聖竜様との邂逅
とても良い気持ちで、思わず私は一人で森を散歩しました。
途中、アデリーナ様とかアシュリンさんが何かを言って来たのですが、煩いので炎の雲を壁の代わりに出して撒きました。
でも、水が飲みたくなって、あの聖竜様の泉の水が欲しくなったのです。
聖竜様の水。とても高貴でふ。いえ、です。
あぁ、でも、水よりも聖竜様に会いたいなぁ。しばらく会ってないなぁ。お願い、早く会わせて。
って、思っていたら、ここは何処なんでしょう!?
すっごく暗いです。あと、獣臭いです。ん、でも、どこかで臭ったことあるな。昔の靴の臭いに近いかな? 本当に碌でもない臭気です。安全を確保したら、すぐに脱臭魔法をお掛けしましょう。
木が見えないので、さっきまで歩いていた森ではありません。
何せ床があります。暗くて見えづらいですが、石詰めの立派なものです。綺麗に切り揃えてあるので、相当にお金が掛かったものでしょう。
変な遺跡に踏み入れてしまったのでしょうか。さっきまでは森だったはず。
お酒って怖いです。
あれ? 頭は痛くない。量が少なかったのかな。さっきまでの高揚感も消えている。
私が一歩踏み出すと、灯りが付いた。
変な棒の先にランプがあるのね。魔法式のランプだ。
でも、周辺しか明るくならなくて、意味がありません。
進むと、また別の棒に灯りが付く。で、さっきまで灯っていたランプが消える。なるほど、私の周辺だけが明るくなるのね。
これ、まずいわ。
魔物がいるなら、完全に狙い打ちにされるじゃない。隠れられないわ。
光を出してみましょう。とりあえず、視界を確保しないと。
『私は願う。天井に光が灯って。熱くないヤツ。光だけ。ここをしばらく照らしてね』
魔法は発動して、煌々と全体を照らす。
天井高い!
で、前方も横も壁だ。
大きな扉もあるけど、見たことがないくらい豪華なヤツだ。
これ、部屋なのかしら。
魔物は一切いない。というか、生き物の気配がしない。
念のために後ろも確認する。
!!!!!
いらっしゃった!!!
白い竜、聖竜様、スードワット様が目の前に鎮座なされているっ!!
どうしてっ!?
私は足の力が抜けて、座り込む。
『お前は何者だ!?』
聖竜様が喋られた。昔と同じ、お腹に響く重低音で。
「わ、私です。メリナです。お、覚えておられませんか、スードワット様っ!!」
ちょっと涙も出ちゃうよ。感動とは、この事だったのね。
スードワット様は即答でした。
『知らぬ』
久々の再会だというのに、冷たいのですね。グサッと来ました。
しばし沈黙。
心臓の鼓動も落ち着いて私は立ち上がる。
先にスードワット様からお言葉を貰う。
『人間の娘よ。転移魔法が暴走でもしたのであろう。地上に戻してやろうぞ』
「お待ち下さい。私ですって、……白い竜さん」
昔はこう呼んでいた。思い出してくれるかな。
『……懐かしい呼び名だ』
スードワット様は静かに、そして、どこか遠くを見るように仰る。
「思い出しませんか? 手を使わずに石を割れって言われて、頭で割ろうとした私を?」
当然割れる訳がなく流血騒ぎでした。
スードワット様が回復魔法を慌てて掛けてくれたのです。
『おぉ、おお!! あのメリナか!?』
やった。思い出してくれたのかな。
『そうか。あの幼子がな。人間の成長は早い』
そう、そうです!
覚えていらっしゃいましたか!?
とても嬉しいです!!
「改めまして、聖竜様。何故か分かりませんが、またお会いでき大変嬉しいです」
私もやっと聖竜様をゆっくりと眺める。
大きい。小山ほどあると思う。
そして、純白の体。とてもお綺麗です。
背中に生えた羽根もご立派で、こんな部屋におられるのが勿体無いです。自由に空を飛ぶべきだと、僭越ながら思うのです。
『どうだ? 息災か、メリナ』
慈愛に満ちた声が私の体を揺さぶる。
「はい。今は聖竜様の神殿で巫女見習いをしております」
『……我はメリナを巫女に呼んだのか?』
えっ。
「……呼ばれてはないですよね?」
薄々感じておりました。私はフ何とかさんにスカウトされたのであって、聖竜様のお声は無かったのです。
『ガハハハ、まぁ、良い! お主であれば、我の声も聞こえようぞ』
宜しいのですか。ここ数年、全くお会いできなかったし、声なんて一切聞いていませんが。
「聖竜様、巫女とは何なのでしょうか?」
私が魔物駆除殲滅部であることは、まずは伏せます。すみません、聖竜様。
『我の手足、そして、口となる人間だ。我はここから離れられない』
「喜んで手足となります。何をすれば宜しいのですか?」
『……この地を守って欲しい。危機が迫れば、我は巫女に伝える。巫女はそれを他の人間に伝える。それが務めだ』
危機って何でしょう。そんな事あるのかな。
「分かりました。聖竜様のお声を皆に伝えます。ですが、具体的にはどういった危機が有るのでしょうか? 他国との戦争でしょうか?」
『メリナよ。これは非情に聞こえるやも知れない』
一旦、聖竜様はお言葉を区切る。私はそのまま次のお言葉を待つ。
『人間同士の諍いに我は関与しない。人間に仇なす者が出現した際に、告げようぞ』
私は無言で頷く。
『そして、もう一つ』
聖竜様は厳かに私の目を見ながら続ける。




