合流
グレッグは邪魔です。まず戦力にならない。森の奥深くには昨日の男達とは比べられないくらい、強い魔物が棲息しているものなのです。
オロ部長と早く合流したいのです。しかし、ここはアデリーナ様がいらっしゃるので、強い言葉で去らせるのも気が引けます。私がお淑やかであるイメージをアデリーナ様にも持って頂きたいのです。
「昨日はありがとうございました、グレッグさん。今日はどう致しましたか?」
とりあえず世間話から。いきなり用件を伝えるなんて無粋な事はしないわ。
「あぁ、メリナか。昨日は悪かったな。今日も角兎の角を採りに来たんだ」
どれだけ角がいるのよ。ギルドはそれを何に使っているのよ!
「メリナさん、こちらの方は?」
「グレッグ・スプ何とかというご貴族の方です。昨晩、男達に襲われた所を助けて頂きました」
「まぁ、それは素晴らしい奇遇でしたね。私はアデリーナです。見ての通り、聖竜様にお仕えする巫女で御座います」
アデリーナ様はグレッグを眺めている。
どうされたのかしら。
「グレッグ様はこの森にお詳しいですか?」
「えぇ、それなりには」
本当かしら。あなたの召し上げられた領地はこの辺りではないでしょうに。
「血吸い大コウモリが出易い場所はご存じですか?」
なるほど情報入手ね!
グレッグに対しては戦力外の認識が強すぎて、すっかりそんな基本のことも忘れていたわ。
「……すみません、そこまでの奥には行ったことが御座いません」
あいつら、そんな奥に棲息するのかしら。私が知っている限りでは、戦鬼とか鬼人が棲む所の手前くらいにいるのよ。確かにグレッグ的には森の奥かもしれないけど。
「そうですか、ありがとうございました。では、我々は先に向かいますね」
アデリーナ様もグレッグの返しから彼の実力を判断したのか、早速、一緒に来るなよオーラを発せられました。
えぇ、魔物の餌にしかなりませんよ、その人は。
「付いて行かなくとも宜しいのですか? 若い女性二人では困ったことも有りましょうに」
グレッグはそう言ってくれるが、私は静かに指で自分の顔を示す。
私がいるから大丈夫って意味よ。
「ぐっ、そうか。メリナか。確かに大丈夫そうだが……」
グレッグは自分の倫理観と実力の合間で悩んでいるみたいね。
「グレッグさん、他言無用でお願いします。私たちには更に心強いお味方がいらっしゃるのです。お見せしますが、他の方には言わないと約束できますか?」
アデリーナ様の言葉にグレッグは頷く。
「では。カトリーヌさん、出て来ていいわよ」
その合図と共に、巨木の上から大蛇が降ってきた。風圧を利用して落ちるスピードを抑制するためでしょう、体を何回も左右にグネグネと曲げた状態で。
バンッと、地面に落ちた時はその大きな体が平べったくなっていた。いえ、飛び降りている時もこんな幅だったから、これも空気抵抗を利用するためね。
ほら、すぐに元のまぁるい長い筒の体にお戻りです。……本当に獣人のカテゴリーでいいの。存分に蛇の機能を堪能されてますよね。
余りに大きい蛇の登場にグレッグは声も出ない。
「こちら、カトリーヌさんです。私の友人です」
アデリーナ様が笑顔で言う。それから、肩掛け鞄をオロ部長に渡す。器用にそれを掛ける部長。肩がないからどうやって持つのかしらと思ったら、紐をぎゅうぎゅうに絞って縛り付けていた。
″はじめまして。メリナの上司のカトリーヌ・アンディオロです。竜の巫女です″
オロ部長がグレッグに渡した紙にはそう書いてあった。巫女って言うか眷属みたいでしょ。巫女って何よとか思ってしまうわよね。正直、何でもありの業界みたい。
「……お、おぉう……」
完全に夢の世界にいるみたいね、グレッグ。圧倒されているわね。
「それでは、ギルドからの依頼、頑張って下さいな」
言い終えて、アデリーナ様が森の奥を指差したので、私は足を進める。
「ま、待ってくれ。いえ、待ってください!俺も護衛で付いていきます」
グレッグ、男気を見せるのはいいのだけど、私はあなたとアデリーナ様なら、アデリーナ様を守るわよ。
アデリーナ様がグレッグではなくオロ部長を見る。
“付いて来ても宜しいですよ。いざと言う時は、私のご飯にもなりますし。これ、冗談”
ちょっ、オロ部長、蛇であることを逆に笑いへ昇華できるメンタルの持ち主だったのね。……ジョークとしては全く面白くないけど。
仲間が増えて、先頭はオロ部長、その後にグレッグとアデリーナ様、馬二頭、そして、殿を私が担う感じで森を進む。
これ、他の冒険者に遭遇することがあれば、間違いなく、誤解されるんじゃないかな。
魔物に先導される若い人間。何かに操られているとか思われても仕方ないわ。




