私の部署
聖竜様が言葉を続ける。
『獣人が困っていれば助けて欲しい』
簡単です。分かりました。このメリナ、仰有る通りに致します。
「どのように獣人達を助けるのでしょうか?」
聖竜様のご意向をしっかり聞いておかないと。
『全てを救う必要はない。また、誰かを傷付ける必要もない』
それは勿論。普通の人間でも獣人でも関係なくお助けしますけどね。
街なんかだと奴隷として売買されてしまう子が多いみたいだけど、そういった子を助けるのかしら。
「聖竜様のお力で、全ての獣人を普通の人間にしてはいけないのですか?」
神殿の歴史の中で、怒った聖竜様が巫女さんを獣人に変えたという話をアデリーナ様から聞いたことがある。
本当の話なら、その逆も出来るのではと思いました。
『それは……無理だ。我の力では不可能』
そうですか、無理で御座いますか。
それもそうですよね。私の様な、一介の人間に協力を求めるくらいですもの。
『メリナよ、お主は獣人が嫌いか?』
「いいえ。好きでも嫌いでも無いです。……村にいた頃は可哀想だとは思っていました」
折角生まれたのに祝福されないなんて、おかしいもの。
『そうか。……可哀想か』
聖竜様は呟いた。それから、また私に問い掛ける。
『メリナよ。獣人、特に助けを求める獣人を見た時は助けよ。お主の手に負えない場合は、フローレンスを頼れ』
……フローレンス?
あっ、フ何とかさんだっ!!
私を神殿に紹介してくれた人だ!
やっと思い出しましたよ。
「分かりました」
フローレンスさんが何者かはアシュリンさんに聞こう!
「でも、どうしてですか? どうして獣人だけを助けるのですか?」
『普通の人間であれば、我が言わなくとも誰かが助けるであろう。獣人として生まれるのは秩序の一貫である。そうではあるが、救われる者もいて良かろう。それも運命である』
秩序の所はよく分からないけど、私に可能な限りでお助けすればいいのね。了解です。
「ただ、私は魔物駆除殲滅部に配属されています。そのお仕事との兼ね合いはどう致しましょうか?」
『……ん?』
あれ、聖竜様が少し戸惑った感じでした。
長い部署名だから聞き取れませんでしたか。
「神殿では魔物駆除殲滅部に所属しています。そちらの仕事もあるので、どうしましょうか」
実際には何も仕事してませんけどね。でも、まだ十日も経っていないからなのかもしれないし。
『……何それ?』
すっごい素で返された。いえ、私の説明が悪かったのかしら。
少しして聖竜様が笑われる。
『グハハハ! 巫女どもは、また奇怪な部署を作ったのだな! 良い、メリナ。お前の好きなようにするが良い』
好きにしろと言われても困ります。あと、釈然としません。何しろ、巫女らしい事は一切してないのですよ。加えて、魔物駆除も正式にはしていないのではないでしょうか。成り行きでゴブリンと猿を倒したくらいです。
「……聖竜様は私の部署をご存じ無かったのですか?」
『神殿などと言う物自体が、我が作ったものではない。そもそも、神殿にいる今の巫女のうち、我が声を聞いた事がある者は10名もいまい』
なんと!
私にもお声は聞こえていなかったのですが、ほとんどの人が偽者ですか。巫女になる条件は『聖竜様の声が聞こえる』ですよ。あのアシュリンさんも聖竜様の声が聞こえたから軍を除隊して巫女になられたのですよ。
「そ、それで良いのですか?」
聖竜様がお怒りでないから、お許ししているのでしょうけど。
『人間には人間のやり方がある。神殿がある方が巫女にとって都合が良いというのであれば、それで良かろう。偽の巫女が幅を利かせても、我の声や意思を民に周知する、それが大事だ』
……合理的ですね、聖竜スードワット様。
でも、これじゃ、たぶん、私の質問には答えてくれなさそう。
「あの、魔物駆除殲滅部って何をしたら良いのでしょうか?」
私の言葉に聖竜様はまた笑う。それから、優しく言ってくれた。
『分からぬ。民を守るんだろうとは思うがな』
「聖竜様はオロ部長をご存じありませんか? カトリーヌ・アンディオロという蛇のお姿の巫女です」
腕は生えているから、蛇そのものではないけど、こう言った方が分かりやすいよね。
『名前は知らぬが、姿は見たことはあるな。アレは私の巫女ではない』
「アシュリンさんは? えっと、うちの部署の先輩です!」
『巫女ではない。その者は姿も分からぬな』
ウソ。
うちの部署、私も含めて偽者の巫女しかいないじゃない。
そんな気持ちを察したのか、聖竜様がお続けになられる。
『気に病むな、メリナよ。些末な事だ。上手く全体が回ればそれで良い』
そう仰るなら、私もそれで良いです。
誰が本当の巫女かは追求しないで置きます。
『メリナよ。我が授けた魔力、使いこなせているか?』
聖竜様が長い首を少しもたげて、私に尋ねる。
授けて頂いた魔力?
えぇ、今日、いえ、昨日のかしら、昼間にも使わせて頂きました。森に道を作りました。素晴らしいお力です。
「お見せ致しましょうか?」
『あぁ。どこまで成長したか確認しよう』




