部長に許可を
穴からオロ部長が這い出てきた。何も知らなければ、とても不気味よ。参拝者の方が立ち寄りそうにない場所で良かったわ。
オロ部長の体は大きいから、私とアデリーナ様は後ろに下がって、とぐろを巻ける場所を空ける。
グルグル体を巻いているのに、私よりも背が高い。感心して黙ってしまいましたが、私は思い出す。先に謝罪しなきゃ。
「部長、お久しぶりです。先日は牙を折ってしまい申し訳ありませんでした。また、氷を口の中に詰め込んだことも失礼致しました」
こんな感じで許して頂けるでしょうか。
オロ部長は蛇の体なのに生えている人間形の腕を使って、紙に文字をさらさらと書く。
“大丈夫ですよ。牙はまた生えてきます。ご安心ください。で、今日はどうしましたか?”
お優しい! この人の下で良かったです。
早速、私は用件を伝える。
「アシュリンさんが昨日から森に入って戻って来ないんです。その状況をお伝えしたかったのと、もし許可が頂けるなら様子を見に行かせて頂きたくて、訪問致しました」
許可が出なくても森に行く予定だけどね。アシュリンさんがいないと、あの小屋で一日、時間を潰すだけになっちゃうし。
私の言葉を聞いて部長はまたスルスルと文字を書く。
“OK! 私も行くね”
何か、最後は可愛らしい蛇の絵まで描かれてる。部長、オチャメだ。そして、アシュリンさんが森に入ったままなのに、全く心配してない。
「宜しいのですか、部長?」
とは言え、私は懸念がある。
「メリナさん、カトリーヌさんが御許可を出されたのですから二度も訊く必要はないでしょう」
アデリーナ様が私を嗜めるように言う。二回も同じことを言わすなってヤツですね。本で読んだことがあります。偉い人になる程、この言葉が好きで、そして、大体、そういう人は厳しいらしい。
アデリーナ様の部下の人は大変ね。
しかし、私はそこを確認した訳じゃない。
「その……、そのお姿では道中で魔物と間違えられるのではと思いまして……」
言いにくいけど仕方がない。
冒険者が森でオロ部長と遭遇したら、間違いなく魔物だと思うわよ。森どころか、途中の街道でも見廻り兵に見付けられ次第に襲われるわよ。
「メリナさん、大丈夫です。カトリーヌさんは地中に自分の道を張り巡らせているのです。森までは誰にも見つかることはないでしょう」
アデリーナ様の言葉にオロ部長はちょこんと頭を下げて、たぶん首肯いた。
“森に入って、しばらく行った大きな木の所で待っています”
地図まで書いてくれたよ。うん? 昨日、角兎を捕らえた所の近くだね。たぶん。
「分かりました。では、今から向かいます」
方針が決まったので、私は居ても立っても居られず、駆け出しそうになった。それをアデリーナ様が止める。
「お待ちなさい。馬車を出しますね。食料等も必要でしょう」
おぉ、流石、アデリーナ様。私は気付きませんでしたよ。
オロ部長はもう穴に戻って行った。森に向かうんだろうな。
私はアデリーナ様が寮の前に用意した帆付きの馬車に乗り込む。二列シートでこじんまりとしたものだ。私は御者なんて出来ないので、勿論、後ろの席。
最後尾は簡単な荷台になっていて、小さめの樽だとか小箱だとか後ろの方に置かれている。開けてみたら、水とお酒と食料だ。量が多くて、これはちょっと大げさ過ぎるかもしれない。
……お酒は少しだけチャレンジしてみるかな。
「アデリーナ様、ありがとうございました! では、出発したいと思うのですが、御者の方はどこにいらっしゃいますか?」
「えぇ、もう来てますわよ」
アデリーナ様は黒い巫女服のまま、前のシートに座る。
まさか……ご一緒に行かれる?
「メリナさん、私はスピード狂なの」
今、このタイミングでそんな事を言われると、とても怖いです。アデリーナ様は特に無茶をしそうなので、より一層です。
でも、ただ自分の趣味を唐突に語っただけかもしれないので、やんわり確認してみましょう。
「アデリーナ様、お仕事の方は宜しいんですか?」
「あら、私も少しばかりはアシュリンを心配しているのよ。なら、アシュリンの救出の方が仕事よりも大切でしょう?」
いい笑顔。でも、それ、本心じゃなくて楽しそうだからじゃないの?
「それにメリナさんがどこまで出来るのかを、この目で見たいのです。昨日の話ですから分かりますよね?」
……すみません、全く覚えてないです。
ただ、私の実力を新人担当として見ておかないと行けない事情があるんですね。
それにしてもアデリーナ様がアシュリンさんをご心配されるなんて。個人的なお知り合いだったのかしら。
結論としては来るのね。
でも、アデリーナ様の直々にアシュリンさんを助けに行きたいとの気持ち、とても嬉しいです。
だから、このメリナ、その想いに全力で応えさせて頂きますっ!




