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思い返してみよう

 焚き火の周りに男女三人の冒険者が座っていた。女の子は三角座りで頭をこっくりこっくりしながら寝ているわね。



「お務め、お疲れ様でした。遅くなってすみませんね」


 アデリーナ様が三人に朗らかに声を掛ける。それから胸元から財布を出した。とても可愛らしくデフォルメされた蛙の財布です。王家の方には全く似つかわしくないタイプです。

 その口の部分を開いて、何枚かの貨幣をお出しです。


「忘れてはいけませんからね。こちら、今回の依頼料となります」


 ……金貨だ。枚数的に私の全財産より多いですよ。


 約束した額よりも遥かに多くを渡された男の人が慌てふためく。騒ぎに目を覚ました女の子も合わさって遠慮していた。


「いいのです。お受け取り下さい。大変感謝しております」


 三人組は同時に深くお辞儀してくれた。

 アデリーナ様、グレッグさんにも何か差し上げるのでしょうか。でも、グレッグさんはただ付いてきただけだから、報酬を払うのはおかしいですよね。猿の牙をもう差し上げましたしね。



「さぁ、ご飯にしましょう」


「もちろんだっ!」


 アシュリンさんが気合いを入れて答えた。



 私たちは手分けして、かなり遅い夜食を作る。少々暗かったので、焚き火を増やした。

 私が魔法で火を作ったら、女の子が凄く誉めてくれた。嬉しいです。



「うまいな、この汁っ!」


 汁じゃない、スープって言いなさい、アシュリンさん!

 でも確かに美味しい。濃い味なのが、パンを浸けると丁度良くなる。


「そうか。そう言われると照れるな」


 グレッグさん、あなた、料理屋になるべきよ。今すぐ貴族の肩書きを外されては如何でしょう。きっと天職ですよ。

 そこまで言うと気分を害されること、間違いなしなので黙っていますけどね。



「竜の巫女様とその従者の方々ですか?」


 女の子が私に訊きながら、直火でトロリと柔らかくしたばかりのチーズが乗せられたパンを私にくれた。

 頭に載せた茶色い帽子が可愛い。

 帽子か、そう言えば、巫女さんになったら、アシュリンさんが初日に被っていた白い帽子も貰えるのかな。


 一口で香ばしいパンを頬張り、飲み込む私。

 これも美味しいよ。アデリーナ様がご用意された食材だから、どれも高級品に違いない。


「私は巫女の見習いなんです。そちらのアデリーナ様と、背の高いアシュリンさんは巫女です。こちらのグレッグさんは……」


 グレッグさんは、何だろ。冒険者でいいのかな。


「俺は騎士見習いだ」


 そうだった。忘れていました。



「聖竜様にこの出会いを感謝致します」


 女の子は手を胸に当てて、空を見る。

 言葉だけでなく、聖竜様を敬愛しているのが良く分かる。


「巫女見習い様、あなたのお名前は?」


 女の子の興味を引いたみたいで、ぐいぐい私に質問してくれる。


「メリナです。あなたは?」


「メリナ様! 私はニラです。お昼間の魔法、とても嬉しいんです! また神殿にお邪魔しても宜しいですか!?」


 あの脱臭魔法ですね。えぇ、私も大変満足していますよ。

 でも、神殿に来てもらっても良いのですかね? 私はアシュリンさんを見る。


「構わないぞ。メリナは暇をしているからな」


 なっ! 確かに暇しているわよ。否定はしないわ。

 だとしても、私を慕ってくれている女の子の前で言わないでよ。


「ありがとうございます。メリナ様、巫女様の見習い様とはどんなお仕事なのですか?」


 どんな?

 私が知りたいのですよ、ニラ。

 

 思い返してみよう。

 一日目は、アシュリンさんと勝負。

 二日目は、オロ部長と勝負。

 三日目は……アシュリンさんと競走。

 四日目は、アシュリンさんを肩車。

 五日目は、昨日か。荒くれものと勝負……。

 で、今日は猿やゴブリンといった魔物と勝負。


 うん、半分以上が戦闘でしたね……。しかも、残りも体力勝負。

 何これ!?


 『メリナ、巫女になってお淑やか計画』は全く進行していない、っていうか、逆走中です。村にいた頃よりも酷いです。


 ニラの眼差しが痛い。そんなに見ないで下さいな。


「……日々、鍛練の……日々でしょうか」


 私のか細い回答に、アデリーナ様が軽く笑ったのを見逃さない。面白がってるわよ、あの人。


「毎日、お祈りの練習とかするんですか!?」


 えぇ、礼拝部のシェラはしていると思いますよ。

 私はアシュリンさんのお相手です。修行みたいなものですね。


 答えに窮して、私は地面に置いていたコップから水を飲む。


「クハハ、メリナは肩車で街中を歩く練習をしていたぞっ」


 ……アシュリン、恨みます。また、マリールのお店でお前を乗せて走り回ってやりますよ。


「私の知らないお祈りの方法なんですね。素敵です」



 目を反らしましょう。居た堪れません。


 グレッグさんと男の子二人は楽しそうに談笑しています。お薦めの獲物とか依頼を教え合っているみたいですね。

 グレッグさん、まだ冒険者経験一ヶ月なのに偉そうです。


 あら、アデリーナ様はグラスに入ったお酒を一人で煽っています。

 うん? グレッグさんのグラスにも赤い液体が。えっ、アシュリンさんのもですか?


 私のコップに入っているのは透明な真水です。何回見ても綺麗に透き通っています。

 グラスじゃなくてコップなのは数が足りなかったということで分かりますよ。でも、中身が無色透明なのはどうして?


 ニラのは、……赤い……。赤いですね。赤いよね。……おかしいな。



 驚愕です。

 私のだけ、水です。勝利の美酒とは何だったのでしょうか!?

 これは明らかな差別ですねっ!

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