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更に森の奥へ

「アシュリンから聞いていた通り、狂犬でしたね……」


 アデリーナ様が遠い目をしながら、私に言う。私の視界にも多くのゴブリン達の死骸が入る。


「そんな事ないです。懸命に頑張った結果です」


 私の反論にアデリーナ様が呆れた様子で言う。


「……頑張る方向性が私の思っているのと真逆でしたのよ」


 えー。



「メリナは魔法が使えるのに、何故肉弾戦を好むんだ?」


「グレッグさんが仰る通りです。もっと優雅にとは言いませんが、ここまで野蛮にすることはないでしょう」


 二人して私を責めるのね。


 どうしてって、それが私のスタイルだからよ。村ではそうした方が死傷者が少なかったから……。



「私が前に出た方が、皆さんがお怪我を食らいにくいと判断致しました。敵が私に注目致しますので」


「俺では盾に成り得ないということか」


 成り得ません。それは断言します。ただ口には出しません。


「戦力……。うん、戦力としては申し分ないのよね。贅沢な悩みなのかしら」



 ガソゴソとオロ部長が寄って来る。

 もうお食事は終えられたみたい。私の事よりも、こちらの方の丸飲みしまくりの件を注意されてはどうかなとか思いました。蛇だから良いのですか。


“お疲れ様でした、皆さん。敵は排除されましたので進みましょう。メリナもよく撃退してくれました”


 オロ部長のメモを見て、アデリーナ様も気持ちを変えられたようだ。表情が和らいだ。かなり信頼されているのが分かるわ。



「そうね。よし。メリナさん、何はともあれ、ご苦労様でした。泥臭い事も出来ると、今は評価致しましょう」


 はい、ありがとうございます。でも、ちょっとだけ私は傷ついてます。皆のために頑張ったのにな。



 あっ、泥臭いで思い出したけど、ブーツ、大丈夫かな。

 私は確認する。

 うん、どこも痛んでないわ。付いている血は乾かない内にゴシゴシしましょう。布はないので、葉っぱを使う。

 ん、取れた! 良かったわ。後は帰ってから洗いましょう。

 序でに脱臭魔法も掛けておきましょう。

 んー、汚れを取る魔法も欲しいところだわ。今度、ゆっくり開発しましょう。


 服? お腹と背中に穴が出来て、私の血と返り血で汚れまくりです。こちらは捨てるしかないです。気持ち悪いけど、帰るまでは仕方がない。露出の多い装備の方が水で肌を洗い流すだけだから、却って衛生的なのかも。



 皆で少しばかりの休憩を取った。水で喉を潤す。アデリーナ様はお酒も飲んでいた。森にまで持ってくるなんて、どれだけ好きなのよ。私が見ていると、慌ててお酒の樽に蓋をなされた。それも、何でよとか思っちゃいます。



「メリナ、少し疲れているだろ。馬に乗れ。走ってなければ、お前でも乗れるだろ」


 グレッグさんが気を使ってくれた。有り難い。さっきまでの魔法二発と脱臭魔法で確かに足に来ていると思う。


「どうぞ、メリナさん。ご遠慮なく」


 お二人の言葉に甘えて、私は馬に乗せて貰った。荷物がいっぱいあったけど、その上に更に私が乗る形で。馬さん、すみません。そんなに私は重くないですよね。


 偶然だと思うけど、私が心の中でそう謝った時に、馬がヒヒーンと嘶く。

 おぉ、何か感動です。通じ会う気持ちでしょうか。アデリーナ様にドン引きされた悔しさというか悲しみが癒されますね。



 私達は真っ直ぐな道を進む事を再開する。


 しかし、深い森ねぇ。今から戻ったとしてもシャールに着くのは夜よ。

 今日は森で一夜か。グレッグさんがいるから、トイレに困りそう。なんて、思っていたらオロ部長が活躍してた。


 オロ部長が穴を掘って、更に尾の方だけでとぐろを巻いて周りから遮断してくれる。もちろん、音とか臭いとかがすると嫌だから、特にグレッグさんは離れて貰った。

 なお、オロ部長も男の人のためには、そこまでしなくて、たまにグレッグさんはこっそり木々の向こうに行っていた。

 それに誰も触れない、妙な優しさが有ったわ。


 馬車を見守ってくれている三人組の冒険者さん達はこういう時、どうしているのかしら。女の子が一人だけだと、こっそり用を足すのも抵抗があるだろうなぁ。それとも、村の私がそうだったように見知った関係だから「ちょっと失礼します」で、分かる間柄かしら。



 下らない事を考えていたら、アデリーナ様がオロ部長に訊く声が聞こえた。


「カトリーヌさん、アシュリンさんはこちらの方向で合っているのですか?」


 うん、それは知りたい。闇雲に森の深部に突っ込んでいる感じがするの。いえ、道を作ったのは私か。


 オロ部長が頷くのが見えた。根拠を口で直ぐに言えないのが欠点よね。寡黙過ぎるわ。


 たまぁに大きめの猪とか頭の角が尖りすぎている鹿とかが出て来ているみたい。みたいって言うのは、私は後ろでのんびり馬に乗っているだけで、オロ部長が直ぐ様に食べているみたいだから。何かが出現する度にグレッグさんが「何々が出たぞ! 気を付けろ!」って教えてくれる。警報器というか、私への説明要員には丁度いい。



「グレッグさん、あなたは冒険者生活が長いので御座いますか?」


 アデリーナ様がグレッグさんに話し掛ける。たぶん、退屈凌ぎでしょうね。

 興味を持って貰えたグレッグさんは喜んで答える。


「グレッグ・スプーク・バンディールだ。一ヶ月前から修行として冒険者ギルドに登録した。冒険者としては、まだまだだな。」


 だから、どうしてフルネームで言うのよ。貴族であることを主張しているのかしら。


「バンディール……。えぇ、存じております。シャールの西方、先の停戦協定で相手国に割譲された近くの土地の方ですね。今のバンディール自体は王国の直轄領で御座いましたね」


 さすが王家の人。姓だけで、どこ出身なのかが分かるのね。もうグレッグが没落貴族って事も分かっていそう。


「……その通りだ。小さな地方名をよく知っている」


 グレッグさん、タメ口ですけど、その人、王位継承権をお持ちの方ですよ。


「私はアデリーナです。バンディールの方なら、シャール伯爵の庇護下で良くして頂いているのでしょうね」



 お互いの名前を改めて伝えて、これから会話という所で、突然オロ部長が尻尾を上げて左右に振る。当然、皆がそっちを見る。

 何かの合図だ。でも、分からないわよ。メモを寄越しなさい。

 私もいつまでも馬の上でのんびりしている訳には行かない。飛び降りた。



「まぁ、オロ部長はアシュリンさんを見付けられたのですね」


 アデリーナ様が私とグレッグさんに説明してくれた。

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