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扱い難いわね

 最後の一匹の胸を正確な矢で射ち貫いたところで、アデリーナ様が私に声を掛ける。


「まだですよ、メリナさん。アシュリンに魔法を掛けたヤツが出てきていません」


 そうか。そうよね。こいつらだけでは無いか。そして、我らがオロ部長も出てきていないです。


「メリナ、この猿どもは蟻猿だっ。思い出した!」


 蟻の猿? にしては、普通の形の猿よね。そこまで小さくもないわ。


「メリナさんは御存じないの?」


 アシュリンさんに続いてアデリーナ様が私に訊いてくる。グレッグさんに目を遣ると、彼も知らないと首を横に振る。


「蟻のように役割分担がはっきりした群れを持つ猿ですよ。今、倒したのは雑兵。働き猿」


 『働き猿』って、とても真面目に生きている良いお猿さんに思えてしまったわ。それを殺めた私たちは極悪人ですね。


「そうだっ、私も最初はあいつらを倒したっ! 更に奥に進んだところで道に迷いだしたのだっ」


「たぶん、魔法を使うこともある兵隊猿か近衛猿に近付いたのでしょう。女王猿の近くに待機していると聞いたことがあります」


 オロ部長はそっちに向かったのかしら。



「どうします? 潰しますか?」


 私はアデリーナ様に尋ねる。


「えぇ、勿論で御座います。アシュリンを襲ったことを命で償う事が必要でしょう」


「部長を置き去りには出来んだろ。行くぞっ!」


 分かりました。私もそのつもりでしたよ。


「グレッグさんは、ここで待機されますか?」


 アデリーナ様が訊く。グレッグさんの自尊心を傷付けるけど実力的にはその方が良いよね。


「……ああ。しかし、竜の巫女とは美麗であるだけでなく、ここまで凄まじい力も兼ね備えているものか……」


 美麗? アデリーナ様は勿論、うん、アシュリンさんも悪くないものね。その括りに私も含まれていると思っていいのかしら。猿をぶん回して戦った私も美麗で宜しくて?


「見習いとは言え、これからは国の軍事を率いる騎士の一員を名乗る事を躊躇わざるを得ないな」


 今更よ、グレッグさん。

 あなたは荒事ではない職をお目指し下さい。



「では、グレッグさんは途中まで来て頂いて馬をお守りください。あっ、その酒は飲んではいけませんよ」


 大変高価だからですよね。えぇ、昨晩そんな事を言われていたのは覚えています。クッソ不味いのに不思議とまた飲みたくなる、そんな妙な味でした。でも、一口喉を通った後の事は記憶に御座いません。

 今日も何回かアデリーナ様がその後の話題っぽい事を振ってくるのに返答しにくくて申し訳ないです。


「えぇ、戦勝の美酒と致しましょう」


 グレッグさんは呑気にそんな回答だ。

 高いのよ、それ。色と香りからして昨日のヤツと一緒だと思うから、グレッグさんのお父さんのだった領地を売ったとしても、それの瓶一本も買えない代物らしいのよ。


「そうですね。では、その至高の逸品を守護する大任、お任せ致しましたよ」


 言いつつ、アデリーナ様は笑う。

 そのお値段を私が心配しすぎただけだったのかしら。


「貴重な物ですからね。王家に献上しても喜ばれる代物ですから、絶対に死守して下さいな」


 無駄なプレッシャーをお与えになられたわ。この状況で楽しんでおられるのね。


 ほら、グレッグさん、お顔が引き攣ってるじゃない。



「アデリーナ、メリナ、進むぞっ。グレッグだったか、この死骸は集めるだけで、処分しなくて良い。戦闘後にオロ部長が食べられる」


 部長、本当に大食漢ね。何匹いるのか数えられないけど、アシュリンさん達が倒したのだけでも数十匹いるわよ。私サイドのは、黒焦げて判別出来ないな。


「分かった。俺は地点守備は得意なんだ。だけど、早めに帰ってきてくれよ」


 グレッグさんがそんな事を言いながら笑う。

 何の自信かは知らないけど、期待はしてないから。猿の死骸に魔物達が寄って来る前に戻るわね。


「メリナさん、あなたが火炎魔法と呼ぶ、超長距離攻撃魔法ですが、威力を弱めて撃てますか?」


 アデリーナ様が私に訊く。


「いえ、全力のみですっ」


 だって、聖竜様のお力を中途半端に使わせて頂くなんて、私には無礼すぎて出来ないわ。


 私の回答にアデリーナ様は不服そうだった。でも、ちょっと笑っていた。


「扱い難いわね、あなたも聖竜様も」


 ちょっと引っ掛かる言葉遣いだけど、アデリーナ様は、私よりも長く巫女さんをされているのです。聖竜様を使うなんて言う言葉も許されるのでしょう。

 あと、私は素直なので扱い易いです。



 グレッグさんに背を向けて、道を進もうとしたところで、右側の森の奥からドシンと音が聞こえた。小さな音だったけど、森では珍しい重い音。

 オロ部長だ!


 続いて、空に向かって火球が上がる。


 アシュリンさんを先頭に私たちはそちらへ駆けた。

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