカトリーヌさんからもお願いされたのですよ、メリナさん」
部長、もっとマシな人選をお願いします。優しい人を希望します。
「あと反省文がまだ出て来ないのです」
あっ! 覚えていらっしゃるの?
……すみません、捨てております。一晩起き続けた眠気と聖竜様にお逢いした高揚感で、私の思考が乱れていたので御座います。面倒だったのでは決してないのです。
背中に汗が出てくるのを感じながら、私は平静を装う。返答はしない。
「これだろ? 昨日、部屋の掃除をしていたらゴミ箱に入っていた」
アシュリン!!
「……メリナさん……。 馬車の中で、ゆっくり書きましょうね」
はい、覚悟を決めました……。すみません。
だから、アデリーナ様、表面だけの笑顔は止めて下さい。
メリナと名前が被っていたので、調査部長の名前をリナからエルバに変更しています。




