表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/421

街に戻る

 街の門前に着いて、マンデルのおっさんが歩いていた兵隊さんに声を掛ける。


「すまない、襲われていた巫女様を保護した。すぐに街へ入りたい」


 事情と要件を短く伝えて、兵隊さんを連れて門に行く。グレッグさんも馬を徐行させながら、そちらへ向かう。


 もう完全に夜。星が綺麗。なので、街へ入るための壁門は閉じて、武器を持った衛兵が立っている。門前の一帯は広場になっていて、貧しい人が主だけど、少なくない人数が適度に距離を取りながら朝の開門を待っている。


 その状況で私のために門を開いて貰うのは気が引ける。



 私は前を進むおっさんにそれを伝えるために、動いている馬を降りる。馬の背に立って、ピョンとジャンプ。

 グレッグさんの咎める声が聞こえたけど、まぁ、いいわね。


「これだけ待っている方がおられるのです。私だけ特別と言う訳には参りません。決まり通りに門が開くのを待ちましょう」


 おっさんのリーチに届かない所で私は言う。警戒は絶対に解かない。って言うか、そんな素振りを見せた瞬間に殴ってやる。


「おぉ! 流石で御座います! 巫女様の御心は清浄なるシャールの湖よりも透き通っておられるかの様。そのご配慮、このマンデル、全身で感動しております!」


 全身とか言うな。気持ち悪いわ。

 あなたは喋らなくていい。全てが私に跳ね返って来そうなの。精神的ダメージが凄いのよ。


「しかし、ここは我らに従って頂けませんか。このマンデル、必ずや、あなたを助けると誓ったのです。この胸に」


 分厚い胸板ねと第一印象のままなら思ったわよ。今はその胸の奥の臓が潰れないかと期待するくらいです。


「メリナ、従った方が良い。この兵の方々にお前の護衛という無駄な仕事をさせることになる」


 無駄って、グレッグさん。……うん、そうね。

 私に護衛は必要ないけど、兵隊さん達はそうしそうね。

 それは門兵さんの本来の仕事じゃないし、マンデルのおっさんが見廻りの仕事に戻るのを邪魔することになる。結果、善良な誰かが不幸になるかもしれない。


「おぉ、そうで御座いますな! 巫女様の一晩の護衛と言うのも感激で御座います!」


 えぇ、早く神殿に戻った方がいいわね。



「分隊長マンデル始め、ここまでご苦労でした。我々はあちらの門から街へ入ります。また、お会いしましょう」


 グレッグは離れた所に有る豪華な壁門を指して私に行き先を教える。それに対して私は、さっきの門と何が違うのかと、グレッグを見た。


「貴族用の門だ。あっちは夜でも開いている」


 まあ、お貴族様は違うのね。門兵さんの格も違うようで、長身の人が揃っている。


「了解です、グレッグ様! 後は宜しくお願いします」


 マンデルはやはり優秀か。任務には忠実で、ここは素直に退くのね。


「巫女様、次は是非私の自慢の馬にお乗り頂きましょう。白馬も用意できますぞ。それでは、また!」


 絶対に乗らない。鳥肌しかないわよ。アシュリンさんでも乗っけて下さいな。



 グレッグに連れられて門を(くぐ)る。また、ペンダントを見せていた。それが貴族である証明なのかしら。



 神殿までは道が分からないけど、誰かに訊けばいいか。と思っていたら、グレッグが案内してくれた。


「あなたも早く家に戻らないとご家族や家来の者が心配するのではありませんか?」


「そうかもな。しかし、年老いた執事と給仕が一人ずついるくらいだ。それに俺も心配される歳じゃない」


 あら、家族を挙げなかったっていう事は母親もおられないのかしら。でも、さっきのお父さんと同じく気の毒な話に成りかねないから触れないでおこう。


「今日は為になった。明日からの鍛練に身が入ると思う」


「そうだといいですね」


 私はスードワット様にお願いするという目標が出来たわ。


「角兎についても助かった」


 あぁ、そうだったわね。もうギルドは閉まっているのかしら。

 私が訊こうとすると、先にグレッグが答える。


「ギルドは神殿の近くにあるんだ。お前を神殿に送った後に行く」


 あら、そうなのね。お手数ありがとうございます。


「それは奇遇ですね」


「あぁ、そこはな、寂れたギルドなんだ。だから、俺が一人で依頼を受けても余り目立たなくて良い」


 寂れたギルドって。あなたの所属先でしょうに。もう一つも気になる。


「一人で? 仲間を募られては?」


 グレッグ一人なんて、いずれ依頼先で死ぬわよ。野犬の群れにも間違いなく勝てないんじゃないの。翌日には骨も残ってないわよ。頼りになる味方を早く見つけるべきよ。


「俺は曲がりなりにも貴族なんだ。だから、庶民とは組めない」


「そんなこと無いでしょうに。能力に貴賤はないと思いますよ」


 お母さんの強さは半端ないわよ。


「クハハ、そうだな。メリナがそうだしな。だが、俺は貴族だ。庶民を守る側だ。それに下手に他の貴族に見つかると、家に迷惑が掛かる」


 角兎の角を採るのはどうなの。修行ということで誤魔化せるのかしら。貴族なら竜の角とかユニコーンの角とかの方が絵になるんじゃないかな。



「領地はないのですか?」


 私は訊いてみた。答えは凡そ分かっているけど。


「……なくなった。三年前の戦争で国に取り上げられた。要衝の地だったようだ」


 でしょうね。お金がない上に、シャール伯爵領に家があるようだから。三年前に戦争があったのは知らなかったけど。


「着いたぞ」


 グレッグが教えてくれる。

 大体の景色で神殿に近付いていると感じていたけど、夜は雰囲気が違うのよね。案内してもらって良かった。迷子になるところだったわ。


 私は礼を言ってグレッグと別れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ