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メリナ様、好きです

 アデリーナ様から解放されて、私は魔物駆除殲滅部の小屋に行く。近くの畑から手を振ってくれる巫女さんがいた。昨日、薬師処まで案内してくれた人だ。

 私もペコリと挨拶して通り過ぎて、小屋に入る。



「メリナっ! 貴様、一発殴らせろっ!!」


 アシュリンさんも激おこでした。お外に聞こえるので勘弁して下さい。


「嫌です。でも、すみませんでした。ご心配をお掛けしました」


 アデリーナ様との会話から省みました。早めに事態を鎮火するのが重要です。


「あぁ、だから、早く殴らせろっ! そこに直立しろっ!」


 ボコッ!


 アシュリンさん、喋っている最中なのに殴り付けに来ました。速いけど避けれない程ではなかった。でも、私は頬に受けました。

 猿と戦っている時の様な鋭さはアシュリンさんの拳になくて手加減していることも分かりましたし。


 衝撃が首に来たけど、踏ん張る、頑張る。頬骨に当たって、とても痛い。アシュリンさん、どうせなら頬肉の部分を狙って下さいよ。


 でも、これでアデリーナ様の反省文を書く必要がなくなりました。何故ならば、既に鉄拳制裁を受けたのですから。


 私はアデリーナ様から貰った紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に放り投げる。更に怒られる気もするけど、あくまで一抹の不安よ、大丈夫。眠いのに、そんなの書いてられないわ。



「ふん。初日と違って殊勝な心掛けだな。良し、許してやるっ!」


「嫌だって言ったんですけど、容赦なく殴って来るんですね。でも、本当にすみませんでした」


「もういい。私はコウモリの羽根を薬師処に渡してくる」


 アシュリンさん、切り替え早いな。


「メリナ。お前は疲れているだろ、少し休んでおけ」


 はい。アシュリンさんの優しさが心に沁みます。


「ありがとうございます。でも、アシュリンさんの方こそ、お疲れではないでしょうか?」


 下手したら二日寝てないでしょうに。


「アデリーナの馬車で仮眠した」


 あんな暴風みたいな乗り物で!? 揺れて揺れて揺れまくりでしたよ。風や車輪の音も大きかったし。

 凄いよ、アシュリンさん。




「あと、すみません。フローレンスさんってご存じですか? お会いしたいのです」


「後だ。とりあえず、薬師処に行ってくるっ!」


 そのまま、アシュリンさんは黒いコウモリの羽根を担いで外に出ていった。



私は言葉に甘えたつもりはないけど、椅子に黙って座っていたら、いつの間にか眠りに入っていました。




 アシュリンさんの拳骨で、文字通り叩き起こされる。


「おい! 安心して眠るヤツがいるか。 ここは戦場だと思えっ!」


 街のど真ん中の神殿ですよ。無茶言わないで下さいよ。休めって言ったのはあなたなのに、理不尽です。


「行くぞっ!」


「どこにですか?」


 私は打たれた脳天をさすりながら訊く。


「あぁ? お前を探索してくれた冒険者たちに礼を言いに行くぞっ!」


 おぉ、それは行かなくちゃ。



 神殿の入り口までアシュリンさんと向かう。

 そこには大きめの水路があって街と神殿を分けている。掛かる橋も大きくて馬車が四台は並べそう。それくらい幅広なのに長さは精々十数歩だから橋って言わないのかもしれない。



 で、ニラさん達の三人組の冒険者が橋の向こう側に立っていました。街中で見ると余計に見窄らしい格好です。やっぱり生活が大変なのね。

 アデリーナ様から貰った報酬で良い服を買って欲しいな。



「皆様、大変感謝しております。この度の粗相、申し訳ありませんでした」


 私は心から謝罪する。


「メリナ様、お顔を上げてください! 私も巫女様達のお役に立てて本望です」


 そう言ってから、ニラが私に飛び込んできた。少しだけニラの方が小柄なので私が抱える形。


「メリナ様、好きです」


 ん?


「私もニラが好きですよ」


「ほんと、嬉しいです。お姉さんになって下さいね」


 ん? うん。

 荒くれ者達を退治した時の騎兵の分隊長マンデルみたいな嫌らしさは感じないから、いいのかな。愛の告白って感じじゃなさそう。

 ちょっとビックリした。



 ニラが私から離れた所で、アシュリンさんが言う。


「すまんな、貴様ら。また神殿に遊びに来て良い。その際はこのアシュリンを呼ぶが良かろう」


 悪評高いアシュリンさんを?

 でも、今日はアシュリンさんの顔を立てて黙っておこう。



 三人が去って後ろ姿が見えなくなったのを見計らって、アシュリンさんが私に呟く。


「あの娘、獣人だな」


「何故、分かるのですか?」


「雰囲気だっ!」


 ちょっと説明になってないわね。


 でも、うん、何となく私も分かる。

 獣人の子は成長が早いとか聞いたことがある。人間の倍くらいの早さで大人になるんだったかな。

 ニラは私と同い歳くらいなのに、行動が幼い気がするんだよね。


「困っていたら助けてやれ、メリナ」


 ちょっと私は笑ってしまった。

 だって、がさつなアシュリンさんが聖竜様と同じことを言うんだもん。


「えぇ、もちろん」




「さて、今度はフローレンス様だったか?」


 アシュリンさん、覚えていましたか。


「貴様、巫女長に何の用だ?」


 フローレンスさんは巫女長なの?

 私は黙ったままで、次の情報を待つ。

 で、アシュリンさんは追加で喋らなかったので、私が答える。



「聖竜様が困った時は頼れと仰ってましたので、事前にお会いしたいのです」


「どういう事だ?」


「実は今朝まで聖竜様の所にいました」


 アシュリンさん、凄く驚いた顔をしていた。


「すまんな、メリナ。そこまで酒に弱かったか。記憶障害とはな……。二度と貴様に酒は勧めん。本当に悪かった。反省する」


 ちょっ、気の毒そうに言わないでよ!

 百歩譲って、私が酒に弱いんだとしても、いつも通り「すまなかったっ!」とかで終わってよ!

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