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お酒

 まだアデリーナ様から退出の許可が下りないよ。



「じゃあ、私のお願いを聞いてもらったようだから、メリナの方からも何か望みはないかしら?」


 お願いっていうかほぼ命令でしたよね。拒否権はないとか断言してましたし。


 でも、良い機会だわ。

 あまり印象は良くないけど、騎兵のマンデルのおっさんの願いを叶えましょう。



「聖竜様にお言葉を届けるにはどうしたら良いでしょうか?」


 グラスの底を上に向けるくらい、豪快に飲んでいるアデリーナ様に訊く。


「えー、お告げが来た時に、序でに伝えられることは出来ますよ」


「私、お告げが来ないんです」


「ギャハハハ、何、メリナ! あなたは嘘を付いて神殿に入った口なの?」


 巫女になる条件は聖竜様からのお告げを聞いたことが有るっていうのが条件だからか。


「いえ、昔は聞こえたんですよ。でも、最近は全然お会い出来ないのです」


 私の言葉にアデリーナ様が引っ掛かる。


「お会い?」


「あっ。いえ、夢の中の話です」


「ふーん」


 何ですか、アデリーナ様。善からぬ事を考えていそうなお顔をされていますけど。



「メリナ、お酒よ、お酒ですよ。古来よりドラゴンはお酒が好きなのですよ」


 えぇ、そう知っていますが、聖竜様をドラゴン呼ばわりするのは抵抗があります。

 あと、微妙に口調を変えて来たのが気になるわ。何を仰るつもりなのかしら。


「御供えが必要でしょうか?」


「それは礼拝部とかが行っていますわね。だから、メリナは用意しなくていいのです」


 なら、何よ?


「ほら、巫女はドラゴンへの贄にも成り得ますよね」


 それは、別のドラゴンの話でしょ。

 古典的な騎士物語でよく出てくるパターンじゃない。お姫様が選ばれたり、拐われたりして助けに行くヤツ。


「メリナがお酒を飲んで、贄になればいいのではないのでしょうか? ってか、お前も飲めよ!」


 言い終えて、ゲラゲラ笑うアデリーナ様。王家の人って笑い声には品が無いのかしら。



「……だとすると、私は将来アデリーナ様のお役に立てなくなりますね」


「いいわよ。その時は他の人を見付けるから」


 ですよね。私程度なら他にも準備出来ると思います。


「ささっ、早速どうぞ、どうぞ」


 アデリーナ様が私のグラスを手渡してくれる。この人、ただ単に一緒に飲んで欲しいだけじゃないの。


 私は抗えず、一気に飲み干す。

 苦いなぁ。頭が痛くなりそう。いえ、何やら頭がぼんやりしてきて、ふわふわするわ。

 あと、お腹が空きました。

 




「アデリーナ様、腹減った」


 目の前の、何だっけ、さっきまで覚えてたんだけどな。まぁ、いいや。目の前の人が少し驚いているなぁ。でも、構わないや。


「腹減ったから、何か出してよ。お金はあるんだろ?」


 うん、お金ありそうな部屋だもの。


「ちょ、メリナさん、お酔いになられるの早くなくて?」


 うるさいなぁ。私の名前をどこで知ったの。何でもいいから早くしてよ。ペコペコなのよ。

 もう自分で探すよ。



 私は食べ物がありそうな棚をガサゴソする。


 あるじゃん、パン。

 かぶりつく。美味しい。甘い何かが表面に塗ってある。



「……メリナさん、もうお終いにしましょう。まさか、お酒にお弱いとは思ってなかったの」


 うるさいなぁ。本当にうるさい。

 あんた、誰よ。


「喉、乾いた」


 うん、机の上にボトルあるじゃん。

 これ、飲もっと。ちゃんと開いてある。親切な人もいたものね。


「ちょっ! メリナさん、それはお酒ですよ。もう止めた方がいいわよ」


 私はうるさいのを目で制す。

 コップに移すのもメンドーね。ラッパ飲みよ。



「ぐっは、何これ!? まっずっ」


 思わず、部屋に吐き出す私。


「さっきは癖になるとか仰ってましたよ、メリナさんが!」


 言うわけないじゃん。アホなの?

 慌てて床を拭く、目の前の人を尻目に私は水を探す。


 無いかぁ。棚にあるのはさっきと同じような瓶しかないや。



「まさかメリナが酒乱だったなんて。ひゃー、どうしましょう!?」


 あら、こんな所に困ってる人がいるわ。どうしたのかしら?


「どうなされたのですか? そこの金髪の人」


「き、金髪の人? 私?」


 そうだよ、お前だよ。お前しかいないだろ。


「そうそう。何か困ってんの?」


「……えぇ、いきなり、お酒を吹き掛けられて困惑しているわ。初体験よ、こんなこと」


 見れば、確かに服が所々赤い。何て酷いことをする奴がいたものか。怒りがふつふつと沸いてくるわ。


「許せない。私がやっつけて上げる!」


「いや、あなたよ! メリナ、あなたがやったのよ!」


 私?……私なの?……覚えは…………ないな。



 立ち尽くしていた私に、服を汚している人が水差しを持ってきてくれた。

 なんてお優しい! 私は感動したわ。

 グビグビ飲ませて頂きますっ!




 しばらくして気を戻した私は土下座していました。


 アデリーナ様はひきつった笑顔だったけど、大丈夫なのかしら。私、明日には死刑になっていないよね。


「メリナさん、聖竜様への伝言なら礼拝部にお願いしなさいね。あと、お酒はすみません。二度と勧めませんわ」


 えぇ、ありがとうございます。そして、深くお詫び致します。先程の粗相をお許し頂きまして、このメリナ、感謝に耐えません。

 あと、お酒は美味しくなかったけど、何か気持ち良かったです。

 今度からは一人で飲みますねっ!

飲んだお酒はブランデーっぽいのをイメージ下さい

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